プロローグ
思えばこの頃から"正義と悪"は自分のテーマだった気がする。
「はぁはぁ……くそ……」
子供の頃から、周りの人とは考え方が合わなかった。
小学生の時だったか、よく泣きながら家に帰り布団の中に潜っていた。
別に虐められた訳ではない、先生に怒られた訳でもない、転んだり怪我をしたりした訳でもない。
周りの友人達の行動が、酷くおれを傷つけた。
『可哀想だよ、なんでそんなことするの?』
『なんでって、おもろいじゃん。』
カナブンの足をちぎってみたり、アリが湧いてるコンクリートの上でサッカーボールを叩き付けてみたり。
『ねえ、やめてよ!!酷い事しないで!』
アマガエルを地面に叩きつけてみたり。
『お腹押すと腸出てくるんだよ。ほら見て!食ったもの入ってる!きっも!』
子供とは残酷なものだ。
彼らもきっと、大人になった今はそんな非道な事はしないだろう。でも、非道な一面が変わった訳ではない。
それが人間としての正常な生き方だ。
『家畜なんて概念を作り出した人間は悪、だから私は食べない』
『生きてくためなんだから仕方ない、おれは食べる』
『犯罪をする奴は、みんな死刑になった方がいい』
『犯罪者も同じ人間なんだから、命を奪うのは人権侵害だ。』
『あの事件に巻き込まれた子、ホントに可哀想。』
『こないだ家にネズミが出て〜。速攻業者呼んだわ。』
全ておれには理解できない物だった。
何故、人殺しはダメなのにネズミの駆除はいいのか。
何故、猫が車に轢かれたら可哀想で、虫が自転車に轢かれたら気持ち悪いのか。
『お前って良い奴だし面白いけど、人として欠落してるモノ多いよなあ。』
感の鋭い友人に言われたこの言葉が物語ってる様に、おれという人間は、色々なものが欠落していた。
人としての当たり前の正義が、何だか腑に落ちず、かなりの違和感を感じて生きていた。
だから毎日笑顔で過ごした。
とにかく明るく振る舞い、毎日バカをやった。
クラスのムードメーカーであり問題児。
そんな肩書きを背負うのは、自分にとっては計算通りだった。
時々起こす偽善的な行動に、周りの皆は「優しいね」と言葉をかけてくれ、時々見せる本心の善意に、周りの皆は「おかしいよ」と言ってきた。
さて、おれが何で今こんなに長々と自分の事を回想してるかと言うと。
「待てやゴラァ!逃げんなぁ!!」
「あーー、くっそ。」
そう、追われているからである。
理由になってない?なら付け足そう。
手にバットや鉄の棒を持った、イカつい顔した兄ちゃん達に追われているからだ。
何故、怖ーーい顔をしたお兄さん達に全力で追いかけられてるかと言うと……。
「ミカに手出しやがって!絶対に許さねえ!」
との事らしい。
手を出したおれが悪いのか、出されに来たそのミカちゃんが悪いのか…。
考えても仕方の無い事だが、いま自分がやるべきことは分かってる。
謝罪?そんな訳ない。
逃げることだ!!!とにかく全力で!!
「あんたら…そんな5人で来るなんて…卑怯だよ……」
息を切らしながら後ろにそう叫んでも、返答はしてくれなかった。
やっべぇ……目がマジだ。
体力がそんな持つほどおれの身体は丈夫では無いし、そもそも虚弱体質なおれが捕まるのは時間の問題だった。
「ぶっ殺してやる」
目がマジなお兄様方にバットでボコボコにされながら、隙を付いては逃げ、隙を付いては逃げを繰り返していたら、気づいた時には歩けるのが不思議なくらいボロボロになっていた。
気づかないうちに彼らはもうどこかに行ってしまっていた。きっと殺すつもりは無かったのだろう。
ただ、自分でも分かるけど……。
これ多分死ぬぞおれ。
息を吸う度に肺に激痛が走るのは、恐らくだけど肋骨が肺に刺さってるのだろう。
強烈な目眩は鼓膜が破れたのだろう。
頭がなんだか気持ち悪いのは……まあなんだ、あれがこうなってこうなんだろう。
「あ、そっか」
殺すつもりが無かったんじゃなくて、もう死ぬの分かってるから手を加えなかったのか。
なーんだ!そういう事か!!
もう逃げる必要は無いのに、何故か「逃げなきゃ」って思考のまま歩き続けて、やっとの思いで辿り着いたのは(そうは言ってもそんなに歩いてはないが)自分にとっては、もう飽きるほど利用した近所の公園だった。
もう夜とは言え、よくここランニングしてる人がいるんだよな。こんなボロボロ血だらけの男が横たわってたら流石に通報してくれるだろ。
淡い期待を込めて、とりあえず公園のシンボルにもなってる大きな木に腰掛けようとした。
「よいしょっと………あれ?」
全身ボロボロだ、勿論木を背もたれにすれば、背中にはちょっとした痛みが来るはずだった。
「え?うそ?」
木に背中を預けたはずなのに、そのまま後ろにひっくり返った。
「わ、わああああああ」
気づかないうちに、木に出来ていた"空洞"におれは落ちていった。
これが、おれ《星野 嶺亜》が見た最後の景色だった。




