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第3章:悪徳領主との対峙(3)

 城の外に出ると、すでに夜は更けていた。

 星空が広がり、月明かりだけが俺たちの道を照らしている。

 急いでバイクを隠した場所に戻ると、俺たちの目に衝撃的な光景が飛び込んできた。


「くそっ! 間に合わなかった!」


 木立の中は荒らされ、バイクの姿はなかった。


「捕獲部隊に持っていかれたのね……」


 リアナが地面の足跡を調べながら言った。


「きっと地下の祭壇に運ばれたんでしょう」

「地下に祭壇?」


 俺の問いに、エルナが答えた。


「さっき領主の部屋で見たあの巻物に書いてありました。城の地下には巨大な祭壇があり、そこで儀式が行われるようです」

「烈火……」


 ソフィアが珍しく俺の名前を呼んだ。


「お前のバイクは大切だろうが、民を救うことも重要だ。どうする?」


 彼女の問いかけに、俺は迷わず答えた。


「両方だ。バイクを取り返して、儀式も阻止する」

「でも、どうやって?」


 リアナが不安げに尋ねた。


「相手は大勢いるし、儀式はもう明日なのよ?」

「作戦を練ろう!」


 ロゼッタが熱心に言った。

 彼女の黄緑色の瞳が決意に満ちて輝いている。


「バイクには特殊な感応装置を付けておいたから、追跡できるはずっ!」


 彼女は工具ベルトから小さな円盤状の機械を取り出した。

 中心には魔法陣のような模様が刻まれ、微かに赤く光っている。


「実験的な機器だけど、竜の核の魔力波動を追跡できるはず!」

「さすがロゼッタさん!」


 エルナが安堵の表情を浮かべた。


「じゃあ計画は単純だな」


 ソフィアが腕を組んで言った。

 彼女の青灰色の瞳が冷静に状況を分析していく。


「明日の儀式の前に城に潜入し、バイクを奪還。同時に儀式も阻止する」

「でも正面からは厳しいわよね」


 リアナが心配そうに言った。

 彼女のアクアマリンの瞳が月明かりに照らされて不安げに揺れている。


「そうですね……」


 エルナが思案に耽った。

 彼女の長い茶色の髪が風に揺れ、緑の瞳が遠くを見つめている。


「でも、違う侵入経路があるかもしれません」

「どういうことだ?」


 俺が尋ねると、エルナは静かに説明を始めた。


「城内で感じた魔力の流れから考えると、地下祭壇には別の入口があるはずです。おそらく儀式のための特別な通路が……」

「なるほど!」


 ロゼッタが声を上げた。


「だとしたら、ここの感応装置がその場所を示してくれるはずっ!」


 彼女は円盤を地面に置き、小さな呪文を唱えた。

 すると円盤から赤い光が放たれ、その光が特定の方向を指し示した。


「あっち!  城とは反対側に何かがある!」


 ◇


 光が指す方向に進むと、私たちは城から少し離れた崖の側面に辿り着いた。

 月明かりが照らす岩肌には、かすかに竜の紋様が刻まれている。


「ここか……」


 ソフィアが岩壁を調べ始めた。

 彼女の鋭い眼差しが月光の下で輝いている。


「あった。隠し扉だ」


 彼女が指し示したのは、一見すると普通の岩にしか見えない部分だった。

 だが、よく見ると微かな隙間が確認できる。


「私に任せて!」


 リアナが前に出て、器用な指先で岩の隙間を調べ始めた。

 彼女の軽やかな動きは、長年の狩りで培われた経験を感じさせる。


「ここを押すと……」


 カチリという小さな音とともに、岩が横にスライドし、暗い通路が現れた。


「やった!」


 リアナが満足げに笑った。


「暗すぎて先が見えないわね……」

「私が案内します」


 エルナが前に出て、再び手のひらから柔らかな光を放った。

 淡い青白い魔法の明かりが通路を照らす。


「この先に地下祭壇があるはずです」

「行こう」


 俺が先頭に立ち、全員で暗い通路に足を踏み入れた。

 狭く湿った通路は徐々に下へと傾斜し、城の地下深くへと続いているようだった。


「ロゼッタ、どの辺りだ?」

「もう近いはずっ……」


 彼女は感応装置を確認しながら答えた。


「魔力反応が強くなっている。まっすぐ進めば……」


 通路は突然広がり、俺たちは巨大な地下空間に出た。

 エルナの光だけでは全体を照らすことができないほど広大だったが、遠くに松明の灯りが見える。


「隠れて」


 ソフィアの低い声に全員が反応し、近くの岩影に身を潜めた。


 松明の灯りの下では、黒いローブを着た数人の男たちが何かの作業をしていた。

 中央には巨大な石の祭壇があり、その周りには奇妙な紋様が刻まれている。

 そして祭壇の横には——。


「ドラグブレイザー!」


 思わず声が漏れそうになるのを必死で抑える。

 そこには俺の相棒が、何本もの鎖で固定されていた。

 タンク部分の赤い紋様はいつもより鮮明に脈打っており、まるで助けを求めているようだった。


「あの数じゃ正面突破は無理だな」


 ソフィアが状況を冷静に判断した。


「それに、あれを見ろ」


 彼女が指し示した先には、鉄格子で仕切られた空間があり、その中には数十人の若者たちが閉じ込められていた。

 生贄として集められた村の若者たちだ。


「みんな無事みたいね……」


 リアナがほっとした表情を見せた。


「でも、どうやって全員を助け出すの?」

「分散行動だな」


 ソフィアが決断した。彼女の白銀の髪が揺れ、青灰色の瞳に決意の色が浮かぶ。


「私とリアナは捕らわれた村人たちを解放する。烈火とロゼッタはバイクを確保。エルナは結界を展開して、応援が来るのを阻止する」


 全員が頷いた。


「では、合図を決めておこう」


 ソフィアが続けた。


「私が剣を掲げたら、同時に行動開始だ」

「待って」


 エルナが静かに言った。


「まず、私から結界を展開します。そうすれば、外からの介入を防げます」


 彼女は目を閉じ、両手を胸の前で組んだ。

 緑色の魔力が彼女の周りに漂い始め、空気が微かに振動する。


「結界……展開」


 彼女の静かな呟きとともに、薄い光の膜が地下空間全体を包み込んだ。


「これで当分の間、外からの干渉は防げます」


 彼女は少し息を荒くしながら言った。

 魔力を大量に使ったようだ。


「さあ、行きましょう」


 ソフィアとリアナは祭壇の影に沿って、捕らわれた村人たちの方へと移動し始めた。

 俺とロゼッタはバイクがある方向へ、そしてエルナは入り口近くの安全な場所から全体を見守る位置についた。


「烈火さん、あれを見て」


 ロゼッタが小声で言った。

 バイクの周りには複雑な魔法陣が描かれており、数人の黒ローブの男たちが何やら儀式めいたことを行っていた。


「おそらく、竜の核を抽出しようとしている……」


 彼女の表情が険しくなった。


「でも、そんなことをしたら、バイクは……」


 俺は歯を食いしばった。

 奴らはバイクから竜の核を無理やり引き離そうとしている。

 それはまるで生き物から心臓を抉り取るようなものだ。


 遠くでソフィアが剣を高く掲げるのが見えた。

 合図だ。


「行くぞ!」


 俺が叫ぶと同時に、ロゼッタが工具ベルトから小さな球体を取り出し、バイクの方向に投げた。

 球体が地面に当たると、けたたましい音とともに煙が広がった。


「魔導スモーク弾っ!  急いで!」


 煙に紛れて、俺たちはバイクに向かって駆け出した。

 黒ローブの男たちが混乱する声が聞こえる。


 同時に、祭壇の反対側では、ソフィアとリアナが村人たちの檻に到達し、ソフィアの剣が鍵を砕く音が響いた。


「脱出するわよ!  急いで!」


 リアナの声が煙の向こうから聞こえた。

 俺とロゼッタはようやくバイクに辿り着いた。

 バイクを拘束している鎖は想像以上に頑丈で、簡単には外せそうにない。


 俺が「くそっ!」とつぶやくと、ロゼッタがニヤリと笑った。


「こういうときのために準備してきたのです!」


 彼女は工具ベルトから小さな結晶を取り出し、鎖に押し当てた。


「魔導溶解石!  魔力を帯びた金属を溶かす!」


 結晶が青白い光を放ち、鎖が徐々に溶け始めた。

 煙が晴れてきた頃には、バイクを縛っていた鎖はすべて消失していた。


「やった!」


 俺はバイクのタンクに手を置いた。

 温かい振動が伝わってくる。

 まるで「待っていたよ」と言っているようだ。


「侵入者だ!」


 黒ローブの男たちが俺たちに気づき、叫び声を上げた。


「烈火さん、急いで!」


 ロゼッタが叫んだ。

 俺がエンジンキーを回すと、バイクはいつもとは違う低い唸り声を上げた。

 タンク部分の紋様が鮮やかに輝き、車体全体が赤く光り始めた。


「これは……」


 歓喜の声が自然と漏れた。

 バイクが力強く震え、まるで怒りを爆発させるかのように、車体から炎が噴き出した。


「すごい!  バイクが反撃してるっ!」


 ロゼッタが興奮した様子で叫んだ。

 バイクから放たれた炎が黒ローブの男たちを襲い、彼らは悲鳴を上げて散り散りに逃げ出した。


「よし、乗れ!」


 俺がバイクに跨り、ロゼッタも後ろに飛び乗った。


「リアナ!  ソフィア!  エルナ!  急げ!」


 俺の叫びに応えて、三人も村人たちを引き連れて俺たちの方へ駆け寄ってきた。


「皆さん、入り口に向かってください!」


 エルナが村人たちを導きながら叫んだ。


「結界が長くは持ちません! 急ぎましょう!」

「間に合うのか?」


 ソフィアが疑問を投げかけると、リアナが笑顔で答えた。


「大丈夫!  先回りして道を確保するわ!」


 彼女は驚異的な俊敏さで先頭に立ち、入り口への道を示した。


「全員、こっちよ!」


 村人たちがリアナの後を追って走り出す中、突然大きな轟音が響き渡った。

 祭壇の向こう側から巨大な影が現れた。


「なっ……」


 俺の言葉が途切れた。

 現れたのは、完全な人の姿ではなかった。

 黒いローブを着た男だが、その腕は竜の鱗で覆われ、目は赤く光っていた。


「お前たち、我々の神聖な儀式を邪魔するとは……」


 彼の声は低く歪んでいた。


「領主……!」


 ソフィアが剣を構えながら言った。


「もはや人間ではないな」

「ふふふ……その通り」


 領主は不気味に笑った。


「儀式はすでに一部始まっている。私は竜神の力を少しだけ頂いたのだ」


 彼は大きく両腕を広げ、祭壇の上空に浮かび上がった。

 その背後の翼が大きく広がり、地下空間に風が巻き起こる。


「逃がさん!」


 彼の腕から炎の竜巻が噴き出し、村人たちに向かって放たれた。


「危ない!」


 エルナが前に出て、両手を広げた。

 彼女の周りに緑色の結界が展開し、炎の攻撃を受け止めた。

 だが、その衝撃で彼女は膝をつく。


「エルナ!」


 ソフィアが駆け寄り、彼女を支えた。

 エルナは息を切らせながらも、微笑みを浮かべた。


「村人たちを……守らないと」

「烈火!」


 ロゼッタが突然叫んだ。


「飛行モードを試す時です!  バイクなら奴と戦えるはず!」

「飛行?  まだ実験段階じゃなかったのか?」

「今こそ試すべき時っ!」


 彼女の目が興奮で輝いている。


「これを取り付けて!」


 ロゼッタは工具ベルトから複数の魔導装置を取り出し、素早くバイクに装着し始めた。

 彼女の手が器用に動き、サイドカーの両側に小型の魔導砲を設置する。


「これで攻撃力アップっ!  あとは……」


 最後の装置をバイクのエンジン部分に接続すると、タンク部分の竜紋様が鮮やかに輝き始めた。


「烈火さん、エンジン全開っ!」


 俺はためらうことなくスロットルを全開にした。

 バイクのエンジンが唸り、まるで本物の竜の咆哮のような音が地下空間に響き渡る。


「みんな、村人たちの脱出を!」


 俺の叫びに、ソフィアとリアナが頷いた。


「任せろ」


 ソフィアが剣を構え、村人たちの前に立ちはだかった。


「全員、私について来い!」


 リアナも弓を構えながら、村人たちを急かした。


「エルナさん、一緒に行って。結界で村人たちを守って」


 ロゼッタがエルナに声をかけた。


「でも……烈火さんたちは?」

「私たちで領主を食い止める!  安心して!」


 エルナは一瞬迷ったが、頷いた。

 彼女は最後に祈るような仕草をして、村人たちの後を追った。


「準備はいいか、相棒?」


 俺がバイクのタンクを軽く叩くと、車体全体が反応するように震えた。


「よし、行くぞ!」


 バイクが急に宙に浮かび上がり、地面から数メートルの高さで安定した。

 ロゼッタがサイドカーに飛び乗り、両手で魔導砲の操作装置を握った。


「飛んでる!  本当で飛んでるっ!」


 彼女の顔に歓喜の表情が広がる。


「よーし、領主にお仕置きの時間だっ!」


 空中に浮かぶ領主は、村人たちが脱出していくのを見て、怒りの咆哮を上げた。


「どこへ行くつもりだ!」


 領主が再び炎を放とうとした瞬間、俺はバイクを急発進させた。

 地下空間を飛行するバイクは、まるで本物の竜のように素早く動き、領主に向かって突進する。


「なに!?」


 領主が驚きの声を上げ、空中で体を翻し、俺たちに向かって両手から炎の弾を連射してきた。


「うおっ!」


 俺はバイクを急旋回させ、炎の弾をかわす。

 動きに慣れていないため、操作は難しいが、バイク自体が俺の意思を理解しているかのようにスムーズに動いてくれる。


「烈火さん、そのまま!」


 ロゼッタがサイドカーの魔導砲を領主に向けて発射した。

 青白い光線が地下空間を切り裂き、領主を直撃。

 悲鳴を上げて後退した。


「おのれ……!」


 領主は激怒し、今度は岩の塊を天井から落としてきた。

 地下空間の天井が崩れ始め、巨大な岩が雨のように降ってくる。


「危ない!」


 俺はバイクをさらに操り、落下してくる岩の間を縫うように飛行。

 エンジン音が高く鋭くなり、車体が赤く輝きを増す。

 まるで怒りに満ちているようだ。


「烈火さん、奴の背後へ!」


 ロゼッタの指示に従い、俺はバイクを大きく旋回させた。

 崩れ落ちる岩をかわしながら、領主の背後に回り込む。


「なに!?」


 振り向いた領主の顔に驚愕の色が浮かんだ。


「 最大出力!」


 ロゼッタの叫びとともに、サイドカーの魔導砲が赤と青の光を交互に放ち、強烈な光線が放たれた。

 光線が領主を直撃する。


「ぐあああ!」


 領主の悲鳴が地下空間に響き渡った。

 彼の体から竜の鱗が剥がれ落ち、翼も萎んでいく。


「まだだ……まだ終わらん!」


 彼は最後の力を振り絞り、巨大な火炎球を作り上げた。

 それは祭壇の上空で膨張し、部屋全体を焼き尽くすほどの大きさになる。


「これで終わりだ……!」

「烈火さん、最後の攻撃を!」


 ロゼッタが叫んだ。


「バイクの竜の力を全開にっ!」


 俺はバイクのタンクに両手を置いた。


「頼むぞ、相棒。力を貸してくれ!」


 タンクの赤い紋様が鮮やかに脈打ち、まるで心臓の鼓動のようにリズミカルに光り始めた。

 バイクの車体全体から炎が噴き出し、それが俺とロゼッタを包み込む。

 だが、不思議と熱さは感じない。

 むしろ力が湧いてくるような感覚だ。


「行くぜ、相棒!」


 俺は叫びながらスロットルを全開にした。

 バイクは猛烈な速度で空中を駆け上がり、領主めがけて突進する。

 車体全体が赤い光に包まれ、まるで流星のように輝いている。

 領主が恐怖に満ちた声を上げた。


「竜の核が………こんな力を!」


 バイクが領主の放った火炎球を貫き、まっすぐに彼に向かって突進する。

 衝突の瞬間、ロゼッタがサイドカーの魔導砲のトリガーを引いた。


「魔導フルバースト!」


 バイクとサイドカーから放たれた全ての魔力が一点に集中し、領主を直撃した。


「ぐおおおおおおっ!」


 衝撃と共に、彼の体が弾け飛び、地下空間の奥へと吹き飛ばされる。

 バイクは慣性で前進を続け、ようやく空中で停止した。


「やったっ!」


 ロゼッタが喜びの声を上げた。

 俺はまだ衝撃から立ち直れず、ハンドルを握りしめたまま息を整えていた。

 バイクのタンクから伝わる振動が、まるで「よくやった」と言っているようだ。


「ありがとう、相棒」


 俺は小さく呟いた。

 地下空間は急速に崩れ始めていた。

 天井から大きな岩が落ち、祭壇も砕け散っている。


「烈火さん、急ぎましょう! 」


 ロゼッタの声に我に返り、俺はバイクを入り口の方向へ向けた。


「掴まってろ!」


 バイクは猛スピードで通路へと突入し、崩れ落ちる岩をかわしながら上昇していく。

 通路も崩壊が始まっており、狭い空間を縫うように飛行するのは困難だったが、バイクは俺の意思に完璧に反応してくれた。


 ようやく出口が見え、俺たちは夜明け前の空へと飛び出した。

 外では村人たちとソフィア、リアナ、エルナが心配そうに待っていた。


「烈火!  ロゼッタ!」


 リアナが安堵の声を上げた。

 バイクが地面に降り立ち、ロゼッタがサイドカーから飛び降りた。

 彼女の顔はすすで汚れていたが、目は興奮と喜びで輝いていた。


「やりましたよ、みなさん! 領主を倒しました!」

「見事だな」


 ソフィアが珍しく賞賛の言葉を口にした。

 彼女の青灰色の瞳に敬意の色が浮かんでいる。

 エルナが驚きの表情でバイクを見つめていた。


「魔力の奔流が見えました……竜の魂そのものの力です」

「少なくとも今日の危機は去った。村人たちは無事だ」

「領主の部屋で見つけた資料も持ってきたわ!」


 リアナが小さな巻物を取り出した。


「これで、教団の他のメンバーについても調査できるはず」

「いずれにせよ、今は村人たちを安全な場所に連れていくべきだな」


 俺の言葉に全員が頷いた。


「みんな、元気出して!」


 リアナが村人たちに明るく声をかけた。


「もうすぐ安全な場所に着くわよ!」


「ありがとう……本当にありがとう……あなたたちがいなければ、私たちは……」

「気にしないでください」


 エルナが優しく微笑んだ。


「困っている人を助けるのは当然のことです」

「さあ、行くぞ」


 俺はバイクのエンジンを再びかけた。

 タンク部分の紋様が穏やかに脈打っている。

 危機を脱したことを喜んでいるようだ。


「相棒、よく頑張ったな」


 俺はバイクのタンクを軽く叩いた。

 温かい振動が返ってきた。


 一行は夜明けの光の中、街へと向かって歩き始めた。

 村人たちは疲れた様子だが、解放された喜びに満ちた表情を浮かべている。


 俺はバイクでゆっくりと彼らを先導し、時折後ろを振り返った。

 エルナとロゼッタがバイクに乗り、ソフィアとリアナが村人たちと共に歩いている。

 この数日で急速に親しくなった四人の仲間たち。

 それぞれに個性的で、強く、そして信頼できる存在だった。


 異世界に来たばかりの頃は、ただ自由に走りたいという思いだけだった。

 だが今は、守るべき仲間ができ、立ち向かうべき敵もいる。

 この世界でも俺は走り続けるだろう。

 大切な仲間たちと共に。


 街が遠くに見えてきた頃、ソフィアが俺に近づいてきた。


「烈火」


 彼女は珍しく柔らかな表情で言った。


「良い仕事をした」

「俺だけじゃないさ。みんなのおかげだ」


 俺の言葉に、彼女はわずかに微笑んだ。


「そうだな。だが、お前のバイクがなければ成し遂げられなかった」

「そう! 魔導バイクは最高っ!」


 ロゼッタが興奮した様子で割り込んできた。


「これからもっと改造していい?  飛行機能は成功したけど、もっと長時間安定して飛べるようにしたいし、魔導砲の威力も上げられるはずっ!」

「あ、私も乗りたい!」


 リアナが羨ましそうに言った。


「次は私をサイドカーに乗せてよ!」


 ソフィアがため息をつきながらも、少し楽しそうに彼女たちを見ている。

 俺は思わず笑った。

 この仲間たちと共にいると、不思議と心が温かくなる。

 どんな危険が待ち受けていても、彼女たちと一緒なら乗り越えられる気がした。


 バイクのタンクが脈打つように光り、エンジン音が少し高くなった。

 まるで相棒も同じことを思っているようだ。


「よし、行くぞ」


 俺は青空に向かって声を上げた。


「次はどこに走ろうか、相棒」


 バイクのエンジンが力強く唸り、俺たちは朝日に照らされた道を進んでいった。

 

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