第5話:生存
ドンドンドンッ。
荒々しい音で叩き起こされ、
反射的に身体を起こした。
「お客さん!大丈夫かい!?」
ドア越しに聞こえる声に、慌てて返事をする。
「あ、はい……!大丈夫です!」
一瞬の沈黙のあと、安堵したような息。
「……はあ。まあ、無事ならいい」
階段が軋む音が遠ざかっていく。
ふう、と息を吐き、
もう一度ベッドに身を預けた。
……生きてる。
全身が鈍く軋む。
その痛みと共に、昨日の出来事が、
少しずつ輪郭を取り戻していく。
⸻
ゴーレムのドロップアイテムを拾い集めた後、
おぼつかない足取りでクラフビルドの街に戻った。
冒険者ギルドの扉を押し開け、
僕は何も言わず、受付へ向かった。
「……あ!戻ってきた!」
受付嬢が僕に気がついて、
駆け寄ってきた。
「はい」
それだけ答えると、意外なひと言が返ってきた。
「……良かった。」
受付嬢は大きく息を吐きながら、
項垂れるように僕に頭を下げた。
「申し訳ありませんでした。
こちらの不手際で、
昨日の依頼書に不備がありました」
ギルド側のミスで、ゴーレムの受注ランクが、
二段階も低く設定されていたらしい。
本来、僕のランクでは受けられない依頼だった。
受付嬢は、頭を下げたまま、静かに言った。
「討伐を諦めて帰ってきた判断は正解でした。
今回の件はこちら側のミスですので、
違約金はもちろん発生しません。」
「……倒しました。」
それだけ答え、アイテムボックスを開く。
光の粒子が弾け、手のひらに綺麗な石が現れた。
ゴーレムの核。
受付嬢の視線が、一瞬止まる。
「……それ」
「ゴーレム。討伐しました。」
ギルド内が静まり返り、
冒険者たちが受付に集まってきた。
受付嬢は石から目を離さず、
引き出しから水晶を取り出した。
「ね、念の為、確認させていただきます。
手を翳して、宣言をお願いします。」
言われるがまま、冷たい水晶に手を置く。
「ゴーレム。討伐しました。」
誰かが、息を呑む。
やがて、水晶が淡く、青く発光する。
「……確認、完了です。」
受付嬢の少し震えた声が、静寂な室内に響く。
「緊急討伐依頼、ゴーレム一体の討伐。
達成報酬、100,000Gをお渡しいたします。」
そう言うと、
受付嬢は小走りで奥の部屋に行き、
しばらくすると、袋を持って戻り、
台の上に差し出した。
差し出された袋は、ずしりと重かった。
借金、期限、奴隷落ち。
頭を占めていた言葉が、静かにほどけていく。
安堵感が、心の奥底から湧き出てきた。
周りにいた冒険者が口々に何かを言っていたが、
よく覚えていない。
ギルドを出て、目に入った安宿に入り、
出された夕飯を口に放り込んだ後、
抗いようもなくベッドに倒れ込んだ――
⸻
部屋の天井をぼんやり見つめながら、
ゆっくりと昨日のことを思い出していた。
そうだ
軋む身体を勢いよく起こし、
ステータスウィンドウを開く。
レベル、36。
なんか、すごい上がっていた。
続けて、アイテムボックスを確認する。
インベントリには、
ゴーレムの核といくつかの綺麗な石。
そして、報酬のお金。
「……勝ったんだ」
部屋の鍵が閉まってるのを確認した後、
体が痛いのも気に留めず、
誰にも見せられない謎の小躍りをした。
小さな声で、歓喜の雄叫びを上げながら。
この世界に来て初めて、
ちゃんと笑った気がした。
一通り暴れた後、少し恥ずかしくなって、
またベッドに倒れ込み、考えはじめた。
お金の使い道。
ドロップアイテムの使い道。
そして、ゴーレムとの戦闘を振り返る。
試したい。
⸻
翌日、ギルドで、
スライム・ホーンラビット討伐を受注した。
「核心の一打」
一撃。
スライムは、霧のように消えた。
……通じる。ゴーレム以外にも通じる。
確信が生まれた。
「核心の一打」
……忘れていた。
ホーンラビットには、
そもそも攻撃が当たらないことを。
⸻
ギルドに戻り、受付で報告。
「……クエスト、失敗しました。」
「違約金、5,000Gです」
支払った。
⸻
宿へ戻る道すがら、脳内で思考が渦を巻いていた。
スキル
ステータス
装備……
あ。
無意識に、笑みが浮かぶ。
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