第15話 一週間休みにする
「父さんの具合はどう?」
「とりあえず湿布を貼ったんだけど」
母さんはソファにうつ伏せになっている父さんを見てため息を吐いた。
「一週間くらいは休まなきゃいけないかも」
「それじゃ店は?」
父さんがあんな調子では、店を回すのは無理だった。
「でも休店はできないから、明日も開店するしかないよ」
「じゃあケーキは誰が作るんだ?」
「仕方なく私が作るしか」
「「それはダメ!」」
父さんと俺が同時に大声を出した。
「何その反応。私の作ったケーキは売れないってことなの?」
「い、いや、そうじゃなくて」
俺と父さんは母さんの視線を避けながら言葉を濁した。
母さんの作ったケーキは、驚くほどまずい。どてもじゃないが店で売る代物じゃない。
しかしこれを素直に母さんに言えなかった。
「とにかく母さんのケーキはダメ。やっぱり一週間休店するしか」
「それはできない。もう予約注文がたくさん入ってるから。お店を休むわけにはいかないの」
「じゃあどうするの。俺が学校に行ってる間、ケーキを作る人がいないだろ」
学校から帰ってくるのは夕方頃になる。それまで店でケーキを作る人がいなかった。
「ふーむ、いや一人いるよ。ケーキ作れる人」
「おうちにそんな人がいたっけ。誰?」
「あんたのお姉さん」
「・・・・・・」
あ、そういやあの人がいたっけ。
実は俺に姉が一人いる。二年前、結婚して家を出たから、姉さんの存在自体を頭の中から消し去っていた。
姉さんなら、結婚するまで店の手伝いをしてケーキを作ってきたんだから、適任者だけど・・・。
「あの姉さんが手伝ってくれるかな。あの姉さんが?」
姉さんが本当に手伝ってくれるか、疑問だった。去年、子を産んで育児で精いっぱいで、店を手伝う余裕なんてないと思う。あと何より、あのサイコが素直に手伝ってくれるはずがない。
だが、そんな俺の心配に、母さんは何の問題もないというように微笑んでいた。
「心配しないで。姉さんは百パーセント手伝うから」
「あの姉さんが?」
「そう。実は前、姉さんが子守だけしてもらえるなら、なんでもやるって言ってたよ」
「あの姉さんが?!」
信じられなかった。あの姉さんが子守りだけでなんてもやるなんて。俺が知っている姉さんと全然違った。
「でも今お家に子守りをする人がいないジャン。誰が子守りをするの」
「当然父さんがするよ」
母さんがにこやかに笑った。それを聞いた父さんは驚愕した。
「お、俺? 俺、腰が痛いんだけど」
「父さんは今患者なのに、子守りできないと思う」
「あら、十分できるわ。だよね、あなた?」
「無理に決まってんだろ! 腰痛くて赤ちゃんを抱けな」
「できるよね?」
母さんが脅すような物言いで父さんに圧をかけた。
「あなた、できるよね?」
「も、もちろん。愛しい孫と明日から一緒か、ドキドキするな」
父さんの声がかすかに震えていた。しかし母さんは全然気にしないように手をパンと叩きニコッと笑った。
「よかったわ。じゃあはなちゃんには私が言っとくね」
姉さんの性格は母さんから来たものだったんだ。
一体どこからあんなサイコが生まれたのか、ずっと疑問に思ってたが、今その原因がわかった。
「あと周?」
「う、うん?!」
母さんが顔を向けた。俺は何も落ち度もないのに、ビビっちゃった。
父さんの次は俺か。
俺は唾をコリっと飲み込んだ。
「明日も約束で帰り遅くなるの?」
「うん、多分」
「そうなの? でもこの一週間だけは、早めに帰ってこれないかしら」
「でも姉さんがいるから、俺はいつも通りに帰っても店を回すには問題なくない?」
「姉さんは二年ぶりに働くんじゃない。だからあんたが早く帰って手伝って欲しいんだけど、ダメかしら?」
母さんが両手を合わせてお願いしてきた。
確かに姉さんは長らく休んだから、手伝う方がマシかもしれない。柳さんとのレッスンを一週間だけ休みにして、放課後すぐに帰れば二時間くらいは早めに帰れるんだけど。
柳さんがオーケーしてくれるかな。
でも今はどうしようもないから。
「・・・わかった。明日話してみる」
母さんにそう言っといて、俺は部屋に入った。
普段ならすぐ部屋の電気を消してベッドに横になるが、今日はそうしなかった。部屋の電気をつけておいて、俺は机に向かった。そして机の引き出しから埃まみれのノートを一冊取り出した。
「いきなり一週間を休みにするのは悪いから、これでもしないと」
俺はペンを持ってノートに書き出した。
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