第4話パート1
「信じられぬかもしれぬが……真の事に御座る」
「……」
司令室にて、伊草の話を聞いた詩織は動揺を隠せなかった。
半蔵がイルマを殺害しようとした事。
そして事件現場の跡地から伊草が感じ取った気配から、彼は妖魔側の可能性が高いという事。
「……以前」
「?」
「以前、彼の挙動に怪しさを感じ、密かに発信機をくっ付けて探った事がありました。ですが、彼には見破られ嗜められました。仲間内で猜疑心を募らせるような事をしてはいけない、と。その時こそ疑うべきでした。特殊合金製の発信機が粉々になっていたというのに……」
「……」
「若し、ミハルちゃんに何かあったら……私は、博士に……」
「詩織殿。気を揉んでる暇はござらぬ。今は最悪の事態を想定し、対策を練る事に専念致すべきではないだろうか?」
「伊草さん……そうですね。それにこんな弱気では、夜明ノ蜘蛛機関長の肩書きが泣くというもの」
「その意気である、詩織殿……!?」
一瞬、照明が消え、また直ぐに点く。
が、先程より少々薄暗い。
「今のは……まさか!」
詩織は何かに勘付き、部屋を出てある場所へ向かった。
一人残される伊草。
「ミハル殿……無事でいてくれ……」
(坊! 聞こえる?)
不意に彼の頭に響く声。
(主! 今何処に!?)
(ちょっとね……坊、そっちの人達に伝言頼めるかい?)
同時刻 異空間内
突如現れた謎の人物に、半蔵だった者は動揺する。
「アモン?……まさか、古代に世界の調和を司っていたという……」
「へぇ? 流石に彼の事は知ってるんだね、ヴェート。……いや」
救世は、人差し指を突きつけ、告げる。
「『妖星』レジェンディール」
「!?」
更なる動揺を見せる半蔵、いや、レジェンディール。
そんな彼を他所に、アモン内の吾紋は、親友二人の姿を確認する。
(ミハル……! そんな、間に合わなかったか……)
(未だだ。未だあの者は生きている)
(本当ですか!?)
(だが予断を許さない状況……どうする?)
(……一旦、変わってもらえますか?)
(……承知)
瞬間、霧がアモンを包み、吾紋へと戻す。
「貴様、あの時の……! 知っていればあの場で排除していたものを!」
彼に切先を向け、飛びかかるレジェンディール。
「させないよ」
が、間に入った救世に攻撃を防がれる。
彼女の得物を見たレジェンディールは、再度動揺を見せる。
「九頭蛇と牧羊神の彫刻が刻まれた十字剣……! 貴様、何処でそれを!」
「さぁてね?」
謎の問答をしつつ剣と刀を交える二人を他所に、吾紋はクノアに駆け寄り、肩を掴んで揺さぶる。
「クノア! クノア!」
「ミイ……ミイ……」
が、彼は両頬を濡らし、眼前に倒れる恋人を見つめている。
吾紋は息を吸い込み、彼の眼前に顔を近づけた。
「クノア!!!!」
「!!」
「大丈夫、ミハルは未だ生きている」
「ほ、本当か!?」
「あぁ。だが予断を許さない状況だ。だから」
ポケットから、カダレエから渡された通信機を取り出す。
「これを持って、脱出するんだ」
「しかし、どうやって……」
「任せておけ」
そう言うと吾紋は立ち上がり、虚空を見つめる。
そして右腕だけを霧に包む。
霧が晴れると、腕は甲冑に覆われたような姿に変わる。
次いで左ポケットから楔状の何かを取り出し宙に投げ、胴と水平の位置に来た所で、
「!」
思い切り右ストレートを浴びせる。
すると、楔状の何かは虚空に深々と突き刺さり、ヒビを入れていく。
ヒビは広がって行き、人が通れる程の裂け目となる。
「さぁ、早く!」
クノアは頷きを持って返すと、ミハルを両腕で抱き抱え、裂け目を通り抜けていく。
「ありがとう、吾紋」
裂け目が閉じる直前の親友からの台詞を、彼は聞き逃さなかった。
(……良いか?)
アモンからの問いに、吾紋は頷きを持って返す。
(……然らば)
次の瞬間、霧が彼を覆い、アモンへと変わる。
「交代だ」
彼は黒身の刀を握り、標的へと向かっていった。
同時刻 対妖連合司令室
「矢張り、電気及び通信系統が破壊されていました」
息せき切った様子で詩織は戻り告げた。
「これでは、他の支将に助けを求める事も……」
「加えて、ミハル殿が何処へ連れていかれたのかすら分からぬ状態。彼女の救出は困難」
「……」
拳を握り締め、悔しさを滲ませる詩織。
そんな彼女に、伊草は告げた。
「が、先程光明が差された。我主からの伝言によると、ミハル殿は此処へ戻って来られる、との事」
「! 本当ですか!?」
「然り。が、深手を追われている状態である為、ある方が連れて来る形になる、とも」
「ある方って……!」
瞬間、彼女らの側の空間にヒビが入って割れた。
そして、向こうから歩いて来る少年。
彼が抱き抱えているのはーー
「ミハルちゃん!! ……あなたは」
「初龍クノア!」
「!」
「時間がない。先ずミイを治療出来る所へ……」
クノアは努めて冷静に振る舞うも、その端々に震えが見える。
「クノア殿」
伊草は一歩前に出た。
「我主からの伝言申し伝える。先程渡された通信機を使われたし、との事」
クノアは握っていた通信機のボタンを押し、掛ける。
数度の発信音の後、通じる。
「もしもし、吾紋君かい!?」
「カダレエ?」
「クノア様!? どうしてクノア様が通信機を……」
「吾紋から渡され……!! カダレエ」
「はい」
「お前の与える力、人間にも使えるか?」
「恐らくは……」
「頼む!! 今すぐ生命エネルギーを送ってくれ!!」
王の焦った申し出に、カダレエは何かを察する。
「わかりました。では、与える人に通信機を当ててください」
「当てた」
「では……ハッ!!」
瞬間、通信機から光が迸る。
同時に、ミハルの顔に生気が戻っていき、傷や打撲痕も治っていく。
「如何でしょうか?」
「あぁ!! ありがとう!!」
「それは何より……クノア様、今どちらに?」
「……対妖魔組織連合の本拠地と思われる所にいる」
「!?」
「少々、連合の者達と話がしたい。構わないか?」
「承知しました」
クノアは、側にあったソファーにミハルを寝かせると、詩織達に向き直り彼女らを見据える。
「その姿……さっきの口ぶり……あなたが」
詩織の問いに、
「その通り。我は二代目龍帝クノア。貴殿らから見た異界を統べる者であり……貴殿らの世界に多大なる被害を与えさせた者達の上役である」
クノアは答える。
「……」
「先ずは一言、言わせていただきたい……本当に申し訳ない!!」
彼は腰を落とし、勢いよく頭を下げた。
「!」
「これまでの一件、我が信任していた者に全て預けてしまっていた事が起因している!! 奴の言を鵜呑みにし続けた我のせいで、ミイは……貴殿達の長は……」
「……クノア王」
詩織は彼の両肩に手をかける。
「今は一致団結して現状の問題を解決する事が先決です。謝罪等は、それからでも遅くはありません」
「……かたじけない」
再び頭を下げるクノア。
「クノア殿。少々宜しいか?」
そんな彼に、伊草は声をかける。
「我主からの伝言を申し伝える。現状の問題解決の為、貴殿と貴殿の母君の力を貸していただきたい、との事」
「母さ……先代龍帝の? しかし、先代は……」
「心配召されるな。母君は間も無くお目覚めになられる、との事」
「!? どうしてそんな事が……」
「それは……主に聞かれた方がよろしい。我は感知していない故」




