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鎮魂歌

「どういうことだ…。

 せっかく高校生とは思えないレベルのバンドが

 見れると聞いてやってきたのに……。」


ライブハウスに一人の男がいた。


彼は某プロダクションのプロデューサー、田中 倫太郎(たなか りんたろう)


今、世間で少しずつ注目を浴びているプロデューサーである。




「遅れて…すいません!!」


客の歓声と同時にGv.とDr.が入場してくる。


開始から5分過ぎていた。



「……まず、減点…と。」


田中は手帳に赤で×を一つ書き込む。



「今回やらせていただく曲は、すいません、1曲だけです。」


Gv.のMCに、客からブーイングが飛ぶ。



「…なんだ、その程度なのか?」


さらに赤の×が書き込まれる。



「早速…始めたいと思います。」





(あい)する貴女(あなた)へ、鎮魂歌(レクイエム)




熱くなる 思考 仲の良い 日々


重ねる 思考 でももう 戻らない



こじれた関係 修復を 試みたけど



君に 謝りたい 「ごめん」と その一言だけ


それだけが 僕の想い




客が「おおー!!」と喚声を漏らす。



「…ふむ悪くない。」


田中は首をかしげる。




ソロの部分はGv.とGt.がすばらしいハモリを奏でていて、


観客のボルテージはマックスになった。



だが、激しいソロが終わると、ボーカルだけの静かなCメロへ。


そのギャップに、観客たちも、思わず静かになる。




その()は 今 どうしてると 思う?


ホントは ここに くるハズだった なのに


その()は もう この世に いないのだから


僕らは なにも できなかった なのに




君は こう言った 「歌って」って だから


僕らは 君の 想いに 応える 伝えてやるんだって


君の 生きた証 歌って 僕が 伝えるよ だから


キミノタメ 僕は歌う


一生でも 僕は歌う




気がつくと、俺は泣いていた。


Cメロあたりからだろうか、勝手にこぼれてきた。




それが伝わったのだろうか、客の多くも涙をこぼしていた。




田中は黙って手帳の×に棒線を引き、「期待度120%」と付け加えた。











あれから2ヶ月、今は夏休みで学校は無い。




俺らはあのライブに来ていた田中さんってプロデューサーに言われて、


プロとしてデビューすることになった。



前の俺ならすぐに断っているところだろう。


でも俺は多くの人に伝えなくちゃならない。


彼女がこの世を生きていた事を。


「…こんな形で…プロのミュージシャンになる…なんてな…。」


木元部長が気まずそうな、でも悲しそうな顔でうつむく。


「…先輩…グスっ」


赤石は目にうっすらと涙を浮かべている。


「皆。前にも言ったろ。俺らは伝えなくちゃならない。

 …いや、俺は伝えなくちゃならない。憂希が生きていた事を。

 だから……協力してくれ…!」


「…誰があんただけなのよ。」


後ろから坂城が声をかけてくる。


「あたしだって…憂希の親友。…憂希が生きてた事を伝える義務があるわ。」



「もちろん…俺らはいくらでも協力するさ。いくらでも。

 お前は一人じゃない。バンドは…一人でやるもんなんかじゃないんだ。

 そうだろ?」


木元部長が悲しげな表情の中に、わずかに笑みを見せた。




それからだ。


夏休み期間中、俺らはほぼ毎日活動した。



雑誌にも登場した。


『登場!!高校生ユニット!』


なんて見出しで、少しずつ、有名になっていった。


バンド名は…あいつの走っていた『夏の風』。




たとえ俺が死んでも、俺が忘れられても、


彼女がこの世を生きていた事を。






俺は歌い続ける。


この喉が壊れるまで。


この身が果てるまで。


俺は伝え続ける。


後悔なんてしない。


もう腐るほどしたのだから。




俺は歌い続ける。


放課後も、『夏の風』(憂希)と共に。

…はい、第一作目、無事に完結です。


活動報告も更新しますので、詳しくはそちらをご覧ください。



「放課後と夏の風」を読んでいただき、本当にありがとうございました。



        2011年8月26日  桐谷 優牙

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