#1 チャシャ猫は抗う《ファイティングス》
同日の12月16日に誤字の修正、加筆・追記を行いました。
12/26、以下同文。
12/27、十燐と英雄の会話を修正しました。
2024年、1/7に優依の手癖の描写を追加しました。
4/7、とある女子生徒の言葉使いを変更しました。
他、微量の加筆をしました。
5/7、日本の記述を変更しました。
5/30、茜志保→志帆にミスを修正しました。
※※サイトnoteにて開催されていたコンテストに作者本人が応募した作品になります。決して無断転載や盗作ではこざいません。
両サイトで注意事項や連絡確認済みです。
https://note.com/4869_joker555/n/nc064a437bb93?sub_rt=share_pw
↑企画版及びプロトタイプなので連載の際には内容が異なっておりますが少なからずネタバレが含まれてしまいます事前に、ご了承下さい※※
夜景が一望できる高さの屋根から派手な光沢のあるクロコダイル柄の着物を着崩して薄っすらあるアゴ髭の整えた30代くらいで男性が綺羅びやかな街並みと花火を供に三日月をバックに金銀財宝を集まった大観衆に散撒いて北叟笑む。
煩わしいと左の手首を軽く縦にスナップすると、玉屋と左手を口に添えて叫んで遊んでいるようだ。
それを見上げる人々は誰も彼もが笑顔で歓声や口笛で褒め称える。
中には人混みを掻き分けようとする警備を転げさせていたりと味方のように振る舞っては落ちてきた宝石を拾って感謝を口にする。
「絶景、絶景♪
ほらほら、どんどん取れ取れ~!
どんどん~ドーンっと!
ほらほら、もっと有るぞ~!
ハッハッハッハッハ!!!
おっと、そらっ逃げるぞ~」
追っ手の警備に気づくと高笑いは止めずに、おちょくるような仕草をしては屋根から屋根に飛び移って背にある袋から札束を追っ手や集まった民衆に投げて闇夜に消えてゆく。
脈略も自分とも関係ない夢の内容に瞼をパチパチさせながら【竹神楽 優依】は目を覚ます。
ここは優依の自室だ。
ユグドラシル学園には一人に寮の個室が割り当てられる。
中には家族ごと引っ越しを済ませ住宅街からの通勤者もいるが優依の転校は急な手配や本人の意向要望で一人での生活と校舎敷地内と比較的近くに在るシックな雰囲気の生徒寮に決まった。
引っ越し作業が途中で中断したように段ボールの山と脱ぎっぱなしの衣服が散らばっている部屋のソファーで昨日帰宅したまま寝てしまい寝起きした優依は何気なくテレビの電源を付ける。
欠伸をすると周りを片付けながらニュースを見やる。
米国の有名特異能力者の1名が本邦である自国へとプライベートを装って極秘裏に入国して姿を消していた事が発覚してから2週間が経ったが捜査に進展が無い事を画面のアナウンサーが喋っていた。
話題は次へと移り、人気アイドルのハニワ男子が~~と聞こえて興味のないトピックに音声を垂れ流しながら朝食の準備にキッチンへと向かう。
部活には入っていないため制服に着替えれば多少は時間がある、ゆっくりしてから部屋を出ようと足を動かす。
◇
今日の実技授業では校舎に突撃する嵌めになり包帯を手解きながら保健室から出る。
同世代の噂話や蔑む視線を無視して汗を掻いたジャージを脱いで階段を上り教室に戻っていると、それなりの付き合いの長くなった知り合いの女が話し掛けてくるので適当に相づちを打つと片手を振って別れる。
後ろから溜め息が聞こえるも今更だと聞こえていない言わんばかりに去る選択肢をする。
侮辱ではない優越でもない、この人物が哀れみとも違う友情の感情から心配をしているのは優依には分かっていた。
それでも今は振り向けないでいる情けない自分しか居なかった。
付け加えて言うのなら仕方の無いに尽きる。
能力のコントロールや発動が上手くいかないのは事実の一部なのだから。
不貞腐れているわけでもない。
只、長い永い虚飾に身を任せているだけだ。
……………………………毎朝、同じ道を辿って登校して同じ道を通っては大人の説教は、そっぽを見ていて聞いてもいないために右から左に抜けていく。
同じ時間に帰る事の繰り返しで、たまに反抗したくなって違う事をしてサボったり、道草を食ってみても行動範囲の範疇だ。
意外性など何処にも有りはしない。
飽きているのに現状に不満が破裂するだけで都合の良い変化や奇跡が起こる訳でもなく毎日は川のように過ぎていく。
同じ者と同じ物に顔を合わせるだけの毎日に気付いても変哲のない時間は流れゆき、その一部分で部品なのは変わらない事実のはずだった。
預かり知らぬ所で膨れ上がり豹変して周りだけが慌ただしくなって願っていたはずの変化はストレスとなって蝕み苦痛を生む。
時の濁流に成す術を持たず揉まれて行き着いた新しい水域に惰性で馴れてしまうと、それは途端に面白みも感じない平凡な毎日に成り下がり逆戻りしてしまった錯覚に狂ってしまう。
寝起きする場所と雑音の色が新しくされただけなのだから。
何時、転校前の高校で友人……クラスメイト…………知り合いの誰かが優依に放った言葉が心の真ん中に居座り病魔のように今も悩ませる。
「竹って一緒にいても心が無いよな。
表面は楽しそうなんだけど本心から、そう思ってなさそうなのが透けて見えるって言うかさ。」
心外だった。
何気無い会話の中の1つ。
特に仲の良い友人ではなかったのも事実。
心を許した人物も作らなかった、居なかったが表面の関係性で不意の言葉と余りの事に何も言えないでいるとその人物は更に続けた。
お前ってチャシャ猫みたいだと。
その後は何事も無いように冗談を言って笑いながら誤魔化すように過ごしたが心の中では言い表せない感情が燻って暴れていた。
帰宅した部屋で〝チャシャ猫〟を検索した直後の一声目は太ってんじゃね~か!!
しかもシマシマの猫ってなんだよ!!!だった。
それからは一切の敬遠な態度も見せずに嘯くようにチャシャ猫染みた御巫山戯と道化で茶を濁している間柄の内に優依は修学旅行の人助けに端を発した一件で転校する事になり、それまでの交遊関係との接触を禁じられるのだが、そもそもの関係性も相まって会ってはいない。
自分が何処の誰で産まれた意味に悩む振りをして何者かを演じている間だけ生キズから背を向けれたから‥‥‥‥‥柄にもなく頭を使っては放棄する。
そのクセ、心の底から喉から手が出る程に欲っしている物は見つからず、それが何かも分からない。
長々と言い訳を並べ立てても何と無くでダラダラと生きてきた…………生きていく。
展望もなければ夢も思い付かない。
この先も、そんな人生を送るのだろうか……。
嫌な事を思い出してしまい普段にも況して気だるげな気分で迎えた午後、制服に着替えて規定の物とは違うパーカーを中に羽織る。
授業は始まっても青空を見ても気は晴れない。
そんな憂鬱な心情の事だった。
激しい光に包まれて優依達、2-Aのクラスメイトは異世界の【空中移動大天国家・通称空都アルタータイル】に召喚されたと教えられる。
だが異世界に来た事で空気中にある魔力に身体と特異能力が不具合を起こし活性化現象が優依を襲う。
己の特異能力が胎動するように呼応して少しでも気を取られれば暴走し兼ねないプレッシャーに歯を食い縛りながら能力を抑えようとして優依は不意に苦笑して今朝までの歪で平和な日常から懐かしき戦場の気配に戻ってきた追認が覚醒させる。
能力のコントロールの指揮権を取り戻そう再度、踏ん張り口角を上げて現在の心情を表す。
あと少しで怠けきった調子と感覚を取り戻して掴めると確信した瞬間に心臓が強く脈打ち息がし辛くなり四つん這いに倒れ込む。
視界が眩み時間が遅くなり、一方で加速しているような早送りと巻き返しが同時に行われて狂った風景に曝される。
まるで現在と過去に未来が同時に混在して再生ボタンを押しているような光景に目は回っていないはずなのに平衡感覚は風邪を引いた時のように正しくないと立ち上がられるの拒絶する。
だが謎のこの空間で他とは違い優依と同じように色のハッキリした暗殺者らしき格好の怪しい人物を人垣の先に捉える。
クラスメイトに瞬時に逃げるように今も尚、苦しい胸を押さえながら話し掛けるが聞こえていないのか見えていない反応をされてしまう。
急いで見上げるも先程の場所に暗殺者は居なかった。
嫌な予感がして後ろを振り返ってみれば予想は的中して黒ずくめの暗殺者が至近距離にいた。
マントで顔は確認出来ないが次の瞬間に蹴りを諸に食らってしまう。
咄嗟にガードしたが異常な威力に飛ばされて痛さよりも、その落ちる行き先に焦る。
『ヤバい、生徒達に当かる。
え?
あ?通り抜けた??』
優依はクラスメイト等の兵士を透明人間のように空り抜けて床に身体から着地して受け身を取って転がるが動揺が隠せないでいた。
「現実か…………。」
その言葉は落胆か驚愕なのか本人にさえ分からない。
すり抜けてしまい気付いても貰えない。声も聞こえない。
そんな時、自身の耳から聞き馴染みのある少女の声がする気がした。
◇◇◇◇◇
「貴方、何してるの?」
目映い光が教室全体を照らした刹那に別の場所に転送された事実に【茜 志帆】は国際問題に成りつつある大犯罪者組織の特異能力の半グレ集団関連の仕業と思ったが違うと上司に連絡しようとして近くにいた同僚の【竹神楽 優依】の体表面に見た事のない色の電撃が帯電した後にスッと消えた場面を目撃して連絡先のチャンネルを優依に変える。
しかしノイズとは形容できない程に奇怪しい異変として通信を薄く遅く伸ばしたように聞こえてくる優依の吐息や誰かとの戦闘しているだろう音声も遠くからしているように聞き取り辛い物になって何度と応答しても返事は返ってこない。
それでも周りの様子は王の説明と一変していく状況に志帆は焦りを顔に出さないように気をつける事ぐらいしか出来ない現状に悔しさが込み上げていた。
◇◇◇◇◇
優依は蹴り飛ばさて困惑の渦中ながらも暗殺者の男が止めをするでも無く逃げ始めた事で中途半端に暗い狭い石造りの通路を駆けていた。
追い掛けながら視界に入った腕を見て先程の攻撃を防いだ箇所が硬い何かに殴打されたように腫れて流血している事に遅れて気づく。
アドレナリンのせいで気がつかなかったにしては違和感を感じたが暗殺者が角を曲がった事で思考は中断される。
そのため負傷部が異様な速さで回復している事を見逃してしまう。
装飾品や造りから西洋の城だと今更に納得していると床に隠し蓋があり降りて行くのを見て優依は唾を呑んでから急いで蓋に手を触れる。
その先は狭い通風路になっていた。
這うようにして暗殺者が立てる音のする方へ進むも、まるでわざと優依を誘うように遅い歩みを追跡して辿り着いたのは地下の配管と遺跡が混じった洞窟のような場所だった。
天井の空気穴から小さい日射しが埃を照らしている。
待っていたように動かない暗殺者はゆっくりと振り返ると今度は素早く動くと優依に襲い掛かってきた。
「うわっ!?
ビビったろうが!!」
先程から微かに聞こえていた少女の声が、いきなり大音量で鼓膜に響き優依が驚きの声をあげる。
《《優依くん!!!
返事をしなさい!!!》》
優依が突然に声を張り上げた事で暗殺者の動作に警戒が乗る。
暗殺者のミスに戦闘の感覚が戻りつつあった優依は反射的に殴り掛かる。
しかし腹部を殴ったにも関わらず優依の表情は曇る。
素手は鉄板を殴った感触と怪我で後ろに飛び退いたからだ。
「てッーー。」
拳に息を吹き掛けながら片方の腕でズボン後方にあるベルト部分の小型ポーチに手を掛けようと伸ばすも一瞬の躊躇に志帆の声で鉄の槍の存在に気づけたファインプレーに心中で感謝しながら避ける。
《《聞こえているのなら状況報告してほしいのだけど?》》
《《学校じゃ話さないでくれるかしら~、じゃなかったのかよ。
うおっ!?
クっ………んで何で、そんなに怒ってんの》》
異世界の物質に触るのを忌避していたが優依は鉄の針を抜き取って捨てると走る。
《《それは……!?
どうしたの大丈夫?》》
《《あぁ?
全然、大丈夫‥‥だ。
すこし伸びる鉄に追われてるだけ、だらぁ!》》
《《全然大丈夫じゃないじゃない!
もしかして、やっぱり特異はコントロール出来ていないのね?》》
《《ああ。
学園に居た頃より最悪だ。
こんな事なら局長の、ゆうこと訊いとくんだったな。
うぅ?
ぐはぁ!!》》
左肩を獣爪の形をした鉄槍に貫かれ建設途中の機材・木材に吹き飛ばされ撒き散らしながら倒れる。
《《っ!?
早く現状報告をしなさい。
敵対人数は?
現在位置に負傷箇所の、もう又ノイズが!
早く、教えなさい!!》》
優依は手元近くに合った鉄のパイプを掴むと木箱やアルミ缶(らしき物)を投げながら立ち上がる。
「ぅう、ぐあ。
地下だ。
城から多分、南の方?に結構進んだ。
‥‥‥‥‥来いよ悪党、俺はここだぜ?」
暗殺者は木箱は壊しアルミ缶は避けたり受け止めていていた、その間に優依は走りドロップキックを牽制に繰り出すとその場から離れる。
《《その決め台詞、相変わらず好きなのね。
分かったわ。
急行するから持ち堪えなさい》》
志帆の無茶振りに笑いながら答えると無理をして鉄パイプを掴んでいる右腕に能力を発動させようとする。
そこに暗殺者が優依の発動に手間取っている隙を突いて接近攻撃を仕掛けてくる。
ナイフを取り出され至近距離で何とか避けるが敵意や殺意が無い事に優依は躱すのが遅れて掠り傷を増やして逃げ惑う一方だった。
暗殺者は取り出した鉄の塊やアルミ缶から自在に伸びる爪槍や床や壁に触れて鉄の触手を作り出すと間髪入れずに攻撃の手は辞めず優依の体力を削り回復をされない気のようだ。
「はぁ、懐に入っちまえば、はぁ……此方のモン…だ。」
迫り来る鉄触手を鉄パイプで往なして暗殺者の首根っこを掴むと鉄爪の攻撃を無視して逃がさないように鉄パイプを持った拳で殴る。
優依は近くに、ある物を目線で見つけると殴打を続けようとして逆に腹を殴られてしまう。
見ればナイフで無い安心感を起こす前に、まるで何トンもあるロボットに殴られたかのように重く強烈な一撃に一瞬、気を失いそうだった。
口の中に広がる血味を吐いて蹌踉けるのを意地でも踏ん張ると優依は右腕の裾が気になってしまう。
これは彼の難儀な癖で上着の下の服が上着と噛み合っていないのか着る際に外れるのか変な嫌な感じを催してしまい上着からインナーがハミ出して着心地的にも精神衛生上的にもイラッとしてしまい1度気が付くと集中力さえ掻いてしまうのだ。
それを感じて場違いにも思い出して片手で、やんわり振って直す素振りすると再度、殴ろうとして鉄パイプを片手で受け止められ握られた先から敵の力に侵食されている事に気付き先程見つけた足下の直ぐに転がっているドクロマークの小樽を蹴り上げて中身に液体が有るのを感触で確かめると、一か八かの賭けで殴り付けながら腕に電撃を帯電せる。
発動に成功した電撃に暗殺者は優依が何をするのか察知、優依から離れようとするが優依は頭突きで抵抗を黙らせている間に2人は大爆発に捲き込まれるのだった。
しかし二次被害が発生する。
当たり所か、もしくは戦闘場所自体が悪かったのか貯水槽の付近で起きた爆発は洪水を起こし優依達を、いとも容易く押し流していた。
◆◆◆◆◆
「我は神の仔なるぞ!!
このような不当な扱いは我等が神の怒りに触れても知らんぞ!
即刻愚かな行為を止め、偽った咎人として 下るッーーー!?
うぎゃあーーーーー!!!」
男子生徒の1人が開いた掌を少し閉じるようにすると国王マハー・シュペーゼ他、大臣達は苦しみ出す、マハーは耐え兼ねる事もなく即座に音を上げる。
「黙れ、虫酸が立る。
関係の無い私語は口にするな。」
竹刀をタイルに叩き付けて冷酷に告げると、その女子生徒は咳払いをして国王の喉元に竹刀を突きつけた。
「分かった、分かったから止めてくれ!
止めてくれーーーーー!!!
答えるっ答えるからーーー!!」
息も絶え絶えに荒く呼吸を繰り返すと、ゆっくり生徒等を見渡して媚び乞うも、その女子生徒を始め誰にも効果は皆無で王は諦めたように白状した。
「半年前程だったか御身から啓示が、このワシに降りたのだ。
城の奥底に眠らされし儀式の記された魔導書を目覚めされたと。
それを使って御告げの通りに各国から古代魔導使師を呼び、やっと成功して無敵の傀儡を確保たはずだったと言、ぐわぁっ??」
「止せ!
止めるんだ長ヶ三千くん!!」
安堂と【長ヶ三千 十燐】が数秒睨み合うが十燐が折れて特異能力の威力を弱める。
「チッ………でも英雄、ここでコイツは殺しておいた方が確実に俺達の為になるんだぞ?
そのチャンスを棒に振るのか。
何躊躇ってるんだ?
‥‥‥‥もう、その自己嫌悪するターンは納得したはずだろ?」
安堂 英雄と十燐にしか分からない言葉の中で殺しを避けようとしている自分を自覚するも後戻りは出来なかった。
「ぅ‥‥‥それでも殺してしまうより、この世界に疎い僕達には情報が必要だろ?
だったら生かしておいた方が利益になるはずだ、違うかな。」
安堂達の会話から自分の後始末なの理解すると顔を引き攣らせて口を挟もうとするが十燐が掌を軽く閉じると白眼を剥き泡を噴いて気絶する。
「今はそれでいいだろう。
こんな事に時間を割いている場合じゃあない。
帰るにしろ、帰れないしろ……………だ。
俺は好きにさせてもらうぞ、安堂。」
1人の言葉を皮切りに皆の自覚と行動方針が伝播する空気が形成していく。
「まっ、待ってくれ!
ここはクラスメート全員で固まって協力して!!」
「イインチョーさ、もう学校じゃないんだからイインチョー面しなんくてもいいんだよ?」
その後に小声で何時までもリーダー面してんじゃねーよと心底酷く暗い声が聞こえて安堂の動きが止まる。
その時だった城の部屋を揺らす程の爆発音がしたのは。
少し遅れて報告に来た近衛兵に連れられて安堂達は現場に急行する流れになってしまうが安堂は何も言えず下を向いて不安に晴れてはいなかった。
その最後尾に茜 志帆は、しれっと合流すると近衛兵を上手く誘導できたと次の作戦結構を開始していた。
◇◇◇◇◇
水流から頭を出した優依は空気を吸ってから連絡を取るために浮くように体勢を維持する。
「もしもし茜さ、っ!
間違えた志帆~」
志帆の声が通信通りに聞こえて優依周囲を確認して時空の歪んだ空間から脱したのだと理解する。
《《今、急いで貴方の方に全員で向かっているから、もう少しだけ持ち堪えなさい。》》
「はぁ?
全員ってクラスメイトかよ?
こんなカッコ悪りぃ所、見せられっかよ!」
《《それこそ今更でしょ?
授業で散々晒してるじゃない》》
《《うるせぇ~》》
《《死ぬことは許さないから》》
《はっ!》
笑いながら答えていると水流の勢いが弱まり水位が下がり足が着くようになる。
上履きはずぶ濡れで嫌な感触に顔を歪ませながら浅瀬へと移動していると敵も同じように浅瀬を目指して反対方向に移動していた。
水を踏む音をバチャバチャとさせながら鉄パイプを持った手も広げて、わざと隙を見せると振り向いた暗殺者に飛び掛かって、二人転がると鉄パイプで殴るも避けられてしまう。
暗殺者はナイフを取り出すも鉄パイプの返し部分で引っ掻けて飛ばすと舌打ちが聞こえてきた。
すると又、取り出されたナイフは刀身が曲がり溶けたように伸びて優依に迫ってくる。
優依は紙一重で躱すも暗殺者の指輪や装飾品も刃のように伸びて優依は出血箇所と吐息だけが増していく。
志帆との会話から2分しか経っていないと言うのに優依は凌ぎ切るも劣勢へと追い込まれていた。
血繁吹きが緩やかな水に落ちて直ぐに離散しては見えなくなる。
顔だけは守った優依だったが数十の猛攻は深く身体に刺さった鉄の刃に前のめり、に前方に倒れてゆく。
勝ちを確信した暗殺者は矛を納めるようにナイフ他の鉄の形成する伸縮を戻す。
気絶した素振りをしていた優依は倒れていく勢いを利用して前傾姿勢で助走を付け足した飛び回し蹴りをするが騙していたはず決まったと確信するも暗殺者には交わされてしまい、空中の無防備を突かれて水面に叩き落とされそうになる。
咄嗟に帯電発動を以前の頃の癖として無意識にしようとしている自分自身に出来ないと諦め掛けてていると、あっさりと発動していて暗殺者は悲鳴を上げて手を話す。
しかし遅かったのか優依は水面に叩き浸けられてしまう。
強烈な衝撃に体中が反響して常人異常の握力に圧巻させると場違いな感想と肺の空気が口から漏れる。
耳元には何かが皹割れて崩れていく音声が過ぎ去ったと同時に落下している吸い込まれている体感に襲われる。
足場が増え続ける水量に負けてか、優依の電撃が水を伝い何処かを破壊したからなのか、暗殺者は鉄と錯覚する程の重量から繰り出された一撃が要因なのか。
割れて穴が空いたのだと分かった時には瓦礫と大量の水に押し混まれるようにして空中に放たれて大気に身動きが上手く取れず水を吸った衣服に寒さを覚える程だった。
◇
何も無いのに伸ばした手は空を切る現状に少し離れた所にいる気絶しているらしき暗殺者を捉えて苦笑いが込み上げる。
すっかり軽い瓦礫や人しか残ってない空の上で血だらけの身を強風に煽られながら優依は細くした瞳をカッと見開くと筋肉に力を入めて自身の帯電出力を徐々に強めていく。
遺跡で水に流された先での戦闘で特異能の発動に異常なく成功していた事もあってか躊躇する事なく行えた帯電は荒く凄まじく、それでいて命の伊吹の如く眩しさと瑞々しいように力強さを体現していた。
この世界に来てからの能力の違和感と、感じた直感に従って優依は限界まで質量を上げていく。
優依の特異能は通常に於いて体外には放出不可能であり、それは学園に居た時分から変わっていない。
しかしそれは例外を除いた検証成功案に限定されている。
焦げた臭いがしてきた頃、優依は能力の鎖を解き放てる本能に全身を傾ける。
魔力という未知の物質に完全に適応・熟知を完了させた超能力と器官は特異能の全てを優依に預ける。
優依の周囲に青い発光現象が発生していく。
遥か上空には雷雲が立ち込めて天気を変化される。
黒色の雨雲はグツグツと怒ってバリバリと音を響かせては世界に吼えているかのようだ。
空都アルタータイルからは中間圏で超高層雷放電が目視され初めての事に、ざわめき立つ。
超高層蒼色彩雷放源と呼ばれる優依、独自の能力発現象だ。黒雲と雷を作り・呼び醒まし雷放電に付随して発光する。
発光現象だが未だ嘗てない程の規模と威力なのは素人が見ても分かるだろう。
1つの稲妻が目映い閃光と共に優依に直撃する。
遅れてきた音を置き去りにして優依から花火のように弾けた数個の電光は小さな小さな雷落として七色の光を地上が降り注ぐ。
神鳴りと見間違う程の型現と轟音の最中にいて優依は “ふまり” っと優しく草原に着陸上していた。