暗
三題噺もどき―きゅうひゃくよんじゅうよん。
つい先ほどまで曇っていたのに。
外はザーザーと雨が降り出した。
大粒の涙を流しているように。
「……」
外では生徒がキャーキャーとあちこちへ走りまわっている。
何の予兆もなく降り出したから、まぁ、仕方がない。
多少濡れてもタオルは持っているだろう。
「……」
窓にぶつかるたび、ボタボタという音が聞こえるくらいに、大粒の涙。
これが数分後、数十分後には止むのだから、最近の天気は読めない。
読もうと思ったこともないが、天気予報が中てになるようであてにならないので困る。別に制服が濡れようがどうでもいいのだけど、鞄が濡れるのだ。
「……」
それと極力合羽を着たくないし、そもそも持ってきたくもないので。
たまにある自転車点検の時には持ってこないといけないけれど……アレは全く何のためにしているのか分からない。ブレーキとライトの確認だけで良いなら合羽はいらないだろう。
「……」
ここ何日かはそんなことも言っていられないほど天気が不安定なので、合羽は常に持ってきている。邪魔で仕方がないが、しょうがない。
徒歩であれば傘一本で済むだろうが、自転車だと合羽に鞄を入れる袋に、邪魔なものがかなり出てくる。
「雨凄いね」
「ね」
隣にはいつものようにあの子がいる。
時刻……というか時間割的には昼休みの時間だ。
だから外にはそれなりの人数の生徒がいて、はしゃいでいたのだ。
「すぐ止むのかな」
「どうだろ……」
外を眺めながら、どこか不安そうに話すあの子。
その横顔は、どことなく儚く見える。薄い唇が動くたびに、ドキドキとしてしまう。
長い髪をさらさらと流して、細い指先でたまにくるくると遊んでいる。
誰もが一目惚れをして、誰もが盲目的に恋をしてしまいそうな。
漫画やアニメに出てきそうな、どこか少し現実味の抜けたような。
「それよりさー」
「んー?」
まぁ、そんな見た目とは裏腹に。
さっぱりとしているし、なよなよしいことはない。地に足をつけて歩いている。
芯の通った、いつでも大人になってしまいそうな、気づけば遠くに行ってしまいそうな。
けれど、近くにはいてくれる。会話がなくても安心できる。
「このグッズがさ……」
「え、かわいい」
それと、私にアニメや漫画やボカロをはじめとする、二次元というモノを教えたのもこの子。見た目には全くその手の物には興味がなさそうなのに、興味津々というかそこにしか興味がないというか……どちらかというと俳優の方が好きそうな見た目。
でもまぁ、しっかり浸かっている。
「でも高いんだよねぇ」
「それはまぁ……」
「なになにー?」
もちろん……というか、いつものことなのだけど。
周りにはあの子と同じクラスで生活している、同じような趣味を持った子達もいる。一緒に昼食を食べているんだから当たり前だ。
「いやー欲しいグッズがあってぇ」
「あーそれねー……」
「……」
私はあっという間に、蚊帳の外になる。
その話をしていたのは私とあの子なのに。
外から入ってきた第三者のせいで、会話が途切れ、身体はあちらを向く。
それだけで、あの子にとっては、私はただの周りにいる人間の1人でしかないと思わされる。ただの趣味の同じ人間たちと同化する。
「……」
特別扱いを望んでいるわけではない。これくらい当たり前だ。
分かっている。そんなことは。私のあの子に向ける感情が異常なだけだ。
薄黒い何かが、徐々に黒くなり、蓋ができなくなりそうになりながら、なんとか蓋をしてあの子の隣にいることを許されている。
「……」
ただの友達、ただ、中学から一緒に高校に入学しただけ。趣味が同じで、話もそれなりに合う。それだけの人間なんだから。周りのその他大勢の人と同じ。
そんなものから、よくわからないモノを押し付けられても困るだけだ。
「……、」
目の前で繰り広げられる楽しげな会話に。
耳を塞ぎたくなりそうになった矢先に。
終わりの時間を告げるチャイムが鳴り響いた。
「じゃぁ、またね」
「うん、またねー」
先に荷物をまとめておいてよかった。
さっさと廊下にでて、掃除の場所へと向かう。
「……」
気付かれていないようでよかった。
こんなモノ吐き出すものでもないからな……。
お題:同化・涙・盲目




