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幕間〜2代目龍帝誕生〜パート1

初龍クノアは、幼き頃から両親の顔を知らずに育った。

父は彼が生まれるより前に亡くなったと聞かされ、母も仕事が多忙な為に会った事は一度もなかった。

が、全く交流がなかったわけではない。

月に一度、母からは手紙が来たのだ。

その内容はいつも、彼への詫びから始まり、彼と会える事を望む旨で締めくくられていた。

クノアが吾紋やミハルとの出来事を書いて送った時には、涙の滲んだ紙に喜びの文が綴られていた事もある。

故に彼は孤独ではなかった。

それに彼には時々、家を訪ねて来る者がいた。

筋骨隆々の威圧感ある巨体とは裏腹に物腰丁寧な男、名をマレアスと言った。

マレアスは、五日に一度は彼の元を訪れ、

彼が来ない日には、彼の部下を名乗る者達が日替わりで彼の様子を見に来ていた。

それが物心つく前から行われていた為、クノアは特段おかしさは感じていなかった。

そんな彼にも不思議な事があった。

「どうしてマレアス達は、俺の事クノア様って呼ぶの?」

「それは、クノア様が我らの主君の御子息だからです」

「ゴシ……?」

「いずれ、わかる時がきます」

そう言うと、マレアスはクノアの肩に手を置いた。

またある時は、こんな事が。

「マレアス」

「如何なさいましたか?」

「俺、背中がむず痒いんだけど、何か出来てないか見てくれる?」

「構いませんよ……こ、これは!?」

「? マレアス?」

「おめでとう御座います、シソ様。クノア様に遂に……!」

後から鏡を渡されたクノアは、自身に翼が生えている事に気づいた。

最初は驚いた彼であったが、直ぐに慣れ、翼を動かしたりしまったりするコツも覚えた。

「良いですか、クノア様。翼の事は私共以外に話してはなりませんよ」

「吾紋とミィにも?」

「はい」

「……わかった」

その時は少々の不満に感じるも、それ以外は特段不便もない為、すぐに慣れた。

クノアは、自分の姿や生活状況が世間一般のソレと違うとは、幼いなりに認識していたが、辛さや悲しさは殆ど感じなかった。

母は現状手紙のみのやり取りではあるが、間違いなく自分を気にかけてくれている。

マレアス達も自分に親身になって接してくれている。

何より、大親友の吾紋と恋慕うミハル、二人の存在が彼を支えていた。

故に彼は、辛さも苦しさも殆ど感じなかった。

あの日が来るまでは。

「クノア様」

「マレアス。どうしたんだ? おっかない顔して」

「……」

いつもポーカーフェイスを崩さない彼が、焦りの表情を浮かべている。

その事が、クノアに不吉な予想をさせた。

「まさか……母さんに何か」

「いえ、シソ様はご無事です。只……」

「只?」

「……」

「どうして口を噤むんだ? 頼む、言ってくれ」

「……わかりました」

マレアスは、重く重く口を開いた。

「クノア様、あなたに次代の龍帝になっていただきたいのです」

「……へ? りゅ、龍?」

「時間がございません。失礼」

次の瞬間、クノアは彼の翻したマントに包まれ、視界が暗くなる。

そして、次に開けた時にはーー

「何だ……ここ」

彼は崖の上に立っていた。

見下ろした先に広がっているのは、巨大な都市。

しかし建物は崩れ、大地はひび割れ、荒廃の一歩手前にあるのが遠目からでも分かった。

「一体……これは」

「クノア様、今から私が申し上げる事、よくお聞きになってください」

有無を言わせない雰囲気のマレアスに、彼は頷く。

「ここは、クノア様が先程までいた世界とは別の世界。所謂異界です。そして、その異界に君臨し、統治していらしたのが龍帝シソ様、貴方のお母様でございます」

「!?」

驚きを隠せないクノアに対し、話を続けるマレアス。

「今から五年前、この異界からクノア様のいた世界に侵攻を企てた者達がいました。頭目の名はラスカゾーク。十本の触手を有する巨大な魔物です。奴は、同調した者達を束ね軍を形成、次元の壁を破ろうとしました。それを迎え撃ったのが、シソ様率いる龍帝軍です」

「……」

「ご理解いただけましたか?」

「な、なんとか……えっと、つまり母さんはこの世界の王で悪い奴と戦った、って事?」

「その通りでございます。では、移動しながら話を続けましょう」

その後も語られる突拍子もない話を、クノアは集中して聞き、意味を彼なりに理解し何とか飲み込む。

マレアスによると、シソはラスカゾークと相対してこれを下し、侵略軍の八割以上の戦力を削ぎ、事実上の壊滅に追いやった。が、その過程で軍民両方に多くの犠牲が出てしまったという。

それは、シソ自身も例外ではなかった。

「シソ様は深傷を負われ一命こそ取り留めたものの、絶対安静の状態が続いています」

クノアを抱き抱え、韋駄天の如き速さで持って駆けながら、マレアスは話し続ける。

そして遂に、都市の中心部にそびえ立つ長大な城へとたどり着いた。

「何で、この城だけ壊れてないの?」

「ここは、民の避難場所と軍の本部を兼ねています。最後の砦のため、皆命懸けで守り抜いたのです」

「命懸け……」

「そうです。命懸けです」

「もしかして、皆この合間に俺の所へ?」

「先に申し上げておきます。クノア様、我々は自分達から進んで貴方様の下へ参っていたのです。気に病まられる必要は全くございません」

「……ありがとう、マレアス」

「……さ、着きましたよ」

城の最上階にそなわった、ただ一つの扉を開き、二人は入室する。

彼らの目に飛び込んできたのは、中央の台に仰向けに寝かされた一人の女性。

目を閉じ動いていないにも拘らず、美しく荘厳な雰囲気を漂わせるこの女性。

その枕側のテーブルには、ペンと紙と封筒と、綺麗に置かれた封筒の数々。

「……母さん?」

「……そして我らの王、龍帝シソ様」

初めて会った母に、地面に降りて駆け寄るクノア。

「クノア様! シソ様は未だ絶対安静の身、近づかれては……」

「……良い……のよ、マレアス」

声の主は、台の上で上体を静かに起こした彼女であった。

「!? シソ様!? お目覚めになられたのですか!?」

「可愛い我が子が……来てくれたのに、起きないでは……いられませんよ」

「母さん!」

「クノア、初めまして……かしら、ね。手紙、いつも、読んでるわ、ありがとう」

たどり着いた息子を愛おしげに抱きしめるシソ。

「ごめんなさい。貴方には、何も、してあげられなくて……」

「そんな事ない! 母さんはいつも俺の事を気にかけてくれたじゃないか、だから手紙だって……母さん?」

瞬間、彼女は再び上体を降ろし、眼を閉じてしまった。

「母さん! 母さん!」

「シソ様!」

それからクノアは泣いた。たまらなく悲しくなり、泣いて泣いて泣きじゃくった。


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