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避難所爆撃


 俺と黒雨くろさめがチームルームへ到着すると、そこには沙織さおりさんだけがいた。


「待ってたわ、常田ときた黒雨くろさめ。至急小会議室へ行ってちょうだい。皆はそこであなた達を待っているわ。」


 沙織さんにそう言われると会議室へと駆け足で向かった。

 会議室の中に入ると沙織さんの言った通り既に朧丸おぼろまる達がいた。


「おおう、来たか。そこの椅子に座れよ。」


 ひろしはそう言うと近くにあった席を指差した。

 俺と黒雨は顔を合わせてから言われるがままにその椅子に座った。


「さて、緊急ブリーフィングを始めましょう。」


 椅子に座って直ぐに沙織さんも会議室に入ってきた。


「始めてくれ。」


 朧丸がそう言うと沙織さん軽く頷いた。


「では、まずは状況の説明からするわね。まず、時間は私達が常田と黒雨の初任務兼チームの実力テストを実施している最中までさかのぼるわ。同時刻、街の方では大量のクライシスが出現していたらしいの。それで、つい一時間くらい前まで一般戦闘員が交戦していたみたいだけど、どうやら押さえきれなくなったらしいね…。大きな被害としては隣の地域の避難所が一カ所襲われたそうよ。」


「そんで、俺たちは何をするために集められたんだ?」


 弘がそう言うと沙織さんは各席のテーブルモニターに何かの画像を映した。


「その事なんだけど、この画像を見てくれないかしら。」


「これは…航空写真?」


 朧丸がぼそっと言った。

 どうやら映し出された画像はどこかの施設を上空から撮影したもののようだ。


「その通り。ここから一番近い隣の地域の避難所を30分前に上空から撮影した写真よ。それで、ここがさっき言った襲われた避難所なのよ。中ではクライシスが無法地帯になっていて手がつけれないらしいわ。」


「大丈夫なのか?」


 弘のその言葉に沙織さんは首を横に振った。


「それで、今から約15分前にその避難所を管理する地域の一般戦闘員らが、その避難所に向けて無差別爆撃をする事を発表をしたの。」


「み、民間人は!?」


 俺は無差別と聞いて驚いた。


「表の情報では、そこに避難してた民間人はここを含めた付近の避難所に全員移動したことになってるわ。…でもこれをみて。」


 するとさっきの航空写真の色がモノクロな画像に変わった。


「これは…?」


「これは無人航空機(UAV)に装備している特殊なカメラで、人間のみを白で表示する赤外線カメラを使って撮影したものよ。」


「ってことは白い点は人って事ですか?」


 俺はモニターを指差しながら質問をした。


「そうよ。いろいろ分析した結果では、この避難所の中には4人の生存者が取り残されているわ。」


「ほほお……。」


 朧丸は驚いた様な口調で相づちをした。


「身元についてなんだけど、一人は予想がついてるわ。」


「誰なんだ?」


 朧丸が腕を組ながら質問した。


「私達のいる基地の一般戦闘員のどこの部隊かは分からないけど、その部隊の女隊長が単独で救助に行って民間人の避難を誘導していたらしいの。だけど途中で連絡が途絶えたらしいってことで、たぶんこの中にいるはずよ。」


 その時、俺はさくらさんの話を思い出した。

 その話を聞いていた朧丸はあきれたように言った。


「何で隊長が単独で…?」


「さあ。…仲間の隊員が何らかの理由で動けなかったんだとは思うんだけどね。」


「ふむ、どうなんだろうな…」


 2人は苦笑いしながら話を続けた。


「さて、ここからが本題よ。もう察しはついていると思うけど、今回はこの4人を救助するのがあなた達の任務よ。」


「何で俺たちなんだ? 隣の地域なんだから隣の奴らが片付ければいいだろう。だめならここの一般戦闘員の奴らだっているだろうし。」


弘は不満そうに言った。


「それがね…隣の地域の一般戦闘員も特殊戦闘員も総勢で出撃中らしく空きがないのよ。それで付近の基地に応援要請がきているの。でも、そこのクライシスが溢れ出してしまってここの基地にも向かっているらしく、私達の所の一般戦闘員が全戦力をもって交戦準備中なの。でも数が増えたら特殊戦闘員の存在も必要不可欠と判断されて、9割がそれと戦闘するために出撃中なのよ。要するにここも空きが少ないのよ。」


「ああ、つまり……その空きのある一割が俺たちか。」


「そういうこと。」


「それで、作戦とかあるんですか?」


 俺が質問すると沙織さんは咳払いをして話し始めた。


「説明するわ。まず、ヘリでその避難所の上空まで行ってもらうわ。写真を見ての通りだけど、この避難所は急いで作った仮設のものだから各棟は孤立した建物になっているの。つまり別の棟の利用には一旦外に出なければいけないわけ。今回はその方が都合は良いのだけれど、そんなだから簡単にクライシスに襲撃されてしまうのよ。 それはさて置き避難所の中央についたら、そこで朧丸グループと常田グループに分かれてもらい、ヘリから垂直降下ラペレングをして避難所に潜入してもらうわ。その後2つのグループは散開して逃げ遅れた4人を探索してもらわ。弘はヘリが無事にヘリポートに着陸できたら、クライシスに襲われないようにそこを防衛してちょうだい。…内容は以上よ、質問は?」


「大丈夫です。」


 俺は戸惑いながらもそう言った。


「オーケー! 皆、準備をして。」


 沙織さんがそう言うと皆は立ち上がってチームルームへと向かった。

 俺は黒雨をつれて置いていかれないようについて行った。




 チームルームについてからは急いで装備を整えて、出撃ゲートへと向かった。


 出撃ゲートに行くと見なれない人が俺たちの乗り物のレーンの前で立って待っていた。


「おお、来たか!」


 その人は俺たちがくると手を振ってきた。


「あの人は誰?」


 俺は朧丸に質問した。


「ああ、今回ヘリの操縦を担当してくれる田中たなかってやつだ。結構いいやつだぜ。」


「はあ。」


 そういえば最初の自己紹介の時に助っ人入隊中の田中って紹介をしていた気がするな。


 それから俺たちは小走りするようにヘリに乗り込んだ。


「皆乗ったわね、ゲートを開くわ。一般戦闘員が行う爆撃は57分後よ。皆、必ず生きて帰ってきなさい。」


 乗り込んですぐに沙織さんから無線で連絡がきて、天井のゲートが開いた。


「よおし、上昇するぜえ。」


 天井のゲートが開ききると田中さんはそう言ってヘリを上昇させた。ヘリが上昇すると俺は軽く窓から目をそらした。


「どうした常田。具合が悪そうだが…。」


 朧丸が心配したように聞いてきた。


「…実は空を飛ぶ乗り物は初めてなんだ。」


「お、おう。お前なら直に慣れると思うがな…。」


 朧丸は俺の背中をポンと置いた。


「ま、まあ、墜落とかしてトラウマができなければな。」


 俺は苦笑いしながら言った。

 それからしばらく無言で窓ではなく銃を見つめた。






「おおーい、もうつくぜ!」


 田中さんがそう言った時、黒雨が俺の装備の一部をクイクイ引っ張ってきた。俺は黙って黒雨の方を見ると外を指差した。

 黒雨の差す方向を見るとブリーフィングで確認したあの避難所が見えた。


「あれがブリーフィングの時に見た避難所か…。」


 避難所の中は情報通りクライシスがたくさんいる。

 今回のクライシスは俺の初任務の時にあったクモ型のようだった。


「よし常田、黒雨、垂直降下ラペリングの準備をしろ。」


 朧丸はそう言いながら俺に2人分の垂直降下ラペリング用のロープを渡してきた。

 やり方は事前におさらいしてある。


「りょ、了解。」 


 俺は装備にその垂直降下ラペリング用のロープのカラビナを装着して準備し、黒雨にも付けさせた。


「先に行くぜ!」


 俺らが準備をしている最中に朧丸はそう言って地上に降下していった。それを追いかけるように鈴鳴も降下した。

 2人は降下し終えると、すぐにクライシスへ向けて銃撃を開始した。


 俺も直ぐに降下しようとしたが、降下するのに抵抗があるため黙って下を見ていた。


「常田どうした?」


 弘が心配して聞いてきた。


「い、いや!何でもないんだ!」


 俺は焦りながら誤魔化そうとした。


「そ、そうか? それなら背中押してやるよ!」


「お、おう! …え?」


 弘は俺の背中を勢いよく押した。その勢いで降下する事ができたが、もう少しお手柔らかに頼みたかった。


「うわああ!」


 物々しい音とともに俺が地上に着地すると黒雨も直ぐに降下してきた。


「よし、常田達は向かって左側を集中的に探してくれ。俺達は右側を集中的に探す。見つけたら互いに連絡を取り合おう。」

 

 朧丸はそう言いながら手で俺に垂直降下ラペリング用のロープのカラビナを外すように指示してきた。


「了解。」


 俺は返事しながら垂直降下ラペリング用のロープのカラビナを外し、黒雨にも外させた。

 それから俺は朧丸に言われた様に左側へ小走りするように向かった。


 あれからは襲ってくるクライシスに銃撃をしながら、辺りを散策した。

 よく見るとあちこちにクライシスと戦闘していたと思われる痕跡が残っている。


 俺はクライシスが建物に隠れていないかなどを警戒しながら移動を続けた。

 しばらく進と簡易医療棟を見つけた。

 中を見ようと扉に近づいていくと、扉の向こうから声が聞こえてくる。


「しー、静かに! 何かくるわ!」


 中から声が聞こえてきた。どうやら逃げ遅れの生存者がいるようだ。

 俺は簡易医療所の扉をゆっくりと開けて中に入った。


「だ、誰…!?」


 中には2人の女性がいた。


「俺は敵じゃない。P.K.D.Fの救出隊の者だ。あなたたちが逃げ遅れの生存者?」


「…ええ。」


 その返事を聞いて直ぐに朧丸に連絡をした。


「朧丸聞こえるか?」


「ああ。ちょうどいい、こちらも今連絡しようと思っていたところだ。」


「本当か! とりあえず2人の生存者を発見した。今からヘリに誘導する。」

「了解っ。こちらも1人発見したからヘリに誘導する。」


「了解。」


 俺はそれからすぐに2人に今の状況を説明した。


「分かったらここから出ましょう。」


「まって!」


 簡易医療所を出ようとすると、一人が困った顔をして言ってきた。


「彼女も一緒に連れて行ってほしいの…。」


 そして、その人はカーテンが閉められていたベッドを指差した。俺はそこへ行き、勢いよくカーテンを開けた。


「…美穂みほさん。」


 そこにいたのは負傷した美穂さんだった。

 直ぐに俺は美穂さんをどうやってヘリまで運ぶか考えたが、結局シンプルに背負って行くことにした。

「黒雨、俺はこの人を背負ってヘリまで行く。もしクライシスがでたら頼むぞ。」


 黒雨は小さく頷いた。


「よし、ヘリに向かうぞ。」


 そして俺たちは簡易医療所を飛び出した。

 外へ出ると走ってでヘリポートがある場所に向かった。しかし、予想はしていたがクライシスが道を封じるようにでてくる。


「くそっ、黒雨!」


 俺が黒雨の名前を呼ぶと、直ぐに前にでてきてクライシスに射撃を開始した。


「2人は今のうちにヘリポートに向かって!」


 そう言うと2人は叫びながら走って行った。

 黒雨の方を見ると倒しても直ぐに別のクライシスが出てきて、一向に数が減らない様子だった。

 俺は戦闘に参加しようと美穂さんを地面に座らせようとしたが、黒雨が“先に行って”と言いたそうにこっちを見てヘリポートの方向を指差した。


「先に行けばいいのか…?」


 俺がそう訪ねると、黒雨はクライシスに射撃を続けながら頷いた。


「後から絶対に迎えにくるからな。…死ぬなよ。」


 俺はそう黒雨に伝えてヘリポートへ向かった。



 ヘリポートへ到着するとあの2人も無事についていた。


「すまない、少し遅れた。」


 俺は弘にそう言いながら美穂さんをヘリの中のストレッチャーに寝かせ、固定した。すると慌てたように朧丸が来た。


「常田、黒雨はどうした?」


「黒雨なら今クライシスと交戦中で、彼女をここまで運んだら合流する約束をしている。」


「…くそう、時間がない!」


 朧丸は困ったように言った。


「何かあったのか…?」


 その様子を見て弘が質問した。


「一般戦闘員の奴らが何を思ったかは分からんが、ここの爆撃にはまだ20分くらいの有余があったんだ。たが、たった今一般戦闘員の無人爆撃機がここ向けて出撃したらしい。」


「そんなっ」


「今すぐここから出ないと俺らが巻き込まれるぞ!」


 すると今度は鈴鳴が慌てたようにやってきた。


朧丸マスター、皆さん。噂の爆撃機がもう近くまで来ています!」


 俺は黙って耳をすました。すると上空から飛行機のエンジン音が聞こえる。それを聞いてか弘もヘリに乗ってきた。


「おいおい、間違いなく無人爆撃機じゃあねえか! どういう事だよ!」


 どうやら目視できる所まで来ているようだ。


「よくわからんが、情報通り一般戦闘員がここの爆撃を早めたらしい。直ぐに離脱するぞ!」


 朧丸はそう言いながら田中さんにヘリを上昇させるように手で指示をした。


「お、おう!」


 弘がそう返事をした頃にはヘリは上昇し始めた。


「待ってくれ、黒雨が!」


「今は自分の命を最優先して考えろ。」


 朧丸は俺を見てそう言った。

 俺は変に動揺して、返す言葉が思いつかなかった。


「こういう時は言われたことを無視して助けに行くべきじゃないのですか?」


 鈴鳴は朧丸がさっき言った言葉を訂正するように言ってきた。

 俺はその言葉を聞いて、上昇しきってないヘリから勢いに任せて飛び降りた。


「…まったく、生きて戻れよ!!」


 落ちている最中に朧丸がそう言っているのが聞こえた。



 地面に着地すると急いで黒雨のもとへ走って向かった。

 さっき黒雨を取り残した場所に行くと、黒雨はクライシスの反撃でも受けたのかボロボロな状態になりながら、必死に銃撃を続けていた。


「黒雨!」


 俺が名前を呼ぶと黒雨は直ぐにこっちを見た。

 そして俺が黒雨に近づこうとすると、後ろから物凄い爆発音 がした。


 爆撃が始まったのだ。


 俺は全力で走り、黒雨にたどり着くと同時に抱きかかえて避難所の端に向かって走った。


「うおおお!」


 俺が走った後ろは全てが爆撃されていく。


 何とか端は見えてきたが、そこは出入り口ではなく、避難所を囲む大きな高い塀だった。

 しかし、状況が状況のため、俺はひたすらに前に走ることしかできなかった。


 すると、突然目の前の塀が一気に崩れた。


 走りながら辺りの上空をみると、爆撃機から少し離れた位置で飛行しているヘリが見えた。


「常田! 特製の無反動砲で目の前の塀を吹っ飛ばしてやったぜ。そのまま走り抜けろ!」


 弘から無線連絡がきた。崩してくれたのは弘のようだ。

 ここでお礼を言いたかったが、そんな余裕は無くひたすら走り続けた。


 そして、塀を抜けると同時に爆風で俺と抱えられていた黒雨は数メートル吹き飛ばされた。

 後ろを見ると、さっきまであった避難所が嘘のように消し炭になっている。


「はあ、はあ…、黒雨無事か?」


 俺はゆっくりと立ち上がって黒雨の様子を見た。

 黒雨はその場に座るように起き上がると頷いた。


「良かった…。」


「二人とも生きてるな?」


 ひとつため息をつくと、朧丸から無線がきた。

 真上を見るとゆっくりとヘリが降りてきていた。


「…ああ、なんとか。」


 このバトルスーツのおかげであるだろう……。


 それから俺と黒雨はヘリに乗り込んで基地へと戻った。

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