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第20話 早く戻れ

 ちょっと混乱した。親の店でクラスメイトと出会うとは、夢にも知らなかった。見間違いではないか、疑わしいほどだった。


「なんで泉くんがここにいるの!?」


 それはこっちのセリフだよ。なんで柳さんがここにいるの?


「ここうちの親の店だよ」

「・・・・・・」


 柳さんは目を見張ったまま固まってしまった。それから柳さんは微かに震えながら俺を指さした。


「本当に泉くんだよね?」

「本当なんですけど」

「いつからそこにいたの」

「ちょっと前から」


 柳さんが驚いたように手で口を隠した。


「まさかさっきのやりとり全部聞いた?」

「やりとりなら、小川さんと話してたこと?」

「・・・・・・」


 柳さんが急に静かになった。今度は俺が聞いた。


「それより柳さんはうちの店にはどうやってき」

「泉くん、ごめん! 今度またくるからあッ!」


 突然柳さんが慌てて店を飛び出していった。


「あ、あの柳さん?」


 俺はものすごいスピードで遠ざかっていく柳さんの背に大声で呼んだが、柳さんは振り返りもせず遠ざかっていった。


「なんで逃げるんだろう」


 柳さんの背を呆然と見つめながら呟いた。その瞬間、また誰かが柳さんの後について店を出た。


「あ明莉ちゃん、あたしを捨てないで」


 見慣れたボブヘア、小川さんだった。俺は彼女らが座っていた席に顔を向けた。柳さんの席にはケーキがたくさん残っていた。


「これ全部柳さんのケーキか」


 俺はその皿を持ち厨房へ向かった。


「お前何してんだ」

「見りゃわかるだろ。お持ち帰りしてるの」

「だからお前がなんでそれをしてんだよ。ケーキを作れってば」


 姉さんが泡立て器を振りながら言った。しかし俺は一瞥もくれずケーキを箱に入れ続けた。そして最後のティラミスまで詰め終えて、フタを閉じた。


「俺ちょっとこれ届けに行ってくる」

「は?! じゃケーキは?」

「姉さんが作ればいいだろ」

「おい、ちょっと」


 俺は厨房を出た。


「周! お前が死にたい? 早く戻れ!」


 背中から姉さんの脅迫が聞こえてきたが、無視して店を出た。


 そうして柳さんが向かった側に走っていくと、やがて遠くから見慣れた亜麻色の髪が微かに見えてきた。


「柳さん! 柳さん!」


 柳さんがよく見えるように、俺は手を大きく振った。


「柳さんのケーキ、え? なんで逃げるの?!」


 柳さんと目が合った瞬間、彼女はまた逃げ出した。俺はもっと大声で彼女を呼んだ。


「ちょっとこれ!」


 しかし柳さんは振り向かなかった。結局俺はまた彼女について走った。

 そうしてしばらく走り、やがて壁のおかげでやっと柳さんを捕まえることができた。


「急にはあはあ、なんで逃げるんだよ。はあはあずっと呼んでたのに」

「そそれが急に走ってきたから・・・はは」

「なんであたしから逃げたんだよ!」

「はは、そうだね」


 一緒に走ってきた小川さんがイラッとした。すると柳さんはぎこちなく笑いながら頭を掻いた。そして小川さんの肩を握って、俺に手を振った。


「じゃあ私たちはもう帰るから」

「ちょっと柳さん、これ」


 俺は慌てて柳さんにケーキを手渡した。柳さんはケーキ箱を見て首を傾げた。


「なにこれ」

「柳さんのケーキお持ち帰りして持ってきた。走ってきたせいでちょっと崩れたかもしれないが、もしそうなったら俺に言って。作り直してあげるから」

「いいや、私のせいでだから、わざわざそうする必要はないわ」

「でも・・・」

「・・・・・ね」

「ん? 今なんだと」


 柳さんがなんと言ったが、聞き取れなかった。


「なんでも。それよりありがとう、わざわざ届けてくれて」

「母さんに言われて持ってきただけだから、気にしなくていい」


 実は俺が勝手に持ってきたんだが、わざわざ言う必要はないだろう。あ、そして


「あとさっきお店で柳さんが言ってたのか聞こえなかったから、気にしないで」

「それって聞こえなかったってこと?」

「うん。なんか大声で言ってたみたいけど、何の話してたのかはあんまり聞こえてなかったんだ」

「・・・はあ、なんだ」


 急に柳さんが地面に座り込んだ。


「聞こえなかったんだわね」


 柳さんが深いため息を吐いた。安堵するようだった。


「あのさ」


 横で静かに見守っていた小川さんが言った。


「ちょっとあたしのこと忘れてない?」


 小川さんが自分に視線を注目させた。そういえばここに小川さんもいたんだ。


「ゆきごめんね。私のせいで」

「いや、それはいい。そんなことより、前から聞きたかったけど、」


 前からなら、まさか


「君たち付き合ってるの?」

「「ち違うッ!」


 俺と柳さんが同時に答えた。すると小川さんはびっくりして尻餅をついた。


「痛っ、そこまで否定する必要ある?! 逆に怪しいよ」

「だってゆきが変なこと言うから」


 前教室で聞かれたまさかとは思ったけど、本当に聞くとは。


 そんなこと思っていた中、いきなりポケットのスマホが振動した。姉さんだった。


 う、これ出たらめちゃ叫ぶに間違いないんだけど。一旦切って店に戻ろ。


「俺はもう戻らなきゃ」

「仕事に戻るの?」

「うん、では戻るね。ケーキは俺に言ってたら作り直してあげるから」


 そうして柳さんに挨拶して店に向かってまた走っていった。


 しばらくして店に入った。そこで俺を真っ先に迎えたのは他でもなく姉さんだった。


「お前、一体どこへ行ってきたんだあ!」

「ごめんって。今すぐ作るから」


 俺は息切れしながら厨房に入った。


「おい、弟、どこ行ってきたんだ。」

「ケーキ届けに」

「だからお前がなんで」

「さっき偶然に店にクラスメイトが来て、あの子のケーキ届けに行ってきたわけだよ。もういい?」

「なんだ、そういうことだったの。・・・まさかその子ってお前が最近ピアノ教えてるって子なの?」


 マジで気が利く人だ。違うって言っても無駄だろうな。


「そう。あの子なんだ」

「なんだ、やっぱやっぱり好きなんじゃん」

「はあ?! 違うってば」

「弟よ、私はお前を赤ちゃんの頃から見てきたの。私が知ってる周はさ、友達のためにわざわざ届けに行かない」

「お前の中の俺は一体どんな存在なんだ」

「お前じゃなく、お姉さん! とにかく、まだ気づいていなさそうなんだから、特別に教えてやるよ」


 姐さんがすぐ前に立った。そして俺を指さした。


「お前、あの子のことが好きなんだ」

「違うってば」

「まあ、今は気付かないかもしれないけど、私は教えてやったから後で文句言うなよ」


 そう言い残して姉さんは厨房を出た。


「俺が柳さんのこと好きなんだと?」


 そんなわけない。だって柳さんは学校一の美少女で、俺とは別世界に住む人なんだ。そんな人を狙うほど、俺は愚か者じゃない。


「なのに、なんでさっきから心が落ち着かないんだよ」


 胸の高鳴りが止まらなかった。ドキドキすぎて爆発しそうだった。


 これは・・・そう、さっき走ってからだ


 そう好き勝手に判明して、俺はまたケーキ作りに没頭した。

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