第1話パート1
三月下旬 学園のとある一室
木目調の床と壁に囲まれるようにして、中心部に設置された横長の机。
その机に斜めに向かい合いながら、二人の学生がパソコンの画面を見つめていた。
キーボードをタイピングし文字を入力する少年に、画面をスクロールして視線を上下し続ける少女。
彼らはそれぞれの作業を黙々とこなしていた。
部屋には少年の打つタイピングの音だけが、静かに響く。
が、暫くすると、その音も止んだ。
「ふぅ……やっと出来た」
少年はそう言うと椅子にもたれかかり、両腕を頭上に伸ばして軽くストレッチする。
そんな彼に、少女は労いの言葉を掛ける。
「お疲れ、吾紋。執筆完了?」
「あぁ、後は推敲して出すだけだ。ミハルは?」
「僕も丁度チェックし終えた所」
そう言うと、少女――長宮ミハルは両手の指同士を絡め、掌を前にして腕を垂直に伸ばす。
「これ見て、一年の子達入部してくれると良いね」
そして指を解き腕を下げると、画面に表示された部員勧誘の情報が記載されたデータを眺める。
彼女達は現在、文芸部に所属している。
が、三年生であった先輩達は当月に卒業してしまい、部員数が大幅に減少。
その上、唯一の二年生の先輩は在籍してはいるが顔は出さず、殆ど幽霊部員状態。
実際に活動しているのは、二人含め僅か三人のみという有様であった。
「入ってくれないと困る。あと一人来てくれないと、ここは消滅してしまうからな」
人数が足りなければ、部として認められなくなるのが、この学園の規則であった。
部でなければ当然部室も没収される上、新たに入部する者が現れるまで公式の活動が出来なくなるという厳しいオマケ付き。
「其れは……嫌だ。また三人一緒に居られるようになったのに……」
ミハルの表情が暗く、小刻みに体が震えだす。
(おっと、これはいかん)
吾紋は話題を変えようと、咄嗟に話のタネを頭から捻りだす。
「あー、ちょっと話変わるんだが、良いか?」
「……え?あ、うん」
「今思ったんだけどな?俺達が再会してもうすぐ一年経つだろ?」
「うん」
「その時にも思ったんだが、前以上に、美くしさに磨きがかかったなって」
「……へ?」
瞬間、彼女の顔が赤みを帯び、紅潮する。
「ほ、本当?」
「こんなんに嘘ついてどうする」
即興で出した話題であったが、吾紋の言った事に偽りはなかった。
端正で血色の良い小顔。
腰までかかった、銀色の長髪。
華奢ではあるが痩せこけてはいない、スレンダーな体躯。
そこから漂う儚げな雰囲気。
どれも、十年前から彼女が有し、更に成長させたモノである。
「それだけじゃない。今はそれに加えて内面の強さ? が滲み出ている気がする」
「強さ?」
「あぁ。何というか……頼もしさ? 上に立つ者の風格? それでいて努力家? みたいな」
「……何で分かるの?」
ミハルの顔は少々の驚きを含んだものに変わった。
「何でか?……理由は……ないな。只の直感だ」
「そう……」
彼女は口を閉じ、何か考え込むような悩むような仕草をし始める。
そして、意を決したような顔をし、吾紋に向き直った。
「あのさ、吾紋」
「何だ?」
「……相談したい事があるんだけど、良いかな?」
「……」
吾紋は、ミハルの顔を見る。
真剣で、尚且つ思いつめたような表情。
少なくとも本人にとって深刻な内容である事は間違いなかった。
「……あぁ。良いぞ」
故に彼は乗ろうとした。
相談される、即ち信頼されていると感じると同時に、もし断った事で後に寝ざめの悪い思いをするのは御免被りたかったからである。
「ありがとう……実は」
彼女が二の句を継ごうとした、丁度その時。
ガラガラと音を立て、部室の引き戸が開いた。
二人が振り向くと、そこには人影が一つ立っていた。




