第4話:核心の一打
ふう
浅く深呼吸した後、
ジリジリとゴーレムとの距離を詰めた。
岩の塊のような巨体が一歩踏み出すたび、
地面は低く唸り、足元の砂利が跳ねる。
ゴーレムは、遅かった。
背面に周り、攻撃のタイミングを伺っていると、
足音に反応したのか、ゆっくりと振り返り、
ゆっくりと拳を振り上げた。
拳が振り下ろされる。
速い。
気がつくと、
拳が当たる距離ではないが、思わず後退りしていた。
ゴーレムの拳は空を切り、地面に打ち付けられる。
派手な衝撃音と、砕けた岩の破片が四方に飛び散る。
拳が直撃すれば、終わりだ。
僕はさらに距離を取り、小走りで背面に回り込む。
覚悟を決め、隙を見てハンマーを振る。
――ガンッ。
確かな手応え。
初めての、
攻撃による手応えの感動も束の間、
ゴーレムは止まらない。
もう一度。
背中に回り込み、脚へ。
――ガンッ。
倒れない。
それでも、続けるしかなかった。
⸻
ヒットアンドアウェイ。
殴って、逃げて、距離を取る。
近づきすぎれば拳。
足元に入れば踏みつけ。
踏み下ろされた地面が震え、
一瞬、身動きが取れなくなる。
……まずい。
立て直そうと距離をとると、
周囲の岩を掴み、遠方に投げてくる。
岩投げ。
散弾みたいに破片がいくつも飛んでくる。
回避が間に合わず、肩をかすめた。
熱い。
皮膚が裂けた感覚。
でも、止まれない。
⸻
どれくらい戦ったのか、分からない。
何度も殴った。
脚も、背中も、腕も。
それでも、ゴーレムは倒れない。
効いているのか。
それとも、意味がないのか。
こちらも、
致命的なダメージはないものの、
何度も砕けた破片が被弾して、
全身に傷が増えていく。
ただ、なによりもスタミナだ。
呼吸が荒くなる。
腕が重い。
いつしか太陽は、傾いていた。
……暗くなってきた。
これ以上視界が落ちれば、
攻撃を見切れなくなる。
ここまでか。
引くか。
それとも――
胸の奥が、ぎゅっと縮む。
引いた先に、何がある?
さらなる借金。
短くなる期限。
残り、八日。
奴隷。
逃げ場なんて、最初からなかった。
ふう
深く息を吐き、覚悟を決めた。
作戦を練り直す。
このまま殴り続けても、勝てない。
⸻
一度、距離を取る。
ハンマーを下ろし、息を整える。
心臓が、うるさい。
持ち物。
装備。
HPは、まだ残っている。
スタミナは……かなり削れている。
時間。
日没まで、そう長くない。
……スキル。
改めて、自分のステータスを確認する。
【ユニークスキル:核心の一打】
短い説明文。
――武器・防具の加工に役立つ生産スキル。
このスキルは、王城の修行期間中に、
鍛冶場で何度か試していた。
毎回、素材が粉々になるだけで、
使い道がわからず、
いつしか存在を忘れていた。
粉々――
…巨大な、岩の塊。
…ゴーレムにも、効くのかな。
失敗続きだったせいで、
戦いに使えるなんて、考えもしなかった。
「……核心の一打」
そう呟いた瞬間。
視界に映るゴーレムの胸部に、
ターゲットロックオンの表記が表示された。
⸻
見えた。
ゴーレムの胸部。
岩の奥。
そこに赤く光る、小さな点。
淡く、しかしはっきりとした“印”。
……あれか。
背中からでも、分かる。
位置が、正確に把握できる。
心臓が跳ねる。
でも。
外したら次は、ない。
このスキルのクールタイムは一分。
その一分間を逃げ回り、
再び全力の一打を放つ余裕は、
もう残っていない。
手のひらが、汗で滲む。
「……大丈夫」
深く、息を吸う。
観察。
集中。
鍛冶場の炉を、
何時間も見つめていた時と重なった。
⸻
ゴーレムが、こちらを向いた。
ゆっくりと拳が振り上がる。
今だ。
僕は全力で横へ、大きく回り込む。
拳を振り上げたまま、
ゆっくりと向きを変えるゴーレム。
遅い。
一気に距離を詰め、
ハンマーを振り上げる。
《核心の一打》
視界の中心に、点が固定される。
ただ、そこへ――
渾身の一撃を叩き込む。
――ダンッ
鈍い衝撃音。
次の瞬間。
ゴーレムの胸部から、亀裂が走り、
強い発光とともに、巨体が崩れる。
しばらくして、
強い発光に奪われた視界が戻ると、
いくつかの綺麗な石が転がっていた。
ドロップアイテムだ。
……お、終わった。
しばらくそこに、立ち尽くした。
耳鳴り。
荒い呼吸。
やがて、膝が崩れ、
その場に座り込む。
生きている。
全身が震えた。
思い出したかのように。
⸻
ピロンッ
ピロンッ
ピロンッ
……
慌てて音の出所を探していると、
ステータスウィンドウが、勝手に開いた。
文字が、次々と流れていく。
LEVEL UP
LEVEL UP
LEVEL UP
……
僕は、ただ空を見上げた。
暗くなりかけた空が、
なぜだか、明るく見えた。
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