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「……きて」
ここ数年、ほんとに何も無い毎日を1人で過ごしてきた。なんの身にもならない日常を。
「……きてよ」
"めちゃくちゃ"が美学だったはずなのに、いつの間にかそれは"適当"に変わってしまった。
この世界では、何か成し遂げられればいいな。
「起きろ!!!」
「ハッ………おはよう。」
ここ最近、寝てるところを誰かに起こしてもらうなんて事が無かったせいか、雫の大きな声に思わず飛び上がった。
「あんた大分ぐっすりだったねー。ってそんな呑気な事言ってる場合じゃない。早く支度して!遅刻しちゃうから。」
「……朝飯は?」
「そんな時間はなーーい!!」
もうとっくに支度が終わっていたのか、メイクも終わらせ受付嬢の制服に着替えていた。
「あんたが支度してる間に、ようことツキのご飯あげとくから。」
「ずりーよ!おれも食いたいのに〜」
「お弁当だけ作っといたから昼まで我慢しな。」
よくよく考えたら雫の手料理なんて食ったこと無いんだよなおれ。よく家に泊まってたけど、その時はこいつのシェアハウスしてる同居人が飯作ってたし。
しかも愛妻弁当ってやつだろこれ!くぅ〜〜やる気出てきた。
「はい、じゃあ家出るよ!」
異世界とはいえ、ずっと片思いしてる相手の家を出るのは名残惜しいけど、慌ただしくも2人で"職場"に向かうのは何だか楽しいものだった。多分、昨日アレを聞いてなければもっと楽しかっただろうに。
「あたし?あたしはね…。」
昨晩、何故雫はこっちの世界に居るのかと訪ねた時の事だ。
「あたしさー、あんたに最後告られて振った時あるじゃん。あれの数ヶ月後くらいに死んだんだよね。」
家に居る時に後ろからサクッと刺されて死んだらしい。当時ひとり暮らしだったから侵入されたんだと思うと言っていた。
知らなかった
雫に連絡をしなくなってからの3年間、そんな事全く知らずに過ごしていた。
こいつの場合、おれと同じで色恋沙汰関係でやられたんだろうな。
そんな事を思い返しながら歩いていると、あっという間にギルドに着いた。
くそー、雫とのいちゃらぶ散歩道〜異世界ver.〜が………。
「あんた、今めっちゃキモい事考えてたでしょ。」
妙に感の鋭い雫に、白い目で見られながらギルドに入ると、中は冒険者でごった返し、受付には5.6人の受付嬢と、何だか凄みのあるおっさんが立っていた。
「すっげぇ」
「あー、そっか。あんた昨日めっっっちゃギリギリに来たもんね。」
アフロディーテは結構都会だから、その分冒険者も多いのだろう。
「あたしはもう業務開始するから、まあテキトーにクエスト選んで行ってきなよ。」
そう言い残しカウンターへと行ってしまった。
クエスト……。お、これか。
掲示板にズラっと貼られているクエスト票は様々なジャンルの依頼があった。
魔物討伐(どうやら、モンスターとか獣とかを共通して魔物って呼んでるらしい。)だったり薬草とかの納品依頼は勿論のこと、迷子のペット探しとか、浮気調査、町の不良少年の保護、中には介護施設で老人のお話相手になるなんてのもあった。
こりゃ、冒険者ってより何でも屋だな。
んー、どれにしようか。ゴブリン討伐……はクエストは受けてないけど、もうやったしなぁ。
あ、でも逃げてった他のゴブリン達を倒したい気持ちはある。なんてったって、うちの可愛い可愛いようことツキの家族を惨殺したんだもんな。
「レイア、ぼくたちはそんな事気にしてないぞ。」
「そうは言っても………って、ん?あれ?」
誰だいまの?
「なにキョロキョロしてるのよ。ほら、こっち」
下の方から声がして恐る恐る視線を下げると。
「………はぁ!?いまのお前らか!?」
見下げたその視線の先には、ようことツキが居た。
「ようこ、ツキ。お前ら喋れるのか?」
「当たり前だろ、名前を貰ったんだから。」
「そうよ、レイアにかーわいい名前貰っちゃったんだから。」
まてまてまてまて、頭パニクる!!さっきまで可愛くキュウキュウ鳴いてたのに。いや、人の言葉喋っても可愛いけどさ!けどさ!!
「雫〜〜〜!!!」
「うわ!?びっくりした。なんだレイアか。なにどうしたの。」
カウンターに立ってた雫の元に駆け寄ると、驚きながら、カウンター越しに見下ろしてきた。
この雫を見上げてる感じ、こっちの世界に来たせいで自分が子供に戻っちゃったんだって実感する。
「あれ?あー、あんたもやっぱ最初はゴブリン退治なんだ。ほんっとテンプレを踏んでくやつ。」
どうやら、ゴブリン退治の依頼書を持ってきてたみたいだ。
「あ、まって。これは…。」
「珍しいなシズク、そんなに親しげに…。坊主、ここは初めてか?」
間違って持ってきた依頼書を勝手に受け取った雫を止めようとしてると、さっきのカウンターに居た凄みのあるおっさんが声をかけてきた。
「あ、支部長!この子今日が初クエストなんですよ。」
「ほぉ、めでたいな。坊主は……ゴブリン退治か。誰とパーティ組んでんだ?」
「いや、ぼくひとりですけど…。」
おれたちのやり取りを見て、雫が一瞬「あっ」と呟いた。
「なにぃ?おい、シズク!お前知り合いならちゃんと教えてやれよ。」
「ごめーん、レイア。討伐依頼をソロで受けるのはハンターランクがDからなの。」
テヘッと効果音が聞こえてきそうな仕草を………、うん、かわいい許そう。
「どうたもんかな……。」
薬草取りとか老人の話し相手とかこそ、今更やる気は起きないしなぁ……。困ったなぁ。
「あ、そうだ支部長。あのシステム使えばいいじゃないですか。」
「あの?なんのことだ?」
「ほら!ギルドからパーティメンバーを貸し出す奴ですよ!」
「おー、そんなのあったな。おれがギルド入りたての時に1回あったきり貸出なんて見たことないけど。」
へぇ、パーティメンバーの貸し出しか。すげえ良心的なシステムだな。
「よし!じゃあそれでいいな!坊主!よーーしじゃあ行ってこいシズク!」
「はぁ!?嫌よ!なんであたしが外仕事しなきゃいけないわけ!?」
シズクさん、敬語!敬語!
「支部長さん、シズク連れてくなんて危険じゃないですか?」
雫を危険な目には合わせたくないなぁ、凶暴な女ではあるけど、昔からひょろっひょろだし。
「あぁん?坊主、何言ってんだよ。確かに危険かもだけどな、こいつ連れてって危険なのはゴブリン達の方だぞ。」
どういうこと?
「シズクは元々冒険者だ。しかも優秀な。」
「雫が……冒険者!?」




