5【最悪の事態】
シャルロッテ「あ…ここ…この道です、ここを抜けたらギルド前まで着きます…」
シャルがいうにはここが最後の一本道のようだ。
ここまで狭い通路を何回も通ってきたため、ゾンビとのエンカウントは極力避けることができ、かなり楽ができた。
シャルロッテ「……」
だが先程からシャルの様子が変だ。
…こうなんというか…暗いのだ。
ゾンビ2匹を倒したあの後からずっとこの調子でいる。
私があの時バカかと指摘したことで、私を守るためにやった行動が逆に迷惑を掛けたと思い込み、それで落ち込んでいるといったところだろうか。
…この調子ではいざという時、対応できないかもしれん。
万が一にも、この女に死なれては困るしな…一つ手を打つことにするか。
ルーシェ「…先程の魔法ですが」
シャルロッテ「……は、はいっ…」
ルーシェ「私を守るためにやってくれたんですよね。…ああは言いましたが、私も確実に奴を制圧できる保証はありませんでしたので、あなたのお陰で助かりました。ありがとうございます」
お礼を言いながら私はペコっと頭を下げた。
シャルロッテ「……ッ!え…えと…!あの…お役に立てて、良かったですっ…!」
感謝の言葉を素直に伝えると、彼女はあたふたとしながらも嬉しそうな表情に変わった。
様子を見るに、急に礼を言われるとは思ってなかったのだろうな。
私は下げていた頭をゆっくりと上げると、さらに言葉を続ける。
ルーシェ「それと道案内も…私はこの道を知りませんでしたので、あなたが着いてきてくれたおかげで極力危険を避けて通ることができてます」
そう伝えながら私はシャルの頭に手を置き、優しく撫でた。
シャルロッテ「ぁ……あぅ…えっと、その……」
…ふむ、暗い感じが消えたな。
チョロいお陰で扱いやすい。
…よし、これなら先ほどよりはマシだろう。
私もこう言った事は初めてで慣れていないからな。
守れる保証はない…だから油断しないで欲しいものだ。
ルーシェ「さて、そろそろ行きましょうか」
シャルロッテ「…は、はいっ!」
シャルのコンディションを整え、準備が完了した私たちは最後の細道に入り、奥へと進み始めた。
そうして最後の道中も問題なく通り抜けることができ、大通りへと出るとついに目指していた場所へ辿り着くことができた。
シャルロッテ「冒険者ギルド…ここです!」
隣でシャルがそう呟いたことで、私も改めてここが目的地なのだと認識する。
よし、まず突っ込む前に周りの様子を見てみるか。
………ざっと見た感じ、ギルドの周りにいるゾンビが10数匹…そのうちギルドの扉を塞いでいるゾンビが3匹か。
奴らは音に反応する…とするならここは…。
ルーシェ「ここで魔法を使いましょう。ファイヤボールをあの家の扉に向けて放ってくれますか?」
そう言って指を差したのはギルドのすぐ横にある建物だった。
シャルロッテ「は、はい、わかりましたっ!…でも魔物にぶつけなくていいのでしょうか…?」
ルーシェ「音で釣る作戦で行きます。ファイヤボールがどれくらいの音を出すかは分かりませんが、ここを打開するにはそれに賭ける他ありません」
シャルロッテ「わ、わかりましたっ…!やってみます……炎の精霊よ、我が魔力を贄に敵を焼き尽くしたまえ…ファイヤボール!」
バシュッ…
ドン!
ドアに当たったファイヤボールは音を立てて爆発した。
先程のフレイムキャノンと比べるとだいぶ静かだが、奴らを引きつけるには十分な音だったようで、周りのゾンビをそちらに寄せることができた。
だが入り口にまだ2匹張り付いている。あれを早めに何とかしなければならない。
シャルロッテ「ルーシェさん…どうしましょう…まだ入り口に魔物が…」
ルーシェ「…あれは私が引き受けます。あなたはその隙にギルド内へ入って探し物を見つけてください」
シャルロッテ「えっ…!?でも…」
ルーシェ「私なら問題ありません。…行きますね」
今、ゾンビ共をあの建物に引き付けることに成功したこの好機を逃すわけには行かない。
少しでも時間をかけまいと、私は入り口のゾンビに向かって走った。
そうしてある程度近づくと、奴らは耳が良いのか2匹ともこちらに気付き、向かってきた。
「グウアアァァアァ!!」
ルーシェ「……」
好機だ。
今の所、この2匹だけが私の存在を認識している。
横の建物に引き寄せられた奴らまでこっちにきたらどうしようかと考えていたが、すぐ処理できれば大丈夫かもしれないな。
まずは向かってきた1番手前のゾンビの股の間にホウキの柄を突っ込み、そして持っていた右手に力を込めて足に絡ませた。
この動作により一匹、ゾンビが地面に転がる。
それと同時、今度は看板を正面に構えて盾のようにした状態で、後ろにいた2匹目のゾンビに思いっきりタックルし、ふっ飛ばす。
よし、これで2体転がすことに成功した。
だいぶ時間を稼げたはずだろう。
…今のうちにシャルが建物内に入ってくれれば。
この一瞬で思考を巡らせ、落ち着いた今…シャルの動きを確認するべく、ホウキで転がしたゾンビの頭を踏み潰しながら私は彼女の方に視線をやった。
しかし彼女は…動けていなかった。
ルーシェ「何をしているのですか!?早く動いてください!」
シャルロッテ「あっ…!ご、ごめんなさいっ…!」
声をかけたことでシャルはようやく動き出し、ドアを開けギルド内へと入って行った。
あの様子…私のことが心配で動けなかったのだろう。
弱そうに見えるのも良いことはないらしいな。
…まぁ、とりあえず第一の目標は達成した。
あとは私が生きてこの状況を何とかできるかどうか…か。
「グウオオォ…」
先程シャルに大声をかけた事により、周りにいるゾンビ共数十匹が全て私の存在に気付き、迫ってきていた。
さらには看板でふっ飛ばしたゾンビもすでに立ち上がっており、前後左右囲まれるという最悪な状況だ。
今、私がギルド内に逃げても、この量のゾンビ…ドアを破壊される可能性もある。
そうなればギルド内にいるシャルと仲良死ってか。
ルーシェ「さて、困ったな…」