ケリ1
「サプライズ…ね…。」
俺はあごの下に親指をおいて頭を回転させた。
たしかにもうすぐ中間だ。
中間の間は勉強に集中した方がいいかもしれない。
携帯でカレンダーをみてみると、試験まで一週間どころか残り4日をきっていた。
俺は基本的には勉強はそこまでしない。
別にしようがしまいが、音楽に頭脳は関係ないと思っているからだ。
俺は将来、音楽関係に進むつもりだからな。
ただあいつは…高見は違う。
成績優秀、陸上もトップレベル、まさに才色兼備、文武両道だ。
もう大学なんかも決めているのだろう。
カレンダーをみていると、中間が終わったその日に、『出空き』と書いてあった。
『出空き』というのは、まぁ、俺がかってに略して書いてるだけなんだが、
『出演者空きあり』の意味で、
ようするに、『できれば出演してくださいライブ』に誘われている、ということだ。
「…これだ…!!」
このライブに、高見を誘って、ライブで謝ろう。曲を通して。
高見はライブをしている俺を好きになってくれたんだし、問題ないはずだ!
早速、ライブハウスに電話して、うちの軽音部の出場枠をとってもらった。
「おはよう。」
次の日、俺は部室に真っ先に向かった。
中には予想通り、鈴仔が椅子に座っていた。
鈴仔は俺をみるなり、きまずそうな顔をして目をそらした。
「赤石、悪いけど、俺…昨日の子と…。」
「わかってます。良いんです。私、知りませんでした。
先輩が、あの、陸上部のエースの先輩とつき合ってるなんて…。」
「…赤石…。」
「すいませんでした!お二人のことは、潔くあきらめます!」
鈴仔は、突然立ち上がって頭を下げた。
「…酷なことを…言っても良いか?」
俺は昨日決めたことを赤石に話す決意をした。
「……はい…。」
赤石は沈んだ表情で俺を見つめる。
「中間最終日に…ライブが決まった……。そこに、昨日の子もくるんだ…。
本当にすまないと思ってくれているなら……その…この部活で…。」
「分かりました!!協力します!!」
赤石の言葉があまりにも即答すぎて、俺はすこし呆気にとられた。
「ほ…本当か…??」
「はい、任せてください!」
「そ…そうか…すまなかったな…。じゃ…俺はこれで…。」
「はい!すいませんでした!!」
鈴仔はもう一度深々と頭を下げた。
俺は完全に安心しきって部室を出た。
知らなかったんだ。
「……ふぅ。あ…相手が…あの先輩なら…勝ち目ないですもんね…。
あ……な…涙…。あれ…止まんな…。」
一人残ってひたすらない続ける後輩の姿を。