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第7話 放課後楽しみにしてるね

「今日も生きてる」


 翌日の朝。今日も相変わらず不幸にも死なずに目覚めた。

 今日もまた生きているという絶望感と共にベッドから起き上がった。あくびをしながら制服に着替え、床の鞄を取って部屋を出た。


「周、朝ご飯は?」

「食べない」


 キッチンから聞こえる母さんの声に、俺は適当に答えながら玄関へ向かった。そして玄関で靴を履いている中、いつ玄関に出たのか背中から母さんの声がした。


「もう学校行くの?」

「もうって、今行かないと遅刻だよ」

「あら、もうそんな時間なの」


 母さんは下駄箱の上の時計を見てちょっと驚いた口調で言った。


「今日も店の手伝いしてくれるの?」

「うん」


 どうせやることもないし、部屋で一人でぼーっとしているより店の手伝う方が生産的だった。


「あ、でも今日はちょっと遅れるかも。約束があって」

「えっ約束?」

「いや、多分今日だけじゃなくしばらく遅くなるかも」


 昨日柳さんと音楽室で交わした約束が思い出した。今日からレッスンすることにしたから、いつものようにすぐには帰れないだろう。


 これあえて母さんに言わなくてもいいだろう。だって母さんにこれ言ったら・・・


「本当? 誰との約束なの? 気になる、教えてよ」


 こんなふうに、面倒なことんになるに決まっているから。


 俺に約束があるという話に、母さんは目をキラキラさせて根掘り葉掘り聞いてきた。まあ高校に上がってから初めて約束があると言ったのだから、母さんがこんなに目を輝かせるのも、まったく理解できないわけではないんだけど・・・。


「教えてね、誰との約束なの? まさか彼女でもできたんじゃ」

「全然違う」


 だからといって面倒がなくなるわけではなかった。


 これ以上玄関にいたら母さんの果てしない質問攻めが続くのが丸見えだった。


「俺もう行くね」

「待って、何時に帰るのかは」

「俺も知らない」


 俺は母さんの問いに適当に答え、母さんの質問攻めから逃げて玄関を出た。


 そうしてなんとか逃げ出した俺は、学校へと向かった。何も考えずに呆然と歩いて横断報道で立ち止まって信号を待った。


「そういやここ前のそこだね」


 一週間前、トラックに轢かれかけた横断報道だった。そのとき、やっと死ぬことができると思ったが、柳さんに助けてもらって今こうやって生きている。


「あのとき、死んでたらいいのに」


 思えば思うほど惜しかった。自然にため息が出るほどだった。もしあのとき、死んでたらこんな意味のない日々を終わらせることができたのに。だったら柳さんへの恩返しだってしなくてもいいはずだった。


「そんなことより柳さんに何を教えるべきなんだ」

「ん? 私が

「うあっ、や、柳さん。いつからここにいたっ」


 噂をすればなんとやら。

 いつからいたのか、柳さんはすぐ横に立っていた。


「泉くん、おっは〜」

「あ、うん」


 いつものように柳さんは笑顔で挨拶してくれた。今日も柳さんはキラキラと輝いていた。腰まで伸びた彼女の亜麻色の髪は陽の光を浴びてキラキラしているし。そこに彼女の華やかな容姿が加わり、さらに眩しかった。


「泉くん、何考えてたの」

「今日の放課後何を教えるべきか、考え中だった」

「へぇ、そうなんだ」


 柳さんが俺をじっと見つめた。なんでそんな目で俺を見るんだだろう、と思っていた瞬間、柳さんは急に怪しげな笑みを浮かべた。柳さんは急に顔を近づけてきた。そして柳さんは俺の耳元で囁いた。


「じゃあ今日の放課後楽しみにしてるね」

「ひいぃッ!」


 びっくりした俺は慌てて耳を掴んだ。彼女の声が未だに耳の奥に残っているようだった。


 いきなり耳元で囁くと・・・。


 鼓動が速くなっていくのがわかった。顔が熱くなった。今きっと顔が真っ赤になったんだろう。


「あれ、青信号だ! じゃあ先に行くね」


 柳さんはイタズラっぽい笑みを浮かべながら小走りで横断歩道を渡った。俺はその場に呆然と立ち尽くして耳を掴んだまま、遠ざっていく柳さんをじっと見つめた。

 俺は他の人たちが横断歩道を渡り終え、再び信号が青に変わるまで、その場に耳を掴んだまま呆然と立ち尽くしていた。

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