出会い
「見てた?私の高飛び。」
「うん、みてたよ。145…だっけ?」
「そうそう。照れるなぁ。」
「なんか、お前、付き合う前と態度変わってねーか?」
「なっ…か…変わってないわよ!失礼ね!」
「…?そうかぁ?気のせいか。」
「うん!気のせい!!」
帰り道、たあいのない話で良く盛り上がって、
周辺が真っ暗になるまでファミレスで時間つぶして、
コイツを家まで送る…ってのが日課になっちまった。
それなりに楽しめてるから良いけどさ。
「今日も送ってもらっちゃって…ありがと。」
「いいよ、もう慣れたし。楽しいしな。」
「あ、今度地区大会あるんだ。見にきてくれる?」
「…ん。日付によるな。」
「じゃあ決まったらまた話すよ。」
「おう、じゃあな。」
「バイバーイ!」
横目で軽く高見を見ながら手を振ってその場を去る。
高見の家と俺の家は駅一つ分違うだけで、どっちも駅前だから交通手段は楽。
ついでに言うと、学校へは、俺の家から近場の駅の方が、遠い。
つまり、定期券内に高見の家の最寄り駅があるから、まぁついでに寄れるってワケだ。
帰り道、電車、喋った後、一人でいる時間もなかなか楽しい。
もともと、その場の環境に慣れやすい人間なんだろうな。
と、思っていたら、携帯がブーブー鳴る。高見からだ。
『日付は今週末だよー。来れそう?』
「…っと今週末は…なんもねーな。」
特にないから見に行く…よ、っと。
携帯の送信ボタンを押してから、俺は告白された日の事を思い浮かべた。
同じクラス、お互いあまり目立たない位置で、俺は全く気にしていなかった。
…というか、あんまり恋愛感情に興味が無かった、と言える。
こちらとしては、美人でスタイルも良く、運動も勉強もトップレベルで、
まぁ年齢問わず色んな男からモテてるんだろうな、と思っていた。
だから彼氏は居て当然だとも思っていたし、
それに悔やむという感情も自分の中には湧き起こらなかった。
そんな遠い存在が、ふいに目の前に現れた時には驚いたもんだ。
アイツは運動部、俺は文化部。
合うはずも、会うはずもないのに、俺は放課後に学校で告白された。
運動部で、普段もユニフォームでグラウンドを走っているアイツが、
あのときだけはまるで文化部の大人しめの子のようにコソコソしていた。
軽音部の部室は、部員が少ないのもあって、別館の端にチラリとあるだけ。
そんな人通りの無いところでウロウロしているクラス一は確定の女子がいたら、
普通誰もが「え?え?どうした?」となるだろう。
それがまさか自分を見つけた瞬間ツカツカとこっちに歩いてきたら
おもわず身構えるかしてしまうのは言うまでもない。
俺は身構えた。
そしてとっさに思考に入る。
俺は何かコイツにしたっけ…。なんか…えーっとえーっと…。
「ねえ。」
睨むような顔つきで声をかけられる。
ただ、露骨に「嫌い」というアピールはされていないようだ。
「は…はい?」
「滝本…くんてさ、彼女居るの?」
まず、俺はこの時点でフリーズした。
いるワケねーだろうが。どこにモテるポイントがあるんだよ。
ギターちょこちょこいじってる機材オタクで、文化部の俺がよ。
そりゃあ、勉強だってコイツほどじゃないがそこそこだし、
スポーツもコイツほどじゃないがそこそこだし、身長も…あ、身長は勝った。
…ん?コイツもしかして、俺の事からかってる?
そうだ、絶対。こうやって自分を俺より上にみせようって思ってんだな。
そう思うとやたらイラついてきた。
「…いねーよ。」
ぶっきらぼうに言い放って、高見の傍を通り過ぎ、部室に入ろうとした。
すると後ろから、思いも寄らない言葉が俺に向かって放たれた。
「そ…それじゃ!私と付き合ってもらえないですか!!?」
二度目のフリーズ。
誰もいない(と思われる)別館に叫び声がこだます。
こっちは理解するのに約10秒かかった。
後々話をきくと、1年の時に俺が出た文化祭のライブで
今まで馬鹿にしてた音楽、軽音、バンドのイメージを覆され、
同時に俺のことが気になり始めたんだと。
それから半年間、結果絶えない告白を全て断り、決死の想いで来たんだとか。
そのとき、俺はまだからかわれていると思っていたので、
「好きにすれば良いよ。」
と軽くかわしておいたが、これがアイツはOKだと勘違いしたようで、
次の日からもう、迫られるわ迫られるわで困った。
といっても、変な意味じゃないので、誤解しないように。
つまり、一言も教室で言葉を交わさなかった男女が、
突然めちゃくちゃ女子の方が積極的になったということだ。
この時点でもまだ俺はからかわれているのだと思っていたが
次第にその真剣さに、試しに「俺の事好きなの?」と聞いてみると、
「うん」と、即答されてしまった。
ここでボロを出すだろうと思っていた俺が、逆にひっくり返された感じだった。
そこから、まぁそこまで好きでもないが、断る権利も無いので、
(断ると言う事は、学校中を敵に回すと言う事で、そんな度胸は無いので)
付き合う事にした。今思えば、相当軽いノリで、相手には物凄い失礼だっただろう。
このときから、今の関係は始まったんだったな。