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第2話パート4

吾紋が再び地に足をつけられたのは二十分程後の事であった。

彼らは今、城の中腹部分に作られた発着口にいる。

「おじゃましまーす……で、良いんだよな?」

小声で呟いたため、殆どの者が反応を示さない。

ゴーカサット(救世)のみが、僅かに頷いた。

「では、我は客人を案内する。ゴーカサットは我と共に。他の者はスイッチ並びに容疑者を所定の部隊に引き渡した後、持ち場に戻ってくれ。以上解散」

哈ッ、と十数名の声が響いた後、兵士達は姿を消した。

その場には、吾紋達三人が残った。

「では、行こうか」

尚も威厳を含んだ声で話すクノア。

自宅でも、いや自宅だからこそ姿勢を崩さずにいるのだな、と吾紋は思った。

薄暗く殺風景な廊下を歩く事数分。

階段を登る事五回。

再び廊下を歩く事数分。

そして漸く着いたようで、一室の扉の前に立ち止まるクノア。

「ゴーカサット。ここまで彼を連れて来てくれてありがとう。すまないが、二人だけで話がしたい。外してくれないだろうか?」

彼女は頷くと、体を半回転させ来た道を戻っていった。

【それじゃ機理神君。後でねー】

【はい。……あ】

「ゴーカサットさん、あ、ありがとうございました」

遠巻きに言う吾紋。

「さ、入られよ」

クノアは扉を開け、吾紋に入るよう促した。

「あ、それじゃ、失礼します」

入った先の光景に、彼は少々面食らう。

皺一つないベッド。

塵一つないカーペット。

埃一つない机の盤面。

整理整頓された清潔なその空間は、ホテルのスイートルームにも引けを取らなかった。

「クノアって、綺麗好きなんだな……」

ドアを閉め、鍵をかけるクノア。

「あぁ。散らかっているよりかは、気分も晴れやかになるからな」

「あ、声戻った」

「さっきまでのは嫌だったか?」

「いや? 威厳と貫禄が出てて俺は好きだぞ」

「そうか……ありがとう。さ、遠慮せず座ってくれ」

促され、吾紋は二人掛けの椅子の片側に座る。

続いてクノアも。

「すまないな。茶や菓子の用意もしてなくて」

「急に来てそこまで要求しないさ」

「それもそうだな……ところで、聞きたい事があるんだが」

「何だ?」

「どうしてゴーカサットと吾紋が接点を持っているんだ?」

「え……」

返答に悩む吾紋。

まさか全部話すわけにはいかない。

「えーと、まず夜道で謎の怪物に襲われてな」

「……どんな見た目だった?」

「確か、角の生えた巨大な狼って感じだったな」

「……」

「その時、助けてくれた組織がいて」

「……」

「でその組織にいる人の知人という伝でゴーカサットさんと会って」

「……」

「クノアの家に連れ行てってくれるって事でついていった。こう言うわけだ」

「……」

「クノア、せめて相槌位は打って欲しいんだが……後大分深刻な表情に」

「吾紋」

すっと立ち上がるクノア。

「ど、どうした」

「本当に申し訳ない」

そして深く深く頭を下げる。

「え? どういう……まさか、あの怪物」

「あぁ、この世界の者だ」

そしてクノアは、吾紋を信用して話す、と前置きした上でこの世界で起こった事について話し始めた。

「事の起こりは十七年前、先代龍帝が統治していた時だった。その頃この世界は、全く問題ないというわけではなかったが、それなりに平和な日々が続いていた。だが……」

彼の表情は険しくなる。

「異界へ侵攻を企て、反乱を起こした者達がいた。先代龍帝達は戦い、敵の大部分の戦力を削ぎ、勝利した。多くの犠牲と引き換えに」

「……」

「先代自身も深傷を負い、長期間絶対安静にしなければならなかった。が、戦いにより大規模な被害を受けた都市の復興も行わねばならなかった」

「配下の者達に一任はできなかったのか?」

「勿論任せられる所は任せていた。が、人員不足な上に民は混乱の真っ只中にあったからな。そうなると……」

「圧倒的な力と統率力を持つ存在……龍帝の後継者が必要、と?」

クノアは頷く。

「そして白羽の矢が立ったのが……息子であった俺、というわけだ」

「……」

「あまり驚かないんだな」

「さっき、カダレエって人が教えてくれたからな」

「カダレエか……彼にもいつも助けられている。後で礼をしなければな」

「四天王って言われたんだが、彼とゴーカサットさん以外にもいるのか?」

「あぁ。いずれも、頼りになる者ばかりだ」

「へぇ……それで? 怪物が俺らのいた世界にでてきたって事は……その反乱軍? の残党が何かしてるって事か?」

「それもあるだろうが、多くが行方不明届が出されている者ばかりなんだ。ヴェートの報告ではテレポーテーションの類が使われているらしいんだが、それに類似した能力を持った者の誰とも合致しなかったらしい」

自軍にも探りを入れたが該当者なし、と彼は付け足す。

「で、ただ手をこまねいているわけじゃないんだろ?」

「あぁ。異界の代表宛に、詫びと目下調査中の文言を記した書簡を送っている。一度も返事は返って来ていないがな……わかっている。凶暴化した彼らが向こうでどんな事をしてしまっているか……処分されていても文句は言えないだろう……」

「クノア……」

為政者として、上に立つ者として、今まで辛く苦しい決断を何度もして来たのだろう。

吾紋は親友の顔に、それを見た。

「話は変わるんだが、吾紋」

「?」

「どうして俺を訪ねに? 急な用事でもあったのか?」

「え? あぁいや……」

彼はすっかり頭から抜け落ちていた。

必死で捻り出そうと、思考をフル回転させる。

「えーとだな……ほら、三日後遊びに行くじゃないか?」

「! あぁ」

クノアの顔に、少々の明るさが戻る。

「それでな? どんな所に二人は行きたいんだろうかって思ってな」

「……それを聞きに、ここまで?」

「……まっ、そんな所だ」

「……ふっ、ははははっ、それで本当に来れるとは、すごいな吾紋は」

思わず吹き出すクノア。

そんな彼の顔を見たのはいつ振りだろうかと、思い返す吾紋。

そしてひとしきり笑った後、彼はポツリと言った。

「なぁ、吾紋」

「何だ?」

「……一つ、相談があるんだが、構わないだろうか」

「!……あぁ、良いぞ」

「ありがとう。実は、ミィの事でちょっと」

「ミハルの?」

話の流れに既視感を覚える吾紋。

「俺は今、この世界を統べる存在だ。抱えている問題も山ほどある。だから今すぐにはできない。できないが、若し問題が一区切り付き……」

「悪いが、簡潔に頼む」

「!……すまない。まどろっこしかったな」

クノアは一拍置き、言った。

「若し、問題が一区切り付き時間が出来た時、俺は……ミィに自分がミィに抱く好意を告げる」

「……それはつまり、プロポーズ?」

両手でハートを作った吾紋の問いに、

「あぁ」

頷くクノア。

その顔は普段通りの落ち着いたものであったが、耳たぶだけは赤みを帯びていた。

「目処は立っているのか?」

「まだわからない。だがせめて確かめたい事がある」

「それは?」

「……ミィに、好きな者が他にいないか」

(いないよ、ミハルはクノア一筋だ、って言いたい……!)

「三日後、俺はそれとなく聞き出すつもりだ。若しいるなら……俺は潔く諦め、手を引く覚悟だ」

(そんな悲しい顔しなくても杞憂だ、って言いたい……!)

「どうした吾紋? さっきから難しい顔しているが……」

「ん? 気にしないでくれ」

「そうか……」

「で、相談っていうのは?」

「遊びに行った時に数分で良い。俺とミィが二人きりになれる時間を作ってくれ」

「それだけで良いのか?」

「構わない」

「……わかった。作ろう」

「ありがとう吾紋。吾紋に相談出来て、本当に良かった」

「親友にそう言われると嬉しいもんだな」

【機理神君。そろそろ良いかい?】

不意に、彼の頭に響く声。

【わかりました。丁度こっちも一段落ついた所ですから】

【了解。じゃ、部屋の近くで待ってるよ】

「さて……じゃ俺はそろそろ、お暇するよ」

「そうか。では近くまで送ろう」

「あぁ大丈夫だ。ゴーカサットさんと落ち合う手筈だから」

そう言うと、吾紋は立ち上がり出口へと向かう。

「そうだ。行きたい所、どこかあるか?」

「吾紋とミィの行きたい所で構わない」

「そう言わずにさ。ないか?」

クノアは少々悩み、言った。

「タルト食べられる所、が良いな」


その後、クノアと別れた吾紋達は都市を出、最初に来た地点目指して歩いていた。

(クノア君とは、じっくり話せたかい?)

(えぇ、それで色々と知れました)

(そうか……)

(あ、そういえばクノアの会話の中にヴェート? って名前が出てきたんですけど、知ってますか?)

(知ってるよ。彼も四天王の一人だ。素性は私以上に謎の存在にも拘らず、人当たりの良い性格と話術、そして彼の齎した最初の功績によって、現在では異界との交渉にまつわる全権限を有している)

(功績?)

(なんでも、龍帝軍の誰も発見できなかったラスカゾーク軍の本拠地の場所を告げ、説得に一役買ったそうだよ。彼の弁によって龍帝側になった者もいたらしいし)

(へぇ……)

(勿論、最初は警戒する者もいたそうだけど十年以上かけて接している内に打ち解けられたそうだ)

(信用か……あの、ゴーカサットさん)

(何だい?)

(急ですが、以前見せていただいた未来? もう一度見ても、よろしいでしょうか?)

(構わないよ)

彼女から千領瞳を渡され、覗く吾紋。

見えるのやはり、

「……」

倒れるミハル、喉を刀で貫かれるクノア、彼を貫き高笑いする何者か、であった。

(変わりは?)

(ないですね。でも、接点が見えた気がします)

(ほぉ? それは?)

(ミハルは対妖魔組織連合の長、クノアは異界を統べる王、怪物はクノアの世界から来ていて、それをミハル達が対処しています。とすると……二つの勢力の長同士で会談が行われても不思議ではないと思うんです)

(なるほど。それなら、二人が一緒にいるというのは辻褄が合うね。では、三番目の謎の人物は?)

(それは未だわかりません。長を倒して漁夫の利を狙う人物じゃないかって思うんですが……)

(漁夫の利……いや、良い線いってるねぇ)

(……まるで、事を全部知ってるような口ぶりですね)

(私も流石に全部は知らないさ ……っと、この辺で良いだろう。機理神君、もう一回目閉じて)

言われた通り目を閉じ十数秒後、再び目を開けると見慣れた風景が広がっている。

日は傾き、カラス達が空を旋回していた。


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