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幕間〜対妖連合長官誕生〜パート2

「ただいまー」

吾紋とクノアとの遊びを終え、家に帰って来たミハル。

いつも出迎えてくれる筈の父が来ず、家の中も静まり返っている。

疑問に思いつつ、父の部屋へと向かい、ドアを開けた。

「お父さん? ……!!!!」

それから後の事は、覚えていなかった。

気がつくと彼女は、自身が涙を流す詩織に抱き締められていた。

そして、白い布がかけられた何か。

それが何なのか、彼女は理解していた。

が、受け入れられるには二日程要した。

収骨を終えて、最初に開かれた円卓会議。

議題は勿論、連合を解散するかどうかであったが、それは直ぐに全会一致で却下された。

理由は様々ではあるものの、皆存続を望んでいた。

が、その場合誰が次の長官となるのか、という問題が出て来る。

支将の位置に就く殆どの者は、既に自身の組織の長である為に兼務する事は著しく困難であった。

反面、彼らの殆どは長宮博士の人柄や理念、天才性といったモノに惹かれていた為、長官は彼程魅力を感じられる者でなければならない、とも感じていた。

「矢張りあれ程の御仁の継承者となると、決めるのは容易ではないな」

停滞した空気の中、口を開いたのは伊草であった。

彼は続けて言った。

「時に緯途那殿、最前から吏折殿の姿が一向にみえないのだが、如何なされたのだ?」

「彼なら、用事を思い出したと言って、遅れて来るそうです」

「この緊急事態に勝る用事、一体如何なる事か……」

「何でも、今回の議題に関係あるとか……あ」

扉が開き、半蔵が入室する。

その後をついて来る者が一人。

(ミハルちゃん? どうしてここに?)

疑問に思ったのは詩織だけではない。

他の者達も、何故彼女が来たのか分からないでいた。

ただ一人を除いては。

「皆様、遅れてしまい申し訳ありません」

円卓の空席――長宮博士が座っていた席――の隣に立ち、深々とお辞儀をする半蔵。

「実を言いますと、本日皆様にお伝えしなければならない事がございます」

彼は一拍置き、そして言った。

「当連合を統べる新たな長官が決定致しました」

「「「「!!」」」」

驚愕の表情を浮かべる支将達。

だが次の瞬間、彼女らは更に驚く事となる。

「こちらへ、新長官」

促され、席に着いたのはーー

(ミハルちゃん!?)

「ど、どういう事ですか半ぞ、吏折補佐官!」

動揺を隠せない状態で、詩織は半蔵を問いただす。

「落ち着いて下さい。順を追って説明しますから」

そう言うと、彼は懐から一枚の紙を取り出し、支将達に見えるように掲げた。

「先ず、こちらを御覧下さい。これは博士が生前、補佐官であった私に託したものです。この文書によりますと、『自身の死後速やかに適任者が見つからなければ娘ミハルを長官に指名する』と書かれています」

「何ですって!?」

渡された紙を凝視する詩織。

ペンで執筆された文体や筆跡。

確定こそ出来ないものの、見覚えのある博士のものであった。

そして内容は確かに、『ミハルを長官に指名する』と記載されていた。

「しかし、彼女はまだ子供だぞ! 博士でさえ苦労されていた長官の任が務まるとはとても……」

支将の一人が難色を示したのも、尤もであった。

眼前の少女は、齢五。

幾ら博士の研究を近くで見ていたとはいえ、天才性まで受け継がれているとは思えない。

「御安心を。彼女が最低でも十五を超えるまでは補佐官として私が就きサポート致します」

「摂関政治の摂政のようなものか……確かに吏折補佐官の優秀さは知ってはいるが……」

「それに加え、彼女自身も天才なのです。博士に引けを取らないほどの」

半蔵が言い終えると、懐からもう一枚紙を取り出し、回覧させる。

「これは……鎖帷子?」

伊草が尋ねる。

「正確には、鎖帷子から着想を得て応用発展させた衝撃吸収スーツ、その原案です」

半蔵は、その効果や構造を説明した。

スーツは非常に高性能であり、至近距離で榴弾砲や重機関砲の直撃を受けても使用者には打撲痕一つ出来ることはないという優れものであった。

更に、伸縮性を備えている為に体型を気にせず着用する事が出来る他、妖術や魔術の影響を受けない特殊コーティングもされているとの事。

「凄い……製造方法も確立されてるから直ぐにでも開発出来る……けどこれ、博士の見せてくれた研究にはなかった筈……」

「この衝撃吸収スーツ、発案者はミハル新長官です」

(!? これ、ミハルちゃんが!? 確かに賢い子だと思ってたけど、これ程なんて……)

「如何でしたか? では最後に新長官からの挨拶がございますので、お聴きください。では、新長官」

半蔵に促され立ち上がるミハル。

幼いながらも凛とし風格漂う姿に、その場にいた全員が注目する。

「……」

強者達の鋭い眼光に臆する気配を見せる事なく、彼女は静かに口を開いた。

「この度、対妖魔組織連合長官に就任しました、長宮ミハルです。このような小娘が自分達を束ねるにふさわしいか、お疑いの気持ちを持たれている方もいらっしゃるでしょう。しかし、ぼ……私は先代長官からご指名頂いた身、引くわけには参りません。その為、不躾ではございますが、私の発案したスーツの概要を通して実力を示しました。この成果に満足せず、長官として先代の理念理想が果たされるように日々邁進して参りますので、どうか皆様、お力添えの程よろしくお願い致します」

一礼をし、戻るミハル。

「以上を持ちまして、代表就任の挨拶に代えさせていただきます」

一瞬の静寂。

パチパチパチパチパチ。

後、鳴り響く拍手。

それは、彼女が長官として、一先ず認められた現れでもあった。


会議が解散して直ぐ詩織と伊草は、半蔵に付き添われているミハルに駆け寄った。

「ミハルちゃん! 凄かったよ、さっきの挨拶!」

「あ、ありがとうございます」

返事をする彼女の額には、汗が滲んでいた。

余程緊張した事が見て取れる。

「うむ。静かでありながら威厳を確かに含んだあの佇まい。齢五とは思えん」

伊草は相変わらず、抑揚のない声でもって、ミハルを褒め称える。

「え、えへへ」

「それに加え、どこか覚悟を決めたような雰囲気も感じたのだが……如何されたか?」

「……」

急に口を噤むミハルに代わり、半蔵が答えた。

「ミハルちゃんは、長官職に専念する為、親友達に別れを告げたのです」

「え……」

「まことか?」

「……違う。別れてない、です。ちょっとの間、会えなくなるだけ、だから別れてないんです……」

ミハルの声は段々鼻声となり、目に涙が浮かんで来る。

「これは無思慮な事を訊いてしまった。申し訳ない」

「ううん、伊草さんは悪くありません」

そう言うと、涙を手の甲で拭い、努めて微笑むミハル。

「それに、本当に別れてないんです。だって、さようならじゃなくて、またね、って言いましたから」

「そうであったか。では我も、ミハル殿が後親友とまた会える事を願おう」

「伊草さん……!」

「私も。また、吾紋君との話聞きたいしね」

「詩織さん……!」

「後、クノア君との恋バナも」

「!!」

瞬間、顔から火が出るミハル。

「ははははっ」

そんな彼女達を見て、半蔵は爽やかに笑った。


それからが、ミハルにとって正に激務であった。

年々出現頻度を高める妖魔に対する作戦の指揮。

時折起こる連合内の揉め事に対する対策の指示。

封写機やスーツ等の技術やシステムの改良。

新たな支将並びに、組織個人のスカウト。

異種族との対談並びに友好関係構築etc…

特に、友好関係構築が最も神経をすり減らす任務であった。

一歩間違えば、全面戦争に突入しかねない場面もあった。

勿論、ミハル一人で全任務を遂行しているわけではない。

指揮系統はすでに出来ており、一部裁量権も各人に与えている。

半蔵の頼もしく献身的なサポートも存在する。

が、如何に天才と呼ばれようと、彼女は未だ子供。

本来なら、勉学や遊びに夢中になっていられる年なのである。

が、任務の為に通学は叶わず、ネットを介してのオンデマンド授業が殆どであった。

何とか時間を見つけ、学校へ行っても彼女と交流を持つ者はいなかった。

いや、持てなかったのだ。

あまりに接する機会がない為に。

連合内でも、以前のようにはいかなくなっていった。

詩織は、別で所属していた機関の機関長に急遽選ばれた為、ミハルと会う機会が激減した。

伊草は基本本部に常駐、というより住んでいるのだがミハルの方が多忙な為、会っても二言三言交わすのが精一杯であった。

唯一、殆ど毎日顔を合わせる半蔵に対しても、任務上の会話が殆どでプライベートな会話は全くと言って良い程出来なかった。

が、彼女は決して弱音を吐かなかった。

人前では。

一日のハードスケジュールを遂行し、自室へと戻るミハル。

シャワーを浴び、寝巻きに着替え、明日の準備をした後、ベッドに入る。

普段であれば、そのまま泥のように眠るのだが、寝付けない事も。

そういった時に彼女が思い出すのは、幸せだった過去の思い出。

好きで尊敬もしていた父との思い出。

詩織や伊草、半蔵と話に華を咲かせた思い出。

そしてーー

「吾紋……クノア……」

大親友達と遊び戯れた思い出。

「会いたい……会いたいよ……」

枕を抱きしめ、啜り泣きながら漸く眠りにつくミハル。

そんな日々が、十年近く続いた。

転機が訪れたのは、彼女が高校生になった時である。

妖魔の出没も落ち着きを見せた事や半蔵達のススメもあり、彼女は学園校舎へ通学を選択。

そして入学式の日、校門でバッタリと再会する事になる。


相手は勿論、吾紋とクノアである。

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