第6話:鍛冶職人の本業
宿のベッドに腰掛け、
僕はゆっくりと息を吐いた。
身体はまだ重い。
腕も脚も、芯に疲労が残っている。
でも、頭だけは妙に冴えていた。
考えを整理しなければならない。
これから先、生き残るために。
⸻
ゴーレムは倒せた。
スライムも倒せた。
どちらも、《核心の一打》で、一撃。
なのに、ホーンラビットには勝てなかった。
理由は、はっきりしている。
当たらなかった。
どれだけ強い力を持っていても、
どれだけ確実な“勝ちの手段”があっても、
当たらなければ意味がない。
当たれば勝てる。
だが、当たらなければゼロだ。
⸻
ここで、
ようやく違和感の正体に辿り着いた。
ゴーレム戦の最中。
死と隣り合わせの状況で、
僕は不思議なほど冷静だった。
攻撃を避けながら、
動きを観察し続け、
集中力が切れなかった。
半日以上、走り回っていたのに、
脚が止まることはなかった。
おかしい。
転生前の僕は、そんな人間じゃない。
三時間ゲームをすれば集中力は切れるし、
階段を駆け上がれば、
息が整うまで、しばらく動けなくなる。
つまり――
この世界では、
職業ごとにステータス補正がかかっている。
戦闘職のクラスメイトが、
「身体能力が上がった」と言っていたのを思い出す。
なら、鍛冶職人はどうだ?
素材を見極める観察力。
精密な作業を続ける集中力。
高温の炉の前で打ち続ける体力とスタミナ。
……辻褄が合う。
おそらく、僕は
速くはならない職業だ。
レベルが上がっても、
素早さの伸びは、期待できない。
⸻
じゃあ、どうする?
「速くなる」のを諦める。
代わりに、遅さを取り除く。
原因は、はっきりしている。
今使っている武器。
王城で支給された、全身鉄製のハンマー。
重い。とにかく、重い。
破壊力はある。
だが、初速が遅い。振り直しが効かない。
良いハンマーだ。
でも、今の僕には、合っていない。
《核心の一打》は、威力を求めるスキルじゃない。
必要なのは、重さでも、破壊力でもない。
精度。速度。再現性。
武器は、壊すためのものじゃない。
当てるための道具だ。
答えは、出た。
あとは、作るだけだ。
⸻
翌日。
僕は、クラフビルドの鍛冶場を訪れていた。
目的は一つ。
核の鑑定と、作業場を借りること。
「……またお前か」
炉の前に立つドワーフは、
相変わらず不機嫌そうに眉をひそめた。
「装備の発注依頼か?」
「違います」
「帰れ」
相変わらずだ。
でも、今日は引かない。
僕はアイテムボックスを開き、
ゴーレムの核を取り出した。
一瞬。
ドワーフの目つきが変わった。
「……それを、どこで手に入れた」
「討伐しました」
沈黙。
「……貸せ」
核を手に取ったドワーフは、
しばらく無言で眺めたあと、低く唸った。
「無傷に近い。
核を正確に撃ち抜いてる」
ちらりと、こちらを見る。
「……小僧。
これは相当な代物だぞ」
価値の詳細は、まだ聞かなかった。
今はそれより――
「作業場を、
貸してもらえないでしょうか」
ドワーフは、頭をかきながら少し考える。
「1日の使用量、100Gだ。」
……100G。
思っていたより、ずっと安かった。
「お、お願いします!」
ドワーフは顎で、鍛冶場の奥を示した。
「一角だけだ。キレイに使えよ。」
⸻
試作は、失敗から始まった。
軽さを求めて、
石のヘッド、木の柄。
……大破。
石のヘッドは、対象に当たった瞬間壊れ、
衝撃の反動で、柄が耐えきれず折れた。
大破。
大破。
大破。
何度も失敗を繰り返した。
試行錯誤の末、
ゴーレムの核をヘッドに使うことにした。
鉄より軽く、石より硬い。
柄には木材。
だが、耐久が足りない。
そこで、スライムの核を木材に合成する。
柔軟性と耐久性が上がる。
素材を組み合わせ、
何度も叩き、調整する。
⸻
完成したそれを、手に取る。
軽い。
驚くほど、軽い。
試しに軽く振ってみる。
速い。
「……スウィフトハンマー」
呟いた名前が、妙にしっくりきた。
背後からドワーフがやってきて、
完成したハンマーを、黙って一度だけ持ち上げた。
軽く振り、重心を確かめる。
「……悪くねぇ。名前は?」
「あ、はい。スウィフトハンマーです。」
「俺は、ドウジだ。」
それだけ言って、炉の方へ戻っていった。
慌てて追いかけ、改めて自己紹介をした。
⸻
宿屋
僕は、ベッドに横になり、
何度も手の中の感触を確かめていた。
まだ、分からないことは多い。
欠点も。
でも。
この武器ならきっと、
あの速さにも、届く。
そんな確信だけが、
胸の奥で、静かに熱を帯びていた。
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