修羅場
『俺が貰うかもよ?』
俺はふらふらと危なげに歩いていた。
あの顔立ちは間違いなくイケメンに入る部類だろう。
背も高い、キリっとした顔立ち、そして見る限りの筋肉。
それをとっても俺が勝てる要素はない。
本当に奪われるかもしれない…。
それがぐるぐる頭を回って、俺は結局、高見に会わずに会場を出た。
今会っても、引きつった表情を見せて逆に心配されるだけだ。
ちょうどそのとき、携帯が鳴った。
死んだ魚の目でうつろに画面を覗く。高見からだった。
『ちょっと、なんで先に帰っちゃうの?』
俺は表情を変えず、淡々と文字を打って「返信」ボタンを押した。
『悪い、頭痛くなったから早めに休むわ。優勝おめでとう。』
メールはそれっきり帰ってこなかった。
俺は家に帰ると、まっさきにギターを持って制服に着替え、学校へ向かった。
現在午後3時を回った所。いったい何を思ったのだろう。
うつろな目のまま、部室に入り、ギターを置いて、その場に座り込んだ。
一息ついて、考えようとした。
あの場で考えられなかった事を、もう一度深く。
瞑った目をゆっくり開け……ると、鈴仔が覗き込むようにして目の前にいた。
「!!!っっっ!!」
驚きで思わず後ずさりする。
「先輩ィ…。あの…さっきからずっと呼んでるんですけど…生きてます??」
「あ……ああ。何だ??」
「今日練習ないのに何で来たんですか?」
「ちょっと考える事があってな……、それより、お前こそなんで?」
「自主練ですよ。」
鈴仔は、ジャラーンとギターを鳴らす。
「そ…そうか…。」
しばらく沈黙が二人を包む。
「あの…先輩。」
先に口火を切ったのは、鈴仔の方だった。
「ん?何だ?」
ようやく少しは生気を取り戻したが、まだ何も考えられそうにない。
「悩んでる事があるなら、言って下さいね、力になりますから。」
「あーうん…いや、良いよ、気にしないで。」
俺は頭を抱えて髪の毛をかく。
「そういうワケには……。」
「いいから、ちょっと放っといて欲しいんだ。一人で考えたい。」
「でも…。」
「頼むから!!」
「先輩!!」
「……?」
怒鳴りを返されて、俺は何が起こったのか分からなくなった。
そして、恐る恐る彼女を見た。
「な…なんだよ。」
「私……先輩の事が好きなんですよ?」
俺は無意識に立ち上がっていた
「先輩…私が…何で軽音部に入ったか…分かります…?」
鈴仔は涙目で恨めしそうに俺を睨んでいる。
「先輩に…一目惚れしたからなんですよ!?」
息が詰まる。呼吸が止まる。
「部活紹介でのライブ…あれを見てカッコいいと思ったのは…軽音でも…ギター
でもなくて、先輩なんです!」
胸が締めつけられる。
ふいに俺は人の気配を感じて扉の方へ振り返った。
ユニフォームを来た高見が、両手で口を覆って立っていた。