第3話パート2
同時刻 異界
マレアスは、城内のある一室にいた。
「クノア様は、御親友達と楽しく過ごされている頃だろうか」
部屋の扉が開き、誰か入ってくる。
「おぉ、来たか。いや、突然呼び出してすまないな」
彼は振り返り、その人物に近づく。
「実は、外界に出没しているこの世界の者達の事なんだが……送り込んでる犯人の目星がついたのだよ」
そして、人差し指をゆっくり向けーー
「!?」
る事は出来なかった。
彼の脇腹に、鋭利な刀が刺し込まれ、出血していた。
「がふっ……」
たまらず片膝をつくマレアス。
「信じたくはなかった……だが、やはりお前だったのだな……」
眼前の人物は刀を振りかぶり、彼の斬り掛かる。
が、堅牢な腕にガードされ、阻まれる。
「同じ、攻撃は……通用せんぞ!」
凄まじい速さでもって腕を伸ばし、人物を捕らえようとするマレアス。
しかし、傷は予想以上に深く、そのまま前のめりに倒れてしまう。
「……」
人物は、彼を斬り殺すのを諦め、その場を後にする。
部屋には、床に倒れ伏し意識混濁状態となっているマレアスだけが残った。
「い、急いで、クノア様に伝えねば……」
彼の意識は、そこで途切れた。
同時刻 駅前百貨店
「「「ごちそうさまでした」」」
あっという間に各々のスイーツを平らげた吾紋達。
飲み物を啜り一息つくと、訪れる沈黙。
「……」
「……」
「……」
皆、このような場所で集まる事自体初めてであった為、会話が思いつかないのだ。
(少々早いが……決行するか)
吾紋はコーヒーを飲みきると、席を立ち二人に言った。
「どうした?」
「すまないが、ちょっと席を外れる。あー気にしないで良い、すぐ戻ってくるから」
去り際、彼は片目を瞬きさせ、こう付け加えた。
「お二人さんで、仲良く話でもしててくれ」
「「!」」
今のが、去っていく彼からの隠されたメッセージであると、二人は瞬時に読み取った。
(ク、クノアと、二人きり。何か話さないと……えーとえーと……)
(言わなければ……確認せねば……)
「「あの……あ」」
「クノアから、良いよ」
「いや、ミイの方から……」
「じゃ、じゃあ……クノアってさ、好きな人、いる?」
(!!?)
まさかのカウンター的質問に、内心動揺しまくるクノア。
(お、落ち着け、ここは素直に……)
「あ、あぁ。実は、な」
「え……」
瞬間、ミハルの顔から血の気が引いていく。
彼女は、好きな人が自分である事に気づいていない。
「そ、そうなんだ……どんな人なの?」
「どんな……照れるな」
そんな事はつゆ知らず、またもや素直に返事をしようとするクノア。
「強く、美しい人だ。静かで凛としていてながら時折凄く可愛らしい一面も見せてくれる……俺にとっては、心の支えであり生きる意味、と言っても良いかもしれない」
「……」
(本人を目の前にしていうのは、やはり心臓が高鳴るものだな)
(そんな凄い人がいたら……僕が入る余地なんて、どこにも……)
深刻なすれ違いに、二人は気づかない。
「そ、そうなんだ……あ、あれ?」
「! ミイ!?」
「お、おかしいな……何で、私泣いて……ごめん……あれ?」
「大丈夫か? 具合でも悪いのか?」
「ただいまー、ってどうしたどうしたどうした?」
帰って来た吾紋は訳がわからない状況に困惑した。
僅か数分の間にミハルが泣き、クノアがオロオロしている。
「一体何があったんだ」
「わ、わからん。ただ話をしていただけなんだが……」
「だ、大丈夫……二人とも、大丈夫だから」
「いやいや、ボロ泣きしてるじゃないか」
三人がアタフタし、他の客や店員の注目が集まりかけたその時であった。
二種類の着信音が、鳴り渡った。
発信源は、ミハルとクノアの携帯であった。
吾紋を残し、店外に出て電話に出る二人。
通話する事数十秒。
戻ってきた二人は、何やら焦りの表情を浮かべながら、帰り支度をし始めた。
「どうしたんだ、二人とも」
「すまない。火急の用が出来た」
「僕の方も。お代、ここに置いておくね」
二人は代金を机に置き、足速に店を出て行った。
一人残される吾紋。
「何かあったのか?」
「機理神君」
「え? うぉっ」
振り向くと、そこにはいつの間にか救世が立っていた。
「びっくりした。何ですか急に」
「緊急事態だ。すぐに来てくれ」
彼女からも僅かながら焦りを吾紋は感じ取る。
「は、はい」
彼らは代金を支払って店を出、百貨店内の監視カメラから死角の位置に辿り着くと、異界へとテレポーテーションした。
同時刻 対妖連合本拠地
私服から仕事用の服に着替えたミハルは、急いで中央司令室へと向かう。
「ミハ……長宮長官!」
自動ドアを潜り抜けた彼女を、詩織が出迎える。
「一体何事ですか?」
「話は後程。先ずはお席に」
促され、楕円卓の端に着席するミハル。
その他に、十二存在する席の内、現在埋まっているのは四席。
詩織、半蔵、伊草、そしてーー
「遅かったやないの、姐はん」
スーツにファー付きコートを羽織った糸目の若い男。
名はイルマ・ヴァッファライト。
数年前に連合入りし支将となった、比較的新参者である。
「イルマ伯爵。以前も言いましたが、彼女の事は公では長宮長官と呼んでいただきたいのですが……」
詩織の嗜めに、
「えぇやないの。俺にとったら上の存在やから姐さん、つまり姐はんや」
独特な口調で持って返すイルマ。
「それで、火急の用とは?」
ミハルの問いに、
「これなんです」
半蔵は返事をしつつ、一枚の封筒を渡す。
「? これは?」
「つい先程、異界の王の使者を名乗る者から、私が預かったものです。代表に渡してくれ、と」
封を開けると、中から一枚の紙が出て来た。
「……これは!?」
それは、会談の招待状であった。
内容は、怪物――妖魔か異種族か判別しきれていない者――達の処遇について話合いたい、という物である。
「尚、出席される場合には武器の携帯並びに使用を禁じる。代わりに一名、見届け人を連れる事を認める……」
「えらい、上からな物言いやなぁ」
「あくまで主導権は向こう側、という訳か……」
「時刻は……後三時間!?」
「そらまた急な話やなあ」
「長官。行かれますか?」
詩織の問いに、ミハルは頷きを持って返す。
「平和的に解決できる可能性が存在するのであれば、行かないわけには参りません」
「長官」
「良くぞ仰いました。では、見届け人は私にお任せ願えませんか?」
「頼みます。吏折補佐官」
十分後 対妖連合本拠地廊下
薄暗く長い廊下を、コツ……コツ……と足音を立てて歩く人影が一つ。
「ちょっと、待ってくれんか?」
その人影を呼び止める者が一人。
暗闇から出て来たその者は、誰あろうイルマである。
「うまいことしやはりましたな。今起きてる一連の怪物出没騒動……その黒幕は、あんさんでっしゃろ」
瞬間、刀を取り出し斬りかかる人影。
しかし、
「おっと!」
イルマが掌を翳した途端、人影は金縛りにあったように体の自由を奪われ、手を段々と垂れ下げられていく。
「う、動けん……」
「それがあんさんのほんまもんの声でっか。随分と低い声してまんなぁ」
「……」
やがて両膝を着く体勢となる人影。
イルマは掌を翳した状態で近づいていく。
「さぁ、あんさんの正体と目的、はいてもらいまひょか」
「……」
「聞こえまへんで。もっと大きな声で」
「……◼️◼️◼️◼️◼️◼️」
「!? な、なんでそれを知って……」
イルマが動揺のあまり、念力を緩めてしまったのを人影は見逃さなかった。
「!? がはっ!?」
壁にクレーターが出来るほどの衝撃でもって吹っ飛ばされるイルマ。
「あ……あ……」
「未だ息が有る……流石は『惨夢』、大したしぶとさよ」
項垂れ沈黙する彼を、念力が解けた人影は立ち上がり見下ろす。
「彼の大軍勢も手中に収めたかったが……まぁ良い」
そして再び刀を構えて振り翳し、
「その首を持って、狼煙とする!」
イルマの首目掛けて切先を迫らせた。
「そこで何をしている!!」
思わず寸前で止め、声のした方を向く人影。
そこに立っていたのは伊草坊。
「貴様、そこに直れ!! 待て、逃げるな!!」
追いかけようとする伊草であったが、
「! イルマ殿! 先の者にやられたのか、しっかりなされよ!」
重症を負っているイルマの手当が先と判断、彼を抱えて疾駆した。
(先程の者、見間違いか? いやしかし、あれは確かに……)
医務室へ着き、応急処置を施した後ベッドに寝かせると、次は司令室へ疾駆。
「一大事だ! イルマ殿が襲撃を……詩織殿だけか? ミハル殿は?」
「えっと……ミハルちゃんなら、たった今半蔵さんと一緒に会談場所へ……」
「!! 一足遅かった!!」
十数分前 異界
「一体何者の仕業だ……! はっ、クノア様!!」
「今帰った! カダレエ、一体どういう事なんだ!」
「それが、私にも何が何やら……ただ一つはっきりしているのは……」
カダレエは、自身の背後に備えられたベッドに視線を向ける。
そこには、
「一命は何とか取り留められた、という事です」
包帯を巻かれ、横たわるマレアスの姿があった。
「そ、そうか……それは、何よりだ……」
「はい。後数センチ刃が深く刺さっていましたら、危うかったでしょう」
「しかし、マレアスの肉体に傷を、まして深傷を負わせる者がいるとは……」
「傷口を確認しました所、肉の繊維と繊維の隙間に差し込むような形で斬られていました……このような芸当を彼に気取られず出来るとは……相当な手練れに違いありません」
それからもう一つ、とカダレエは続け、ヴェートを呼ぶ。
彼は一枚の封筒を、クノアに手渡した。
「これは?」
「我々が駆けつけた時に、マレアス様の手元に落ちていたものでございます」
やや早口に、ヴェートは告げる。
「大妖魔組織連合……宛名は当代龍帝殿……俺か?」
「左様にございます」
封を開け、中身を確認するクノア。
そこには、会談の招待状が入っていた。
「我々が預かっている貴方方の世界の者達の処遇について長同士で話合いたい、至急来られたし……日にちは、三時間後!?」
「では、急ぎ参りましょう」
そう言ったのはヴェートであった。
「あ、あぁ」
押されるがまま、クノアはヴェートに先導され、発着口へと早歩きで向かう。
「……待て、ヴェート」
途中、彼はある違和感に気づき、立ち止まった。
「如何なされました?」
「……なんで、お前が会談の場所を知っているんだ? この招待状には何も記載されてなかったぞ」
「あぁ、それはですねぇ……こういう事だ」
「!?」
ヴェートの掌から噴出した煙が、クノアを包んでいく。
その様子を、無表情にヴェートは見つめていた。




