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3【避難所】



 こちらへ一斉に走って向かってくるゾンビ共。

 背後には瀕死の重傷様。

 奴らの速さからみて私1人で逃げたとて恐らく追いつかれ、喰われるだろう。

 まさに絶体絶命だった。

 この男が持っていたソードも門のところへ置いてきたし、戦う手段も持たない。

 …終わったな。アマネ…一瞬だったぞこの世界。


 天界にいるアマネに向けて心の中でそう呟き、諦めようとしていたその時だった。


 「何やってんのアンタ達!ハアァァァッ!!」


 後ろから2回発砲音が聞こえ、次の瞬間には目の前のゾンビ共が爆発した。

 …一体何が起こったのだ?

 ワケがわからなかったが、とりあえず声の主がいる方向へ視線をやる。

 するとそこには赤髪の小柄な少女が立っていた。


 「アンタみない顔ね…ってルミナのパパじゃない!?何があったのよ!?」

ルーシェ「……診療所をしりませんか。早くしないと死ぬかもしれません」

 「あぁあ……えと…そうだ!ルシェラさんなら治せるかもしれないわね…こっちよ!避難所まで案内するわ!」

 

 赤髪の少女は少し慌てつつも私の手を握り、早歩きで案内してくれた。

 どうやら避難所まではここからそう遠くないとのことらしいので、これでこの男も恐らく助かるだろう。

 …はぁ、それにしても重い。



———


 少し歩くと避難所へはすぐに着いた。

 ドアの目の前までくると少女は握っていた私の手を離し、避難所の扉をバンッ!と勢いよく開ける。


 「ルシェラさん!ルシェラさんどこ!?」


 避難所の中へ入りながら大声でルシェラという人物を探す。

 すると、奥の方で苦しそうにしている人の看病をしていた女性がこちらに気付き、視線を向けてきた。

 緑髪のメガネ…多分あれがルシェラか?


ルシェラ「あら?エリス……ッ!クラウザ!?その怪我は…!」

エリス「血を流しすぎてるみたいなの!お願い!なんとかしてあげて!」


 焦った表情のルシェラがこちらへ駆け寄ってきたので、私はクラウザと呼ばれるこの男を床に寝かせ、後の事を任せた。


 だが、男1人を背負って動き回っていた私の体もさすがに限界が来た。

 男を下ろした瞬間にフラフラし、男同様、私もその場に倒れてしまったのだ。


エリス「ッ!?ちょっと!?アンタ大丈夫なの!?しっかりして!」


 1人運んだだけでこの体たらく…情けない。

 だが男女でここまで力に差があるとは思わなかった。少しばかり体を鍛える必要があるな。


ルシェラ「エリス、この子も私に任せて。あなたはあの魔物達を」

エリス「え、えぇ!わかったわ!2人とも死なないでよね!」


 エリスと呼ばれる少女は私と瀕死の男にそう声をかけると、二丁の銃を抜いて外へ走って出ていった。

 エリスが去った後、ルシェラは開けたままの扉を閉め、まず怪我の多いクラウザを診る。


ルシェラ「…怪我が多いわね…でも1番深い傷には布が…この子が止血をしたのかしら…」

 

 独り言を喋りながら男の服を脱がし、止血していた布を解いた。そして上半身を裸にしたところで腹部辺りに手を添える。


ルシェラ「命の精霊よ、我が声に応え…この者を癒したまえ。ヒーリング!…………あれ?」


 なにやらルシェラは魔法の詠唱のような物を唱えていたが、特に何も起きる様子はなかった。

 アマネの言っていた魔法…あれがそうなのか。


ルシェラ「なんで…どうして?さっきまで使えていたのに…?魔力…いや、ちゃんとあるわね…」

ルーシェ「なにか…問題でも…起きましたか」


 私は喋りながらフラフラと立ち上がる。

 この男と違って私はとくに怪我をしているわけでもないので、少し倒れていれば歩けるくらいにはすぐに回復した。


ルシェラ「あ…起きていたのね。無理せず横になってていいのよ?」

ルーシェ「いえ…トイレをお借りしたいので…使ってもいいですか」


 そう伝えるとルシェラはトイレの方向に指を差し、場所を伝えてくれた。


———


ルーシェ「………」


 用を足している時、気になることがあった私は考え事をしていた。

 ルシェラがあの時言っていた言葉—…


ルシェラ『エリス、この子も私に任せて。あなたはあの″魔物達″を』


 魔物…あのゾンビのことを言っていたのだろう。

 しかし引っかかるのだ。

 アマネは比較的魔界の遠い安全な街へと送ってくれたはず。

 ならばなぜ、今この街に魔物がいる?

 …まさかこの世界、ゲームのようにあのゾンビ共がその辺に自然沸きしたりするのだろうか?

 そしてアマネは…この状況をどう見ているのだろうか?


ルーシェ「天界に戻る術がない以上、考えていても答えは出ないし無駄か…」


———


 トイレから戻り、ルシェラの方を見るとボロボロだった男の傷が完全に癒えていた。

 おそらく先程の魔法で傷を治したのだろう。

 これで一つの命が救われたということだ。


ルシェラ「ふぅ…もう一度試したらちゃんと使えて良かったわ…。さ、あなたも診るからおいで」


 ルシェラは私の方をみて手招きした。


ルーシェ「私は別に問題ありません。怪我なんてどこも——」

ルシェラ「ダメ!万が一ということもあるでしょ。こっちにいらっしゃい」


 ……この感じ、まるで前世を思い出す。

 まぁ…今となっては思い残すような事は何もないが。

 これ以上は特に断る理由もないので、言われた通り近くまで行って正座した。


ルシェラ「……見たところ本当に外傷はないわね。でも一応…命の精霊よ、我が声に応え…この者を癒したまえ。ヒーリング!」


 …しかし何も起きない。


ルシェラ「…どうして……?今まで魔法が発動しないなんて事…」

ルーシェ「…」


 不調だろうか?さっきも私がいる時は使えていなかったな。


ルシェラ「あなた、名前は?」

ルーシェ「ルーシェです」

ルシェラ「そう、ルーシェね。私はルシェラよ。……それでねルーシェ、あなたがここにいた時は回復が使えなかったけれど、トイレに行ってた時は使えたの」


 私は無言のまま頷く。


ルシェラ「考えすぎかも知れないけれど、もしかするとあなたの体には回復を阻害する呪いが———」


 …突然喋っていたルシェラの声が止まる。それと同時、後ろに気配を感じたので振り返ってみた。

 すると私の背後に、金髪の少女が涙を流しながら立っており、震える手で急に私の両肩をガシッと掴んだ。


 「あ、あの…ギルドの方……見ませんでしたか?小さい子が取り残されているんです」

ルーシェ「知りません。見てないので」

 「……そう…ですか…。すみませんでした…それと、クラウザさんを助けていただいてありがとうございます…ぅ、ぐすん……」


 話を終えると彼女はトボトボと歩き、元のいた場所へ座り込んだ。


ルシェラ「シャル……」


 シャル…彼女の名前だろうか。

 彼女があんなに悲しそうにしているのは、身内を置いてきてしまったのだろう。小さい子と言っていたし、おそらくは家族だろうか。

 そうやって思考を巡らせていると今度はルシェラが喋りだした。


ルシェラ「ルミナっていう受付の子がギルドに取り残されているのよ…私がここを離れるわけにもいかないし……レイアが一緒にいるはずだから大丈夫だと思いたいけど…」


 ルミナ…?あぁ、エリスがさっき言ってた、この男の娘か。

 ということは、ここでその子を助けることができればあのシャルとかいう女にも恩を売ることができるな。

 …ふむ、やってみるか。


ルーシェ「私が様子を見てきます」


 ここで恩を売ることができれば、今後この街で動きやすくなるだろう。

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