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第2章:新たな旅立ち(2)

「お知らせです!  冒険者ギルドからの緊急依頼が届きました!」


 彼は馬を止め、俺たちに向かって巻物を差し出した。


「ソフィア・ブリット殿宛てです」


 ソフィアは静かに巻物を受け取り、開封した。

 彼女の表情が徐々に引き締まっていく。


「どうしたんですか?」


 エルナが心配そうに尋ねた。


「北東のヴァレンティア領で問題が起きているらしい」


 ソフィアは冷静に説明した。


「領主が突如重税を課し、村人たちが苦しんでいる。それだけでなく、若い村人たちが次々と連れ去られているという噂もある」

「ひどい……」


 エルナが悲しげに呟いた。


「何のために若者を?」


 俺が尋ねると、ソフィアは巻物を閉じながら答えた。


「それがわからない。だが、ギルドはこの事態を重く見て、調査と解決を依頼してきた」

「行くべきですね」


 エルナが決意を持って言った。

 彼女の緑の瞳に強い光が宿っていた。


「困っている人がいるなら、力になりたいです」

「私も行く!」


 ロゼッタも勢いよく賛同した。


「魔導バイクの力も試せるし、ヴァレンティア領ってすごく興味深い魔導鉱石が採れる場所なので!」


 三人の視線が俺に集まった。

 彼女たちは俺の返事を待っているようだ。


 正直なところ、他人の争いに首を突っ込むつもりはなかった。

 俺はただ、この異世界で自由に走り回りたかっただけだ。

 でも……彼女たちの真剣な眼差しを見ていると、なんだか放っておけない気持ちになる。


「行くか」


 俺は軽く言った。


「せっかく相棒が進化したんだ。力試しにちょうどいいだろ」


 三人の顔に笑顔が広がった。


「ありがとう、烈火さん!」


 エルナが優しく微笑んだ。


「覚悟はいいな」


 ソフィアは静かにだが、確かな信頼の色を瞳に宿して頷いた。


「早速必要な装備を整えなきゃ!」


 ロゼッタは既に頭の中で計画を立てているようだ。


「伝令、ギルドに伝えてくれ。我々がこの依頼を受けると」


 ソフィアが伝令に告げた。

 伝令は敬礼して馬に飛び乗り、街へと戻っていった。


「さて、準備だな」


 俺はバイクに手を置いた。

 タンクの紋様が脈打つように光り、まるで「任せろ」と言っているようだった。


 ◇


 その日の午後、俺たちは街の宿で準備について話し合っていた。

 円卓を囲み、各々が自分の意見を述べている。

 ソフィアは地図を広げ、ヴァレンティア領までのルートを確認していた。


「街を出て北東に三日ほどの道のりだが、バイクなら一日半で着けるだろう」


 エルナは医療品や回復用の薬草を整理しながら言った。


「噂によれば、領主の城には強力な衛兵が配置されているとか……私たちは戦闘の準備もしなければなりませんね」

「それなら、これはどう?」


 ロゼッタは大きな図面を広げた。

 それはバイクとサイドカーの設計図だったが、新たな追加装備が書き加えられていた。


「サイドカーに小型の魔導砲を取り付けるの。烈火さんが運転中でも、私たちが攻撃できるようになるわ!」

「それは実用的だな」


 ソフィアも積極的に同意した。

 

「おいおい、バイクをそんな武装車両にするのか?」


 俺は少し驚いた。

 元の世界では、バイクはただの移動手段だった。

 それが今や、魔導武装を施した戦闘マシンになろうとしている。


「当然でしょ!」


 ロゼッタは信じられないといった表情で答えた。


「せっかくの魔導バイクなんだから、最大限に活用すべき!  悪徳領主に立ち向かうんですから、それなりの装備は必要です!」

「そうですね、烈火さん」


 エルナも穏やかに同意した。


「もちろん無闇に戦うつもりはありませんが、いざというときの備えは必要です」


 俺は少し考え込んだ。

 確かに彼女たちの言うことは理にかなっている。


「わかった。任せる」


 笑顔でそう言うと、ロゼッタは嬉しそうに跳ね上がった。


「やったー!  早速作業開始っ!  材料は工房にほとんどあるから、今夜中には完成させるわ!」

「無理はするなよ」

「大丈夫っ!  これくらい朝飯前!」


 ロゼッタは興奮した様子で工具ベルトを調整した。

 議論が続く中、宿の主人が部屋にノックをしてきた。


「お客人たち、外に変わった旅人が来ておりまして……あなた方に会いたいと」

「変わった旅人?」


 俺が尋ねると、主人は少し困ったように首を傾げた。


「ええ、弓を背負った青い髪の女性でして……」


 その説明を聞いた途端、ソフィアが眉をひそめた。


「まさか……リアナか」

「ご存知なのですか?」


 エルナが驚いた様子で尋ねた。


「ああ、冒険者ギルドでの知り合いだ。情報収集が得意な弓使いだ」

「会ってみよう」


 俺の言葉に、宿の主人は頷いて下がった。

 そして、一人の女性が颯爽と入ってきた。


「やーっほー!  会えて嬉しいわ、ソフィア!」


 その声は明るく朗らかで、部屋の空気を一変させた。

 薄い水色の髪をポニーテールにまとめ、背には大きな弓と矢筒を背負っている。

 アクアマリンのような薄い青緑色の瞳が好奇心に満ちて輝き、全身から溢れるような活力を感じさせた。

 身に着けているのは動きやすい軽装で、森の色合いを基調とした装いだった。

 彼女の右腕には小さな部族紋様のタトゥーが見える。


「リアナ・ミストフェザー……」


 ソフィアは少し疲れたような表情で言った。


「何の用だ?」

「もう、冷たいわね!」


 リアナは笑いながら、臆することなく部屋に入り込んだ。


「あら?  この人たちが噂の仲間?」


 彼女は俺たちを興味津々で見回した。


「初めまして、私はエルナ・ローレンスです」


 エルナが礼儀正しく自己紹介した。


「ロゼッタ・アイアンワークス、魔導技師っス!」


 ロゼッタは元気に名乗った。

 リアナの視線が最後に俺に向けられた。


「あなたが噂の……魔導バイクってものに乗っている人?」


 彼女の目は興奮で輝いていた。


「ああ、神谷烈火だ」


 俺は素っ気なく答えた。

 異世界に来てから、自分のことが噂になっているのは少し居心地が悪い。


「わぁ! やっぱり!」


 リアナは両手を叩いて喜んだ。


「『鋼の炎竜に乗る異世界の勇者』って噂を聞いて、絶対会いたいと思ってたの!」

「え?  そんな大げさな噂になってるのか?」


 俺は困惑した表情を浮かべた。

 リアナは弾むような足取りで近づいてきた。


「あなたの魔導バイクって乗り物、ぜひ見せて!」

「リアナ、まずは用件を話せ」


 ソフィアが厳しい声で彼女を制した。


「もう、せっかちね」


 リアナは軽く肩をすくめた。


「実はね、ヴァレンティア領の件で重要な情報を持ってるの」


 部屋の空気が一変した。

 全員がリアナに注目する。


「あなたも知ってるの?」


 エルナが驚いた様子で尋ねた。

 リアナは少し得意げに微笑む。


「各地を旅してると、いろんな噂が耳に入るの。特に、ヴァレンティア領主の件は不気味よ」


 彼女は声を落として続けた。


「領主が若者たちを集めてるのは、『ドラゴン崇拝教団』のためだって噂があるわ」

「ドラゴン崇拝教団?」


 俺は初めて聞く名前に首を傾げた。


「古代の竜神を崇め、その力を現世に呼び戻そうとする秘密結社よ」


 リアナは説明した。

 彼女の表情はいつもの明るさから一転、真剣さを帯びていた。


「それが……若者と何の関係が?」


 エルナが不安げに尋ねた。


「生贄……かもしれない」


 リアナの言葉に、部屋に重い沈黙が落ちた。


「それだけじゃないの」


 彼女は続けた。


「ドラゴン崇拝教団は『竜の核』を探しているという噂もあるわ。もしそうなら……」


 彼女は意味深な視線を俺のほうに向けた。


「俺のバイクを狙っている……ということか」

「その可能性は高いわね」


 ソフィアが冷静に言った。


「それで、リアナ」


 ソフィアが彼女を見つめた。


「お前はなぜここに来た?  単なる情報提供だけが目的か?」


 リアナはくすりと笑った。


「鋭いわね、いつもの通り」


 彼女は部屋の中を軽やかに歩き回りながら言った。


「実はね、私もこの調査に参加したいの。ドラゴン崇拝教団については前から興味があったし……」


 彼女は俺の方を見て、目を輝かせた。


「それに、魔導バイクっていう面白いものに乗れるチャンスでしょ?  見逃せないわ!」

「確かに、リアナの情報収集能力はこの状況で役立つだろう」


 ソフィアが渋々認めた。


「私も大賛成っス!」


 ロゼッタが元気よく賛同した。


「人数が増えれば、サイドカーの実用性もさらに試せるし!」


 再び全員の視線が俺に集まった。

 リアナは期待に満ちた瞳で俺を見つめている。


「別にかまわないさ」


 俺はさりげなく答えた。


「本当!? やったー!」


 リアナは嬉しそうに飛び跳ねた。

 その動作は予想以上に軽やかで、彼女の敏捷性を物語っている。


「ありがとう、烈火!  絶対役に立つから!」


 彼女が俺の名前を呼び捨てにしたのに、少し驚いた。

 だが、それが彼女の性格なのだろう。


「それじゃあ、この四人体制ね!」


 ロゼッタが嬉しそうに言った。


「でも……」


 エルナが少し心配そうに口を開いた。


「バイクとサイドカーで四人全員が乗れるでしょうか?」

「それなら心配しなくていい」


 ソフィアが答えた。


「私は馬で行く。バイクの機動力を活かすためにも、全員が乗るべきではない」

「では、私は……」


 エルナが小さな声で言いかけたとき、リアナが勢いよく手を挙げた。


「じゃあ、私は烈火の後ろ!」

「え?」

「だめよ!」


 ロゼッタが反論した。


「後部シートは危険だから、経験者の私が……」


 リアナが反論する。


「私の方が身軽だし、森での反射神経には自信があるわ!」

「そんなの関係ないっス! バイクの知識があるのは私だから……」


 二人の言い争いを見ながら、俺は少し呆れた表情を浮かべた。

 すると、静かにエルナが口を開いた。


「みなさん……」


 彼女の優しい声に、争っていた二人も黙った。


「大切なのは誰がどこに乗るかではなく、若者たちを救うことではないでしょうか?」


 彼女の緑の瞳には真摯な光が宿っていた。


「私はどこでも構いません。烈火さんが判断してください」


 エルナの冷静な言葉に、一同は少し恥ずかしげに黙り込んだ。


「……そうだな」


 俺は少し考えてから決断した。


「サイドカーにはロゼッタが乗る。彼女が魔導砲を操作した方がいい。後部シートはエルナだ」

「え~?  私は?」


 リアナが不満そうな声を上げた。

 俺は少し言葉を選んでから続けた。


「前衛と後方支援の間を自由に動ける方がいい。ソフィアと一緒に連携して、偵察と狙撃に専念してくれ」

「なるほど!」


 リアナは一瞬でその役割を受け入れ、明るく笑顔を見せた。


「 考えが戦略的ね!」

「そうとも言えるな」


 ソフィアも静かに同意した。


 こうして、俺たちの計画は急速に具体化していった。

 夕方から夜にかけて、ロゼッタは工房でサイドカーの魔導砲を製作し、ソフィアは武具や装備の準備を整えた。

 エルナは医療品や回復用の魔法薬を用意し、リアナは自分の弓と矢を念入りに点検していた。


 俺は愛車「ドラグブレイザー」のメンテナンスをしながら、この異世界での新たな冒険に思いを馳せていた。

 日本にいたときは一人きりだったのに、今では四人の仲間ができた。

 

「相棒、明日からまた新しい道を走るぞ」


 バイクのタンクを撫でながら呟くと、赤い紋様が微かに脈打つように光った。

 まるで「任せろ」と応えているようだった。


 ◇


 翌朝、空がまだ薄暗いうちに、俺たちは街の北門に集合した。

 ロゼッタは魔導砲を取り付けたサイドカーを誇らしげに指さした。

 砲身は洗練されたデザインで、まるで龍の首のように前方に伸びている。


「一晩かかったけど、無事完成!  これは魔力共鳴砲!  サイドカーに内蔵された魔法陣がバイクの魔力を増幅して、砲弾として発射する仕組みよ!」


 彼女の説明に、リアナは目を輝かせた。


「すごい! これに乗りたかったなぁ……」

「次の機会があるさ」


 俺は慰めるように言った。

 エルナは白と水色のローブに身を包み、腰には回復薬の入った小さな袋を下げていた。

 彼女の緑の瞳は決意に満ちている。


「準備は整いました」


 彼女は穏やかに言った。

 ソフィアは白い馬に跨り、腰の剣を確認していた。

 彼女の鎧は朝日を反射してわずかに光る。


「計画を確認しよう」


 ソフィアは簡潔に言った。


「ヴァレンティア領に到着したら、まず村の状況を調査する。無闇に城に乗り込むのは避け、情報収集を優先する」

「了解! それが私の得意分野よ!」


 リアナは自信満々に言った。

 彼女は軽装の猟師スタイルで、背には大きな弓と矢筒を背負っている。


「村人の安全確保が最優先です」


 エルナが真剣な表情で言った。


「もし負傷者がいたら、すぐに治療します」

「ドラゴン崇拝教団の情報も集めよう!」


 ロゼッタが付け加えた。


「うむ、それでいい」


 ソフィアは頷いた。


「じゃあ、出発しよう」


 俺はバイクのエンジンを始動させた。

 いつもの強烈な唸り声とともに、タンク部分の紋様が鮮やかに輝きだした。


 エルナが後部シートに優雅に乗り込み、ロゼッタがサイドカーに飛び乗った。

 彼女は早速、魔導砲のシステムをチェックし始めている。


 リアナはソフィアの馬の後ろに軽々と飛び乗った。

 彼女の動きは猫のように軽やかで無駄がない。


「行くぞ!」


 俺の掛け声とともに、一行は北東の方角——ヴァレンティア領に向けて出発した。

 バイクのエンジン音と馬の蹄の音が朝の静けさを破り、新たな冒険の始まりを告げていた。


 緑の丘陵地帯を抜け、広大な平原を横切り、時には小さな森を迂回しながら、俺たちは北東へと進んでいった。

 太陽が高く昇るにつれ、風景は徐々に変化し、肥沃な土地から少し荒れた大地へと変わっていく。


 リアナが馬上で立ち上がり、遠くを指さした。


「あそこに見える山脈がヴァレンティア領の境界よ! 」


 彼女の明るい声が風に乗って届いた。

 エルナは後部シートから小さく呟いた。


「烈火さん……」

「なんだ?」

「領主の城に着いたら……戦いになるかもしれませんね」


 彼女の声には心配が混じっていた。


「ああ、その可能性は高い」


 俺は正直に答えた。


「でも、俺たちには強い仲間がいる。それに……」


 俺はバイクのタンクを軽く叩いた。


「相棒がいるからな」


 タンクの紋様が脈打つように明滅した。

 まるで励ましているかのように。


 空を見上げると、遠くの山脈の向こうに暗い雲が集まり始めていた。

 嵐の前触れか、それとも別の何かの予兆か……。


「ヴァレンティア領、か」


 俺は小さく呟いた。


「走るしかないな、相棒」


 バイクのエンジンが力強く唸り、俺たちは未知の危険へと突き進んでいった。


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