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怖い夢?


 緊急で招集された人命救助は無事に終わり、救助した人たちを医療棟の人たちに引き渡した。

 その後、俺たちは基地に帰還してチームルームで休憩していた。


 ちなみに、外の方ではここの基地に迫っていたクライシスの制圧を無事に成功することができたらしく、その後片付けが行われている。


「みんな、今日は朝から夕方まで大変だったわね、お疲れ様。」


 沙織さおりさんがチームルームに入って言った。


「何とかって感じだよ。最後の常田ときたの行動には驚かされたけどな。」


 朧丸おぼろまるは笑いながら言った。


「勝手な行動したことは謝るよ…。」


 俺は頭を下げて言った。


「いや、いいんだ。あのまま黒雨くろさめを見捨てるよりは全然いいだろ? 結果としては成功したんだし、ここにいる誰もお前を攻めたりはしないよ。」


 朧丸の言ってる事には頭が上がらない。

 実際、黒雨を助けに行くように鈴鳴すずなが言わなければ、あのまま固まっていたかもしれない。


「そうだな。…ありがとう。」


 俺は立って2人に頭を下げた。


「気にするな。」


 そう言って朧丸はコーヒーを一口飲んだ。


「ところで常田、1ついいかしら?」 


沙織さんが改まって質問をしてきた。


「なんですか?」


「いい加減、これをあなた達に渡しておこうと思って。」


 すると沙織さんは何かのカードを2枚渡してきた。


「…これは?」


「それはあなたと黒雨の、キャッシュカードよ。」


「キャッシュカード…?」


「そう。あなたは黒雨かのじょを救うために急遽P.K.D.Fに入隊する事になった訳で気にはしてなかったとは思うけど、P.K.D.Fはボランティアではないのよ。命を懸けて戦ってもらう…仕事というか国の組織なの。要するに昔あった自衛隊みたいなものよ。」


 なるほど…お金になるなど全然考えた事がなかった。

 沙織さんが言ったようにあの時の俺は黒雨を助けることだけを考えていたし、ここに来たのもその縁だと思っている。


「そうだったんですね。」


「ついでにそのお金…まあ、お給料だけど、P.K.D.Fは活動毎に給料が加算されるの。さらに厳しい任務になれば、その分の給料は多く貰えるわ。あと私たち特殊戦闘員は一般戦闘員より給料が少しだけ高いのよ。その分、(おもて)にはない厳しい仕事がまっているけれどね。」


「そうですよね。…ついでに今、いくら位入っているんですか?」


「あなたも黒雨も30万円くらいね。」


「既にそんなに入ってるんですか。何をして入ったお金ですか?」 


 個人的にはまだ今日が初任務だとして30万は高いと思った。


「まず、給料はあなたが正式にP.K.D.Fに入隊したときから加算されているわ。つまり特殊戦闘員に入ってからよ。それで賃金の獲得内容だけど、初任務で10万。さっきの人命救助で20万ってところかしら。それを多いか、少ないかを思うのはあなた次第ね。」


「ですよね。」


「でも、これだけは忘れないで。」


 急に沙織さんの表情が変わった。


「なんですか…?」


「私たちはお金で動く傭兵なんかじゃない。金額で動くような真似は決してしないで。お金は人をも変えてしまう力があるからね。今まで通りお金の存在なんて考えないで活動してちょうだい。」


「了解です。」


 俺がそう言うと、さっきまでの沙織さんの表情に戻った。


「さて、私は今までの活動報告書を整理しておくわ。後は自由に動いてかまわないからね。何かあったらまた電話するわね。」


 そう言うと、沙織さんはチームルームを出ていった。


「沙織はな、金持ちが嫌いなんだ。」


 朧丸がボソッと言った。


「…何で?」


「聞いたことがあるとは思うが、クライシスから身を守るためにある避難シェルターには金持ちしか入れない国が用意した最高の避難シェルターがあるんだ。そこに入れる者は国に…P.K.D.Fに一定金額以上の資金を提供している金持ちだけなんだ。」


「そう言えば昔、医院長がそんなこと話してたな…。」


「理不尽だよな…。命に関わる話だってのに、結局は金に振り回されてるんだよ。沙織はそいうのが理由で金持ちが嫌いなんだよ。」


「そうだったのか…。」


 沙織さんがそんな事を思っていたなんて知らなかった。

 俺自身はそんな事、今まで気にしたことなんてなかったしな。


 俺はしばらくその金持ちの事を考えながらも、一旦家に帰る準備をした。


「そんじゃ、俺は一旦家に帰るよ。」


 準備を終えた俺は黒雨を連れて帰る事にした。


「おう、気をつけてな。」


 朧丸はそう言いながら軽く手を振った。


 チームルームを出てエレベーターに乗ると、今日の出来事を振り返った。それから黙って腕時計を見ると、時刻は19時をとっくに上回っていた。


「黒雨、お腹空いただろ?」


 俺がそう聞くと黒雨は自分のお腹をなでながら頷いた。


「帰ったらなんか作るよ。」


 俺はそう言って黒雨の頭をそっとなでた。



 家に戻ると、まずはシャワーを浴びる準備をした。

 今時の水は安くはないため風呂というのは温泉施設などの公共施設以外ではほとんど使わない。そもそも家に風呂があるのは金持ちだけだろう。

 勿論、シャワーがある家だってそんなに数多くはない。


「よし黒雨、先にシャワー浴びていいぞ。その間に飯作っとくから。」


 俺はそう言い黒雨をシャワールームに連れて行った。


「その、身体は自分で洗えるよな?」


 少し不安だったから質問してみると黒雨はコクンと頷いた。

 それにはなんとなく安心だ。


「水はなるべく節約して使ってくれよな。」


 それから黒雨がシャワーを浴びているうちに、急いで食事の支度をした。


 食事の支度が終わった頃に、タイミング良く黒雨も脱衣場からとことこと歩いてきた。

 脱衣場から出てきた黒雨は赤い袴ははいておらず、白衣一着のままで、髪も濡れたままだった。

 その姿見た俺は軽く吹いてしまった。


「……黒雨。」


 俺は苦笑いをしながらも脱衣場にある棚からバスタオルを持ってきて、黒雨の髪を拭いてあげた。

 特に黒雨は抵抗をしなかったためスムーズに拭くことができた。


 髪を拭き終わると今度は脱衣場に置き去りになっていた赤い袴を持ってきた。


「ほら、これも身に着けなきゃだめだよ。」


 俺がそう言うと黒雨は申し訳なさそうな表情をして頷き、その袴を身に着けた。


「よし、食べ物や飲み物は台所に用意しておいたから、先に食べてていいぞ。今度は俺がシャワー浴びてくるからな。」


 そう言って俺は脱衣場に入っていった。




「ふいー、さっぱりしたな。」


 シャワーを浴びると風呂ほどではないが、疲れが染み出てくる。

 服を着て台所に戻ると黒雨が椅子に座ってお茶を飲んでいた。

 まだ食べ始めてはない様子だった。


「もしかして、待ってくれたのか?」


 そう聞くとほのやかな笑顔と共にコクンと頷いた。


「ありがとうな。それじゃ、食べようか。」


 いつか黒雨が喋れる様になれば、食事も賑やかになるのだろうか。

 そう思いながらも俺は食べ始めた。




 それからだいたい一時間後、いろいろとあって疲れた俺は寝室としている和室に二人分の布団を敷くと、さっさと寝ることにした。


「黒雨、おやすみ。」


 そう言って部屋の照明を消した。


 布団に潜ってからふと思った。

 これから俺は生死が危うい生活を送ることになる。今みたいな時間はもっと減るかもしれない。

 だから、少しでも戦闘のない時間は平和に生きていきたいと。




 あれから何時間がたったのだろうか。

 時刻はだいたい丑三つ時だった。何気なく目が覚めた俺は黒雨の方を見た。すると黒雨は奇妙なことに座っていた。


「……黒雨?」


 俺が名前を呼ぶと黒雨はゆっくりと俺の方を見た。

 黒雨の顔はいつも以上に元気が無いように見える。


「どうした、寝れないのか?」


 俺が聞いても何も反応はなかった。


「怖い夢でも見たのか…?」


 そう聞くと、間はあったものの頷いた。


「……大丈夫、ここには俺とお前しかいない。今は何も怖がらないで寝ていいんだぞ。」


 黒雨が何を考えて、どう思っているのかなんて俺には分からない。

 しかし、そんな彼女だからこそ変にかまいたくなる。


「それじゃ、おやすみ。」


 俺がそう言って布団に潜ろうとすると、黒雨は目を閉じてギュッと俺に抱きついてきた。


「!!?」


 その公道に目が一気に覚めてしまった。

 一方で、黒雨は俺から離れようとはしなかった。


「…今日は一緒に寝るか?」


 黒雨は目を閉じたまま頷いた。

 俺はそのまま自分の布団に黒雨を入れると朝まで寝ることにした。


 黒雨はとても安心したように眠っている。

 それにしても怖い夢とはいったい何なのだろうか。


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