第8話:ドウジ師匠
宿の自室
破れた袖。裂けた裾。乾いた血の跡。
脱いだ僕の服は、悲惨さで染まっていた。
「……運が良かった」
口に出して、苦く笑った。
⸻
次の日
僕はまず、防具屋を周った。
初心者向け、防具一式。
100,000G。
……高い。
今の手持ちは、約52,000G。
買うどころか、半分にも満たない。
正直、最初から買う気はなかった。
僕は、鍛冶職人だから。
⸻
鍛冶場
少し気が重い。
でも、あの人を頼らないと、先には進めないと思った。
この鍛冶場の主。
ドウジ。
「ド、ドウジさん。
防具について、教えてください。」
緊張した声に、金床を叩く手が止まった。
背中を向けたまま、ぶっきらぼうな声。
「……ふん」
それだけ言って、顎で招いた。
ドウジは作業の手は休めず、
背中越しに相談に応じてくれた。
⸻
話は、
思っていたよりも早く核心に入った。
「防具が必要?」
「はい」
「防具無しで、今まで戦ってたのか?」
背中越しの相手からは見えていなくても、
黙って頷くことしかできなかった。
「お前。アホだろ。」
ぐさりと刺さる言葉。反論できない。
続けてドウジが口を開く。
「で、あのゴーレムの核はどうした?」
「……武器に使いました」
……
ドウジの動きが、完全に止まった。
ゆっくり、こちらを振り返る。
ゴーグルをしたヒゲモジャの顔は、
あんぐりと口を開けていた。
「……は?」
「スウィフトハンマーのヘッドに――」
最後まで言い切る前に、深いため息。
「……お前。アホだろ。」
容赦がなかった。
普段は無口なドウジが、
この時ばかりは、矢継ぎ早に喋った。
「ゴーレムの核。硬度と耐久力の塊だ。
武器にしてどうする。壊れにくいってだけだろ。
防具向きの素材だ。常識だぞ。」
鍛冶場の床は、いつもより汚く見えた。
ドウジは、少しだけ考えてから続けた。
「あとなぁ。
状態があれなら、売れば、
1,000,000Gくらいの値はついたな。」
……百万。
床は、ぐらりと歪んだ気がした。
足が、少しだけ震えた。
理解が追いつかない。
「……お前、なんも知らねぇんだな。」
ドウジの声は、怒りより呆れに近かった。
ちらりと、スウィフトハンマーに目をやり、
ゆっくりと僕に視線を移す。
「まさか、お前。
付与も知らねぇのか」
「……付与」
また、知らない言葉だ。
ドウジは、
天を仰いでから頭を急降下させた。
「はぁぁぁ……」
⸻
「核はな」
ドウジは金床から離れ、腰を下ろした。
お茶を啜りながら、ゆっくりと話し始める。
「使い道が三つある」
一本、指を立てる。
「そのまま装備に加工する」
「効果はデカい。外せねぇがな」
二本目。
「魔玉にする」
「効果は落ちるが、付け替えができる」
三本目。
「売る」
「戦闘職の奴は、基本これ」
ドウジの説明によると――
核の使い道は、一つにつき一択。
装備素材にするか、魔玉にするか、あるいは売るか。
選び直しはできず、加工に失敗することも珍しくない。
やり直しは、きかない。
そして付与とは、
装備に性質を“足す”ための技術らしい。
モンスターの核をそのまま装備に加工すれば、
元となったモンスターの特徴が、装備者に反映される。
スライムの核なら、防具として打撃ダメージを和らげ、
ホーンラビットの核なら、動きの速さを底上げする。
一方で、核を魔玉と呼ばれる形に加工すれば、
効果が限定的になるなど、恩恵は減る代わりに、
付け替えが可能になる。
さらに、技術的な話では、
二つ以上の魔玉を付けられる装備は、
作れる職人が、世界で十人ほどしかいないらしい。
「俺でも、三回しかねぇ」
さらっと言ったその一言で、
改めて、ドウジが只者ではないことが分かった。
⸻
「あぁ、あと」
ドウジは、さらに一言付け足す。
「さすがにアイテムは大丈夫だよな」
……あ。
この世界には、
薬草も、毒消し草も、当たり前に存在していた。
元々お金がなくて、
アイテムに気が回っていなかった。
それと、この街が“装備の街”ということもあり、
アイテムショップが、あまり目につかなかった。
――そりゃ、ありますよね。。。
鍛冶職人は装備だけを作る職業ではなく、
素材さえあれば、アイテムの製造も可能とのことだ。
一通りの説明を終えると、
ドウジは頭を抱えながら、作業に戻っていった。
講習料は、100Gだった。
⸻
次の日
僕は、
ギルドのクエストボードの前に立っていた。
良い防具を作るための、
最適な核を手に入れたいと考えていたからだ。
一枚の依頼書に目が留まり、思わず声が漏れた。
「……これだ」
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