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第1話:押し付けられた不人気職《鍛冶職人》

挿絵(By みてみん)

放課後の教室は、

学園祭前日のせいで妙に雑然としていた。


黒板には消し忘れのチョークの跡。

机の上にはガムテープや段ボール、黒い布。


明日使う予定のお化け屋敷の小道具を、

クラスの数人で準備している。


僕(梶 貴之)は、

教室の隅で発泡スチロールを切っていた。

骸骨の檻の背景に使うらしい。


「そこ、もう少し削って!

段差あるとライト当たったとき目立つから!」


「……あ、うん」


言われた通り、カッターを入れ直す。

こういう作業は嫌いじゃない。

むしろ得意だし、好きな方だ。


中学のときは、

卵落としコンテストで賞を取ったこともある。


もっとも、誰も覚えていないような賞だけど。


――そんなことを考えていた。



ピカッ



教室の床に光が浮かび上がった。


「……え?」


誰かが声を漏らす。

次の瞬間、円形の魔法陣が床一面に広がり、

教室の照明が一斉に落ちた。


「なにこれ!?」

「演出!? 練習!?」

「ちょ、ちょっと待って!」


混乱とざわめきが波及する。

青白い光が、視界を埋める。


足元の感触は消え、世界が歪むような感覚。

目を開けたとき、そこにあったのは――


荒々しい石畳。

整列した西洋甲冑。

天井は、異様なほど高い。



……ああ。



「異世界転生、ってやつか」


誰に聞かせるでもなく、独り呟いた。


玉座の前には、おそらく王と姫。

左右には神官らしき人たちが並んでいる。


説明は簡潔だった。


魔王討伐のため、

異世界から勇者候補を召喚したこと。

元の世界には戻れないこと。


代わりに、この世界で生きるための

「職業」と「スキル」が与えられること。


神官が杖を床に突くと、

空中に文字が浮かび上がった。



【職業一覧】

剣士、魔術師、僧侶、武闘家、弓使い、盗賊、

吟遊詩人、鑑定士、料理人、昆虫博士――



定番のものから想像のつかないものまで、

五十ほどの職業が並んでいる。


「この中から、

各々自由に職業を選んでください」


“自由”。

その言葉に、クラスがざわついた。


「よっしゃ、魔術師あるじゃん!」

「オレは、剣士一択!」

「どれにする?どれにする?」


声の大きい連中から、次々と前に出ていく。

宣言するだけで、その職業は“確定”した。


しばらくして、誰かが言った。


「……せっかくだしさ、

被らない方がよくない?」


一見、もっともらしい意見だった。

反対する声も、特に上がらない。


それが“提案”から“空気”になるまで、

時間はかからなかった。


気づけば、

メジャーな職業はすべて埋まっていた。


残っているのは、

釣り師、昆虫博士、美容師、鍛冶職人――


「じゃあさ、カジは――」


名前を呼ばれる。



「鍛冶職人でよくない? 名前的に」



軽いノリ。笑い声。


否定する理由も、賛成する理由も特にない。

僕は一歩前に出た。


「……鍛冶職人で」


それで話は終わった。



【職業:鍛冶職人】

【スキル取得】



確かに、自由に選んだ。

形式上は。



城での一ヶ月は、あっという間だった。


転生者には、

王国の倉庫から装備が支給された。


剣士には名剣。

魔術師には高位の杖。


どれも装飾が施され、

ひと目で“特別”だと分かるものばかりだ。


鍛冶場も用意されていた。

僕はそこでいくつか装備を作った。


支給品に合わせて調整した剣。

軽さを優先した短剣。

使う人の体格に合わせた防具。


試行錯誤を重ね、徹夜もした。



でも。



「装備、支給されたやつあるし。」

「地味じゃね?」


誰からも手に取られることはなかった。


派手で、分かりやすく“強そう”な

支給品の方が、選ばれるのは当然だった。


誰かに頼られることもなく、

誰かの期待を背負うこともなく。


僕の作った装備は、

鍛冶場の隅に置かれたままだった。



旅立ちの日。


「自由にパーティーを組め」


その言葉を聞いた瞬間、

胸の奥に、嫌な予感が広がった。


仲の良い者同士。

強い者同士。



結果、僕は余った。



周りからの視線が、少し辛い。


部屋の隅に腰掛け、

手持ち無沙汰にステータスウィンドウを開く。



【職業:鍛冶職人】



「装備屋として、生きていくか」


小さく呟く。

誰にも聞かれない声で。


そうして僕は独り、城を後にした。

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