今更ながらの正式装備
先日、Twitter上にて「#うちの描いてみませんかキャンペーン」を募集したところ間主まぬこ様に一枚描いていただいたので、掲載させていただきます。
黒雨の記憶を探ったあの日から早三日がたった。
この日まで小さな事で何度か出撃したものの、クライシスや民間兵の大きな動きはなかった。
そんな今日は沙織さんに呼び出されて、学校帰りに基地のチームルーム来ていた。
「急に呼び出して悪かったわね。」
「いえ。でも、何かあったんですか?」
そう質問をすると沙織さんは俺の目の前のテーブルに大きな武器ケースを置いた。
「開けてみて。」
「は、はあ。」
沙織さんに言われ、恐る恐るそのケースを開けると中にはアサルトライフルだと思われる銃が入っていた。
「…これは?」
「M4よ。室内での近接戦闘をしやすいようにバレル部を短くするCQBカスタムをしてあるの。ハンドガードは四面レールシステムを採用してあるから、レーザーポインターなどの光学機器やグリップなどを装着できるわね。ついでに今はドットサイトを標準器として取り付けてあるわ。あ、勿論対クライシス用カスタムはしてあるからね。」
「それで、この銃がどうかしたのですか?」
「これは、その…今更だけどあなたと黒雨の正式装備よ。」
沙織さんはそう言うともうひとつ同じ武器ケースをテーブルに置いた。
「武器なら弘から貰った89式がありますが。」
「ああ、あれはプライベートの隠し武器として家で保管してちょうだい。これからあなたと黒雨は潜入員としてこの銃を使ってもらうわ。ペアで同じ武器を持っていれば弾薬共有もできたり何かと楽だからね。」
「たしかに、そうですね。」
俺はそのアサルトライフルをケースから取り出して構えたりしてみた。
さっき沙織さんが言っていたように近接戦闘特化のためバレルが短く、狭い通路などでも取り回しがきくだろう。
「なんでもっと早くから用意しなかったかって思ってるか?」
後ろから朧丸が聞いてきた。
「たしかに、用意するならもっと早くにするはずでは、ってくらいは思ってるけど……。」
「まあ、あれだ。ただ単純に忘れていただけだよ。俺たちは一般戦闘員とは違ってあまり武器の統一とかは深く気にしていないからな。一昨日あたりに司令官に突っ込まれて至急用意したって訳だ。なんかすまんな。」
朧丸は苦笑いしながら言った。
司令官とは医院長の事だろう。
「いや、言われてでも用意してくれただけでうれしいよ。」
「司令官から貰ってた銃の購入予算が結構余ってたから、ついでにハンドガンの方もペアで用意したわ。」
沙織さんはそう言いながら俺と黒雨にさっきより小さな武器ケースを渡した。
中にはグロックだと思うビジュアルの銃が入っている。
「銃の名称はグロック18Cよ。カスタムは対クライシス以外は特にしていないわ。あとこれを渡しておくわね。」
今度は短い筒と長い筒の2種類の黒い筒を渡してきた。
「えっと、これはなんですか?」
「サイレンサーよ、対クライシスカスタムされた銃専用のね。短いのがハンドガン用、長いのがアサルトライフル用よ。」
「サイレンサーなんて必要ですかね? 人に撃つなら麻酔銃もありますし。」
「クライシスに対してもスニーキングに行動しなきゃダメなときが結構あるから必要よ。それに──」
沙織さんはポケットから青色の銃弾を出して俺に見せてきた。
「あの研究・開発室でなにやら対クライシス用のカスタムした銃にそのまま装填できる対人用で非殺傷の銃弾を開発したみたいなの。これによって一人も殺さない戦闘をめざした対人戦も楽にできる様になったから、サイレンサーはあれば便利よ。」
「そういうことでしたら納得です。」
作ったのはあの岡本博士なのだろうか。機械だけではなく、戦闘スーツや各装備品にこういう特殊な銃弾までも作っているのか。
「あと、これなんだけど……。」
今度はなにやらブーツだと思われる物が沙織さんの手元にあった。そのブーツの見た目は、膝のあたりで長さのあるミリタリーブーツって感じだった。
「それは、ミリタリーブーツ?」
「ええ。私達が戦闘時にはいている靴の長いバージョンね。」
「それは誰に?」
「黒雨によ。研究・開発室の人が戦闘時にもあの草履じゃあ何かと不便だろうからって作ってくれたみたい。」
沙織さんはそう言いながら黒雨にそのブーツを渡した。
「質もかなり良さそうですね。」
「そうね、見たところ素材はかなり良い物を使っていると思う。一応ミリタリーブーツなわけだし、使い勝手もいいんじゃないかしら。
黒雨はそれを受けとると、不慣れな手つきでブーツを履いていた。
「履いた感じはどうだ?バッチリか?」
俺が質問をすると黒雨はだまって頷いていた。
まあ、たぶん大丈夫だろう。
それにしても、巫女装束にミリタリーブーツとはなかなか似合わなくはない気がする。
一段落終えて俺は渡された銃の点検をしながら軽く休憩をすることにした。
「そう言えば対クライシス用カスタムってよく言いますが、したものとしてない物では何が違うんですか?」
俺がそう聞くと朧丸が答えてくれた。
「そうだなあ、ザクッというなら火力が変わるって感じだな。対クライシスカスタムとは銃内部というより、正確には銃弾のほうがカスタムさるているんだ。」
「そうなのか?」
「ああ。対クライシス弾は特別な科学発火材を使って作られてるから物凄く高威力なんだ。銃はその火力に耐えれるようにスプリングなどパーツを強硬な物に取り替えている。それが銃の対クライシスカスタムって訳だ。ついでに弾丸自体も普通のとは形が少し違ってとげとげしい形をしている。これはカスタムをしていなくても同じなのだが、これをする事によって貫通性が増すらしい。」
「それで、火力はどのくらい上がるんだ?」
「そうだな。本当に例えなのだが、カスタム前の物がコンクリートを破壊できる火力の銃だったとして、それを対クライシス用カスタムをすれば数世紀前の戦車なら一発で破壊できる程度の火力までにはなると言われている。」
「まじか……。」
そんなに重火力なのにクライシスには普通の武器程度にしか効いていないと思うと、改まってクライシスの恐ろしさを考えさせられる。
「ぶっちゃけ、そのくらいの火力が出せれば別に対クライシス用カスタムなんてする必要がないんだが、そうなれば武器事態のサイズがデカくなるからな。それで対クライシス用カスタムのパーツの方が従来の銃に取り付けられるメリットがあるから楽なんだよ。」
まあ、確かに真っ当な理由だ。楽に越したことはない。
「まあ、なんとなくだがカスタムについては理解したよ。」
「ならよかった。今のところ出撃もなさそうだし、武器の使い心地でも試してきたらどうだ?」
「そうだな、そうしてこようかな。」
それから俺と黒雨は戦闘スーツに着替えて、市街地訓練所へと向かった。そこで銃の使い心地を確認するのだ。
この市街地訓練場には定期的に来ることにしているのだが、出撃の少ないここ最近は毎日来ている気がする。
俺と黒雨がここでやっている訓練は、ランダムに配置される人型の的50体を制限時間内に倒してチェックポイントまで行くというものだ。
人型の的には2種類あり、1つが兵士の絵柄が書かれた的。
その的には銃が付いていて、的の付近で黙っているとペイント弾を撃ってくる。そのペイント弾を一発でもくらってしまうと訓練は失敗で、再開するなら一からやり直しとなる。
そして、もうひとつの的が民間人の絵柄のものだ。
逆にそれを撃ってしまうとペイント弾同様にその場で訓練は失敗となり、再開時は一からとなる。
更にチェックポイントへ行くまでには垂直降下をする場所などもあり、様々なシチュエーションの訓練もできるメニューとなっている。
「さて黒雨、準備はいいか?」
俺がそう聞くとアサルトライフルに訓練用の模擬弾薬を装填しながら頷いた。
「よし、訓練スタート!」
スタート位置に立つと自動的に訓練は開始する。
スタートして最初に待ち構えているのは廃工場をモチーフにした建物だ。
実際に相手が奇襲を仕掛けてきそうなポイントにランダムで的が5体配置されている。
黒雨は左、俺は右と互いに役割を分担して歩きながら的を探して繁喜した。正直、歩きながらの射撃にはまだ慣れていない……。
そこを突破すれば今度は学校をモチーフにした建物の中につく。そこからは民間人の的もあるので、よく見て迅速に撃たなければならない。
実戦なら勿論誤射は許されないし、もし非殺傷でない通常弾薬で撃ってしまうと対クライシス用のカスタムの銃弾なのだから悲惨な事になるだろう。
学校をモチーフにしたフィールド内の的を15体を倒して奥へと抜けると、高いビルの屋上のようになった場所に出る。
そこは、装備品として持ち歩いている垂直降下ロープ使って地上に向かいながら、ビルの中に配置された的5体を正確に撃たなければならない。
いまだに垂直降下になれていない俺には少しきついシチュエーションだ。
もしもここで的を撃ちもらしたら、後で別のエリアに加算される。
そして、なんとかここをクリアして地上に到着すると最終エリアのビルに向かう一直線の道路がある。
その道路には数台の車が設置されていて、その車を盾にする様に的が5体設置されている。
俺と黒雨は的がペイント弾を撃ってくる前に次々と打ち倒して進んだ。
それを突破したら最後のエリアとなっている5階建ての小さなビルだ。
各階に残りの的が均等になるように設置されていて、それを全て倒して屋上のヘリポートへ行けば訓練は終了だ。
正直言って、最終エリアのわりには今までで一番楽な場所ではある。だが、
俺達は油断をせず最後まで気を引き締めて屋上へと向かった。
「訓練終了よ。なかなかできるようになったじゃない。」
ヘリポートへ到着すると沙織さんが無線でそう言った。
「ありがとうございます。」
俺と黒雨は最初の頃に比べれば断然に戦闘技術は高まっている。
しかし、なるべくは人殺しの為には使いたくはない技術だ。
「黒雨、チームルームに戻って休憩しよっか。」
俺はそう言って黒雨と一緒にチームルームへと戻った。
チームルームに戻ると沙織さんが真っ先に声をかけてきた。
「お疲れ様、上達したわね。」
「いえ、沙織さんこそ訓練のオペレーターに付き合っていただきありがとうございます。」
俺はそう言って軽く頭を下げた。
「いいのよ。それより二人とも休憩したらどう? テーブルにさっき弘が差し入れで持ってきたお菓子があるわよ。」
沙織さんがそう言うと黒雨は真っ先にテーブルに駆け寄った。そして手前に置いてあるクッキーの箱を開けて中を覗いた。
「ははは、黒雨はお菓子好きなのか? その見た目で少し意外だな。」
弘は黒雨のお菓子に対するの反応を見て小笑いしていた。
「そうみたいだな、俺も知らなかったよ。」
俺がそう言った瞬間、基地の警報が鳴り出した。
ウー! ウー!
「緊急事態発生。街に未確認の超大型クライシスが出現しました。特殊戦闘員は直ちにブリーフィングを行い、出撃準備をしてください。繰り返します──」
「皆今の聞いたか?」
朧丸は椅子から立ち上がって言った。
「ああ。それにしてもなんなんだ、未確認の超大型クライシス···?」
俺は警報のランプを見て言った。
今回は何だか胸騒ぎがいつもよりする。
何もなく終われば良いのだが。