大会で
「高橋…145m…クリア。次、高見…。」
「はい……!」
おいおい…まじかよ…。
145とか……俺だったら120mでギブだっつうに。
走り高跳びエゲつない…。
そう、日曜の炎天下。
言われていた試合を見にきている。
なんというか、地区大会というので気軽に来て見てみれば…
地区大会の「決勝」という……。
度肝抜かれたわ。
まわりに高校生(おそらく決勝まで来れなかった部員)が大量に、
ついでにいうと、対抗するように保護者も大勢来ていた。
決勝に上ったのは6人。
全員140mクリアは余裕だったクラスらしい。
……と、となりに座っているおばちゃん軍団が喋っていた。
っつ…!よかった…クリア。
あ、なんか俺まで緊張してきた…。
トイレ行ってこよ。
トイレから帰ると、残り2人になっていた。
あわてて席に戻る。
155mで決勝であるようだった。
両人ともクリアすれば、またレベルが上がる。
俺の緊張もピークだ。
「……では155m、高見。」
「……はい!」
高見が、フゥッと一息入れるのが、遠目でも分かる。
走る。
スピードが乗る。
…ッ飛ぶ!!
ー!頑張れ!!
スローモーションで体が動く。
棒を超えるのが見える、が、同時に棒が少し揺れ、心臓が止まる。
しかし棒はなんとか耐えきり、無事に高見はマットに着地する。
「ッ…。高見、155mクリア。」
「っしゃあ!」
おもわず声が出る。
となりのおばちゃんたちは露骨に嫌そうな視線を向けてくる。
それに少々赤面しつつ、次の選手を見つめる。
走り、飛んだ!
こちらも無事にマットに着地する。
が、棒は大きく揺れ、そのまま台から滑り落ちる。
「……155m、失格。」
「っっっっっっ!!!!!」
声に出そうになるのを必死に押さえて、
それでも湧き起こる感情におもわず席から立ち上がる。
自分のことのように嬉しくなる。
思えば不純な始まり方をしたが、「自分」の「彼女」であることを改めて認識する。
そして、誇らしい気持ちでいっぱいになった。
俺も、高見の事が……好きになっている……、のが分かる。
気がつくと、俺は控え室へダッシュで向かっていた。
「選手控え室」という文字が見えた瞬間、思わず笑みがこぼれた。
軽く光の漏れている扉のノブに手をかけたーその瞬間。
「流石だね、憂希ちゃん。」
男の声が中から聞こえ、とっさにノブから手を離す。
「いえ、そんな…、川上先輩も凄かったですよ?」
「あはは…見てくれてたんだ。」
(誰だ…?あいつ……。)
光の漏れたところに目を当て、中をのぞく。
中には、高見と、もう一人背の高い男が立っていた。
二人ともとても楽しそうに話をしている。
「いや、でも憂希ちゃんが見てくれてたからかなー。」
(………。まさか…こいつ。)
「もう、何言ってんですかぁ。」
「憂希ちゃん彼氏とか居てたりするの??」
(………!!やっぱり!!!)
俺は口を手で押さえて、その場から少し離れる。
あの川上とかいう3年、高見に気があるんだろう。
それを考えていると、また中から声が聞こえた。
「居てますよ!凄いかっこ良くて、頼れる人です!」
その言葉を聞いて、俺は床に座り込んだ。
ー嬉しい。
そのまま控え室を後にしている自分がいた。
「お疲れさまでしたー!」
我を取り戻して、控え室に再び戻ろうとすると、
川上が多くの後輩を引き連れて控え室から出てきた。
「あれ……。君…。」
川上の方から俺に話しかけてくる。
俺はドキッとした。…まさか見つかってた?
「君が憂希ちゃんの彼氏?」
「え…はい!?はい!」
突然の質問で素直に答えてしまう。
何で分かったんだ!??
「ふーん…。」
川上は俺の体をなめ回すように見る。その視線は若干痛いものでもあった。
「たいした事無いじゃん。憂希ちゃん、俺が貰うかもよ?」
川上は俺に耳打ちをすると、そのままスポーツタオルをひるがえして去っていった。
俺は呆然とその場に立ち尽くすしか無かった。