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エピローグ

 翌朝、俺は工房の屋根の上で朝日を眺めていた。


「ここにいたのね」


 振り返ると、リアナが軽やかに屋根を登ってきた。

 彼女の動きはいつも猫のように滑らかだった。


「朝日を見るのが好きなの?」

「ああ、なんとなくな」


 彼女は俺の隣に座った。

 水色の髪が朝風になびいている。


「昨日は楽しかったわ」

「ああ」

「でも…………」


 彼女の声が少し沈んだ。


「この平和もいつまで続くかわからないのよね」

「心配するな」


 俺は彼女の肩を軽く叩いた。


「俺たちには強い仲間がいる。それに、相棒もいる」

「そうね」


 彼女は元気を取り戻したように微笑んだ。


「それに、私の弓の腕前はまだまだ上がるわ! 次はバルドラスの目を両方とも射抜いてやるんだから!」

「期待してるよ」


 そう言って笑っていると、下から声が聞こえた。


「烈火さん! リアナさん!」


 エルナが工房の庭から手を振っていた。


「朝食ができましたよ!」


 リアナは嬉しそうに立ち上がった。

 

「早く行かないと、ロゼッタが全部食べちゃうわよ!」


 そう言って、彼女は屋根から軽々と飛び降りた。

 その身のこなしはさすがだった。


 俺も立ち上がり、もう一度朝日を見つめた。

 赤く輝く太陽が、新しい一日の始まりを告げている。

 どんな困難が待ち受けていようとも、この仲間たちと一緒なら乗り越えられる——そんな確信を胸に、俺も屋根から降りた。


 工房の中では、ロゼッタがすでにテーブルに陣取り、エルナの作った朝食に手を伸ばしていた。

 ソフィアはいつもの冷静さで、お茶を静かに飲んでいる。


「おはよう」


 俺が挨拶すると、全員が振り返った。


「おはようございます、烈火さん」


 エルナが優しく微笑んだ。


「おはようっ!」


 ロゼッタの目は、すでに研究熱心に輝いていた。


「おはよう」


 ソフィアは短く答えたが、その目には温かさがあった。


「さあ、食べましょう! 冷めちゃいますよ!」


 エルナが料理を運んできた。

 朝食を囲みながら、五人は昨日の祭りの話や、これからの計画について話し合った。

 笑い声が工房に響き、それはとても温かい時間だった。


 食事の後、俺は外に出て、バイクの様子を見に行った。

 ドラグブレイザーは朝日を浴びて、黒い車体が鈍く光っていた。


「おはよう、相棒」


 タンクに手を当てると、微かな温もりを感じた。


「おはよう…………」


 竜の声が静かに響いた。


「今日はどこへ行く…………?」

「そうだな…………」


 俺は空を見上げた。

 雲一つない青空が広がっている。


「どこか遠くまで走ってみるか。この世界のことをもっと知りたい」

「良いだろう…………」


 竜の声には同意の色が感じられた。


「烈火!」


 振り返ると、リアナが駆けてきた。

 彼女の後ろには、残りの三人の姿もあった。


「私たちも連れていってよ!」


 リアナの目が期待に輝いていた。


「ロゼッタ、新しいサイドカーはできたのか?」

「もちろんっ!」


 彼女は誇らしげに胸を張った。

 サイドカーはまるで芸術品のように洗練されていた。

 金属の表面には繊細な模様が刻まれ、座席はふかふかのクッションが備えられている。


「乗車位置は?」


 俺の質問に、四人は顔を見合わせた。

 昨日とは違い、今日はサイドカーが一つしかない。


「私はサイドカーがいいな」


 ソフィアが意外なことを言った。


「何よ、珍しいじゃない」


 リアナがからかうように言った。


「いつもは『私は馬でいい』って言うのに」

「…………馬では追いつけないと思っただけだ」


 ソフィアは視線を逸らした。


「それなら、私はソフィアさんとサイドカーに」


 エルナが静かに言った。


「二人なら十分乗れますから」


「え~!」


 リアナが抗議した。


「私も乗りたいのに~!」

「仕方ないわね」


 ロゼッタが溜息をついた。


「私と烈火さんの後ろに乗るしかないっスね」

「それでいい?」


 俺が全員に確認すると、しぶしぶながらも皆が頷いた。


 バイクにまたがり、ロゼッタが俺の後ろに、リアナがその後ろに乗り込んだ。

 サイドカーにはソフィアとエルナが収まった。


「さて、どこへ行こうか?」

「東のシルバーリーフの森はどうです?」


 エルナが提案した。


「美しい湖があると聞いています」

「南の海が見たいわ!」


 リアナが元気よく言った。


「私、海を見たことないのよ!」

「お前はどう思う?」


 俺はソフィアに尋ねた。


「…………どこでも構わない」


 彼女はそっけなく答えたが、その目には小さな期待が浮かんでいた。


「相棒はどうだ?」


 タンクの紋様が明滅した。


「汝らの望むところへ…………」

「じゃあ、全部行こう」


 俺は笑いながら言った。


「東も西も南も。この世界中を走破してやる」

「やった~!」


 リアナが歓声を上げた。


「最高ね!」


 エンジンをかけると、いつもの竜の咆哮のような音が響いた。

 

「行くぞ!」


 アクセルを回すと、バイクが発進した。


「相棒、これからもよろしく頼むぞ」


 俺がタンクを軽く叩くと、紋様が明るく輝いた。


「もちろん…………永遠に共に…………」


 竜の声が風の中に溶けていった。

 こうして、俺たちの新たな旅が始まったのだ。


 走れ、限りなく。

 走れ、果てしなく。

 走れ、自由に。


 異世界で手に入れた大切な仲間たち、そして相棒と共に——。

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