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12.強化されし亡者の王


 2人で協力し、ネクロタイタンと対峙するアグネスとエリス。

 状況は1人の時よりずっと優勢だ。


アグネス「もういっちょ行くぞォオ! デカブツがァァ!」


 アグネスが真っ正面から突っ込んでいった。

 エリスは即座にサイドへ回り込み、後方からの支援に徹する。


 接近するアグネスにネクロタイタンが反応し、巨大な腕を振り上げる。

 腐った肉の裂けるような音を立てながら、手のひらが風を切り裂いてアグネスを掴もうと迫る。


アグネス「へっ! それァ読めてんだよッ!」


 しかしアグネスは俊敏に身を翻し、奴の手を紙一重でかわした。


 そのまま巨体の足→太もも→腹部へと、まるで岩壁を駆け上がるように蹴り登っていく。

 腐肉を抉るブーツの感触、噴き出す黒い体液の生臭さが鼻を突いた。


 一気に肩まで登りつめ、眼前でネクロタイタンの腐敗した顔面が迫る。


アグネス「真っ二つにしてやるよォォオ!」


 登りきったと同時、アグネスは頭上から大剣を、全身の体重を乗せて真っ直ぐ振り下ろした。


 グチャァァァッ!!


 凄まじい手応えと共に、大剣はネクロタイタンの顔から腹部にかけて深く抉った。

 腐った肉が裂け、そこからドス黒いの体液が噴水のように飛び散る。

 骨を削る耳障りな金属音と、肉を引き裂く湿った音が重なり、戦場に響き渡った。


 「グオオォォォッッ!」


 ネクロタイタンが凄まじい悲痛の咆哮を上げた。


 その瞬間、巨体が片足を高々と振り上げ——地面に着地したアグネスを踏み潰さんと、巨大な影が落ちてくる。

 だが、エリスはその隙を逃さなかった。


エリス「そこっ!」


 鋭い声と同時に、炸裂弾が放たれる。


 弾は完璧に足の裏へ直撃し——

 ドゴォォォン!!


 耳を劈く爆音が響き、赤黒い爆炎が大きく膨れ上がった。


 衝撃波が空気を引き裂き、ネクロタイタンの巨体が大きくよろめく。

 奴は踏ん張りが効かず、そのまま後方へ倒れ込んだ。


 ドオオオオン……!


 大地が激しく震え、土煙が濃密に舞い上がる。

 倒れた衝撃だけで周囲の瓦礫が跳ね飛んだ。


アグネス「ゴホッ! ゴホッ…! おい、派手にやるじゃねえかエリス…!」

エリス「アグネスさんが無茶に突っ込むからでしょ!」

アグネス「へッ! そうかい! そんじゃあもっぱつ行くぜェェェ!」


 掛け声と共に、アグネスは倒れた巨体の腹部へ跳躍し、着地した。

 そのまま頭部を目指して猛然と突っ込む。


エリス「ウィンドバーストッ!」

 

 エリスも呼応し、足元に強烈な風の爆風を発生させて一気に空へ舞い上がった。


アグネス「テメェは頭部を破壊したら死ぬんだったっけかァ!? じゃあ食らっとけやァァ!」


 頭部に到達したアグネスは、大剣を高々と振りかざした。

 すると刀身が純白の輝きに包まれ、瞬く間に巨大な光刃へと膨れ上がる。


 そして——全力で振り下ろした。


 ズシャアアアァァッ!!


 一撃は強大すぎて地面までも深く斬り裂き、ネクロタイタンの頭部を粉々に破壊した。白い光と黒い体液が激しく飛び散る。


 その直後、エリスの影が素早く動くのをアグネスは察知した。

 即座に後方へバックステップし、巨体から飛び降りる。


エリス「トドメよ! はぁぁッ!」


 上空からエリスが冷徹に叫んだ。

 直後、炸裂弾がネクロタイタンへ乱射される。


 破壊された頭部へ、次々と爆弾が叩き込まれ、連続する爆発により奴の頭部は跡形も残らないほど木っ端微塵になった。


 完膚なきまでの破壊。

 間近でそれを見ていたアグネスは勝利を確信した。


アグネス「…へっ、終わっただろ——」


 だが、次の瞬間。

 強烈な衝撃がアグネスの脇腹を襲った。


アグネス「ぐぅおっ!?」


 体が吹き飛ばされ、近くの崩れた建物に激しく叩きつけられる。

 背中と肋骨に激痛が走り、口の中に鉄の味が一気に広がった。


アグネス「ぐはぁッ!?」


 軽く吐血しながら、アグネスは瓦礫の上に崩れ落ちた。


エリス「アグネスさんッ!!」


 エリスが悲鳴を上げて急降下してくる。


 コイツ…頭を吹っ飛ばされてんのに、動きやがった…!?


 肋骨が数本折れた感触。体の内側がぐちゃぐちゃに掻き回されたような痛み。


 アグネスは血の混じった唾を拭い、歯を食いしばって立ち上がった。

 口内に残った血をペッと吐き捨て、再び大剣を構える。


エリス「大丈夫!? 動ける!?」

アグネス「あぁ……大丈夫だ。 頭がねえのに動くたァな……油断しちまったぜ」


 その言葉の直後——。


 頭部を失ったはずのネクロタイタンの巨体が、ピクピクと不気味に痙攣し始めた。


エリス「……コイツ、もしかしてエンハンスされてる……?」

アグネス「ちっ、どっかのクソ魔族の仕業だろうよ。 気をつけろ、奴が起きるぞ!」


 すると、ゆっくりとネクロタイタンが上体を起こした。

 失われた頭部からは黒紫の魔力の霧が渦を巻き、肉と骨が再生していく異様な光景が広がる。


 ネクロタイタンは、頭部が最大の弱点だった。

 それを破壊されれば活動を停止する——それがこれまでの常識だった。

 しかし、目の前の個体はその弱点を克服していた。


 (……何をどうすれば、コイツを倒せる?)


 エリスとアグネスは、ほぼ同時に同じ疑問を抱いていた。

 沈黙した一瞬の間に、二人の間に緊張が走る。


 そして、ネクロタイタンがゆっくりと立ち上がった。

 破壊したはずの頭部は、すでに再生しきっている。


 腐った肉が蠢き、骨が組み上がり、赤黒く充血した複数の目が新たに形成される。

 再生の過程で滴り落ちる黒い体液が地面に落ちると、じゅうっと音を立てて土を腐食させた。

 吐き気を催すほどの濃厚な腐敗臭が風に乗って二人を襲う。


 次の瞬間、ネクロタイタンが大きく背を反らした。

 まるで深く息を吸い込むかのように、胸部が異様に膨らみ、体内で魔力が渦を巻く音が低く響く。


アグネス「あれは…!おいエリスッ!! 叫ぶぞ! 魔力壁だ!」

エリス「了解ッ!!」


 二人は即座にポーチから魔石を取り出し、地面へ勢いよく叩きつけた。


 カシャンッ!


 魔石が粉々に砕け散るやいなや、純白と青の魔力が爆発的に溢れ出した。


 光の粒子が渦を巻きながら二人の周囲を高速で旋回し——

 アグネスとエリスが同時に手を前に突き出す。


 瞬間、強固な半透明の魔力壁が展開された。

 壁の表面は水のようにわずかに波打ち、淡い輝きを放ちながら、二人の身を守る盾となる。


 直後——


 ネクロタイタンが溜め込んでいた死の力を解放した。


 「グオオオオオォォォッ!!」


 咆哮と共に、巨体の口からドス黒い腐敗の液体が大量に撒き散らされた。

 それはただのブレスなどではなく、触れるものを瞬時に腐食・崩壊させる、死の瘴気そのものだった。


 ドゴォォォン……!!


 黒い奔流が魔力壁に正面から激突した。

 壁全体が激しく震え、耳を劈くような軋み音が響き渡る。


 表面が白く発光して必死に耐えていたが、みるみるうちに黒い斑点が広がり、細かなひび割れが走り始めた。


アグネス「ちっ! エンハンスの影響か……! 持たねぇぞ、このままじゃ……!」


 壁の内側で、アグネスは歯を強く食いしばった。

 折れた肋骨が激しく痛み、額に冷たい汗が浮かぶ。息をするだけで胸が焼けるような苦痛だった。

 エリスも両手を突き出したまま、大量の魔力を注ぎ続けていた。

 顔が青ざめ、唇がわずかに震えている。それでも必死に壁を維持しようと耐えていた。


エリス「くっ……! アグネスさんッ!!」


 黒い瘴気は一向に止まらない。

 むしろ威力を増し、魔力壁を内側から貪るように侵食を続けていた。

 壁のひびが徐々に大きくなり、限界が近づいているのがはっきりと分かった。


 その時——


 「…そこまでだよ」


 空から、二人にとって非常に聞き覚えのある落ち着いた声が響いた。


 次の瞬間。


 何かとてつもない速度で落ちてきた「影」が、ネクロタイタンの巨体に横合いから激突した。


 ゴォォォン……!!


 凄まじい衝撃音と共に、巨大な死の巨体が容易く吹き飛ばされた。


 地面を削りながら数十メートル滑り、瓦礫の山に激突してようやく止まる。

 黒いブレスが途切れ、圧倒的な死の圧力が一瞬で消えた。


エリス「……ひ、楸……! 楸だわ!」

アグネス「はっ……! 勝ったなこりゃァ!」


 ネクロタイタンを吹き飛ばした者——それは楸だった。

 彼はゆっくりと着地すると、二人に向かって柔らかい笑みを浮かべた。


楸「二人とも、耐えてくれてありがとう。 遅れてすまないね」

 


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