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4【ギルドへ】



ルーシェ「私が様子を見てきます」

ルシェラ「なっ!?何を言ってるの!ルーシェ、あなた戦えるの!?」

ルーシェ「魔法とかいうのは分かりませんが…武器があればあのゾンビくらいなら」


 そう喋りながら、私は避難所にある武器になりそうな物を探し始めた。


ルシェラ「……っ!だ、ダメよ!行かせないわ!」


 ルシェラは必死に私を止めようとしているが、それを無視して物色する。

 ふむ…ホウキか。

 これなら千鳥足のアイツらを転ばせるくらいには使えるかもしれんな。

 あとは……これは看板か?

 吊り下げるタイプの看板で、オープンと書かれている大きめの板を見つけた。

 見たことのない文字だが、なぜか読めることができる。



 さて、装備は整った。

 …と言ってもゾンビ共と追いかけっこしても、足の速いアイツらに捕まるのは明白だ。

 なのでステルスで動く必要があるだろう。

 仮にも、もしバレた時にはホウキで転がして頭を踏み潰す。

 そのプランで行くことにしよう。

 …さて、そうすると残るはルシェラという壁をどうするか、だな。


ルーシェ「そこをどいてくれませんか」

ルシェラ「ダメよ!言うことを聞かないと怒るわよ!」

ルーシェ「説教は私が生きて帰ってからでも遅くないと思うのですが?」

ルシェラ「充分遅いわよ!」


 ダメだな。

 この壁、どうするか。

 そんなことを考えた時、部屋の隅で私たちのやり取りを聞いていたシャルがこっちへ来た。


ルシェラ「大体ねぇあなた!ホウキと看板で一体どう魔物を相手するつもりなの!?」

シャルロッテ「あ、あの…私もちょっとした魔法くらいなら使えます。ルーシェさんが行かれるのでしたら私も…」


 そう言ってシャルという女まで立候補してきた。

 …まぁ魔法が使えるというのなら切り札として連れていくのもアリだが…もし仮に死なれると私の行動に意味がなくなってしまう。

 そんなことを考えながらルシェラの方へ目をやると、彼女は頭を抱えながら大きくため息をついていた。


ルシェラ「はぁ……いい?2人とも。いつ怪我人がくるかわからないこの状況で、私はここを離れることができないの。本音を言えば手伝いたいけれど——」


 バタン!


 「おう、ルシェラ!急患だ!2人診てやってくれ!」


 ルシェラが話している途中、背後の扉が勢いよく開き、ガッチリ体型の大男が人間を2人抱えながら入ってきた。


ルシェラ「アグネス!わかったわ!そこへ寝かせてあげてくれないかしら!」

アグネス「おう!」


 喋りながら大男とルシェラは怪我人を優先し、中へと入っていく。

 …これは今なら抜けられそうだな。

 この時、シャルも同じことを考えていたのだろう。

 私たちは目を合わせ、小さく頷いた。

 そして息を合わせると、2人で走って勢いよく外へと飛び出した。

 だが、それはすぐにルシェラに気付かれる。


 ルシェラ「あ!コラ待ちなさい!!——ッ!アグネス!あの2人の後を…………」



———


ルーシェ「ギルドまでの道を教えてください。先頭は私が歩きます」

シャルロッテ「は、はい!すみません………あの、そこの細い道を通ると近道です」


 この女、かなりオドオドしている様子だな。

 …まぁ道さえ案内できるのなら問題はない。


 そうしてシャルが指を差した方を見ると、ものすごく細い道がそこにはあった。

 入ってみると体の細い私たちが1人ずつ、歩くのがやっとなくらい狭い道だった。

 これだけ細い道ならばあのゾンビ共は通れまい。

 この道をチョイスしたのは正解だな。


ルーシェ「……」

シャルロッテ「……………ぁ…あ、あの!」


 後ろからシャルが話しかけてきた。


シャルロッテ「わたし、シャルロッテです。まだ名乗ってなかったので…」


 シャルロッテか。…シャルと呼んでいたのは愛称的な感じなのだろうな。


ルーシェ「……私は」

シャルロッテ「る、ルーシェさんですよね!ルシェラさんがそう呼んでましたので…」


 そういえば先程避難所から出る時も私の名前を呼んでいたな。

 名乗る手間が省けるのは楽でいい。

 …今度から胸元に名札でも付けておこうかね?


 そうして名乗り合った後、またしばらく歩き続け、細道を抜けて大通りに出ることができた。

 しかし警戒は怠らない。

 大通りへ出る前に少しだけ細道から顔を出し、ゾンビの有無を確認してみると…やはりいた。

 それも2匹だ。


ルーシェ「います。2体ですね」

シャルロッテ「えっ…!どうしましょう!?バレましたか!?向かってきてますか!?」


 ゾンビの存在を伝えるとシャルは露骨に慌て始めた。


ルーシェ「奴らは音に反応します。そうやって大きな声を出しているといつかはバレるかもしれませんね」

シャルロッテ「あっ……」


 少し脅してみるとシャルは両手で口を塞ぎ、すぐに黙った。

 ふむ、お利口さんだ。

 さて、あの2匹だがどうするか。

 このホウキに殺傷力があればあるいは2匹相手にできたかもしれんが。

 …シャルの魔法で1匹仕留め、もう一体を私が相手するのが1番丸いだろうか?


ルーシェ「…先程ちょっとした魔法くらいなら使えると言ってましたよね。あれを1匹仕留めることは可能ですか?」

シャルロッテ「えと…はい!多分…できると思います…」

ルーシェ「多分?」

シャルロッテ「あ…いえ!できます!大丈夫です!」


 本当に大丈夫なのか、この女…。

 まぁいい、…とりあえず作戦に移る。

 まずシャルの魔法で2匹のうち手前にいるゾンビを処理してもらう。

 ここで確実に音により気が付かれるので私がすぐさま駆け寄り、看板を盾にし、接近を試みる。

 千鳥足のアイツらなら足にホウキを絡ませればすぐに転ぶだろう。

 その隙に頭を踏み抜く。

 これならシャルの魔力を極力温存しつつ制圧が可能だ。


ルーシェ「作戦は伝えた通りにお願いします」

シャルロッテ「は、はい、分かりました…。でも……ルーシェさんが危ない…」

ルーシェ「私のことなら問題ありません。それより自分の事に集中してください、…行きます」


 作戦を伝え、準備を整えるとまずはシャルが動く。

 目を瞑り、両手を前に出すと詠唱を始めた。


シャルロッテ「炎の精霊よ…我が魔力を贄に、敵を焼き尽くしたまえ…」

 

 すると突然、シャルの前に赤色の魔法陣が展開された。

 おお、すごい。これが魔法なのか。


シャルロッテ「フレイムキャノンッ!!」


 バシュゥッ……

 ドガーン!


ルーシェ「……………」


 さすがにこれには言葉が出なかった。

 放たれた炎の塊が手前のゾンビの背中に着弾後、大爆発。

 さらに威力が強すぎたのか、隣にいたもう1匹のゾンビもグチャグチャになっていた。


シャルロッテ「はぁ…はぁ…こ、これでルーシェさんが危険を犯さずに…!」

ルーシェ「…一応確認しますが、魔法は今のしか使えないのですか?」

シャルロッテ「あ、いえ!いまのは中級の炎魔法でこれより威力が低いファイヤボールが…」

ルーシェ「バカですかあなた」

シャルロッテ「ひっ…!」


 シャルには先程魔力を極力温存しろと伝えていたはずなのだ。

 この女の魔力量など私にはわからないから、この後の道のりで何かある時の切り札として取っておくべきだ、と。


ルーシェ「ファイヤボール、後何発撃てますか」

シャルロッテ「あ…えと、2発ほどならまだ…すぐに撃てます…」


 2発か…考えて行かなければならないな。

 とりあえず、すぐにここを離れる事にしよう。

 今の爆音で奴らが集まるかもしれない。


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