#15ノ巻
1回目
デルタ大陸の最北部近くに位置する海沿いにあるソネアトーン・ネルカン交易都市へ近づいて来た頃、優依達はモンスターに襲われていた仔馬を助けた。
その飼い主だと名乗る男に商隊に案内すると言われ食事を御礼として、ご馳走になり案内されていた。
「これ凄いわね!
歩きながら食べれるアイスなんて。」
「えぇ、今街で流行りの自慢の逸品なんですよ。」
「カップに入ったアイスクリームなんて凄い発想ね!
この小さいピンク色のスプーンも可愛いくて食べやすいわ。
ね、ユウイ!」
「ん?
ああ、そうだな。」
「黙りこくっちゃって人見知り?
お腹痛いの?
まぁいいわ。
あっ、こっちは少し溶けてる感じでフワフワとろ~りなのに、反対の方はまだシャリシャリって、してて食感も楽しめるなんて発見ばっかりね!
村の皆にも教えてあげましょ♪
そうだ!
このバニラは何の動物の、お乳なのかしら?」
「えぇ~そうですね。
馬ですよ。」
「へぇ~、そうなのね。
馬で、この味がねぇ~やっぱ都会は違うわね。」
「ささ、こちらです。
もうすぐですよ、ラウザさん・ユウイさん。」
「あぁ、そうだな。
やっぱ‥‥‥止まれ………。」
「へっ?
なんですか?」
「ラウザ、動くな。」
「はぁ?
いきなり何よ?
やっぱお腹痛い痛い、なら待っててあげるから茂みとかで。
あぁ違うの?
じゃあ何、怒ってんの?」
静かにドスの効いた声でラウザに向けてでは無い言葉とラウザより前に出た行動を取る優依に素直に疑問をクチにしていた。
「スタンガンっ!」
ラウザの言葉に男が瞬時に動こうとしたのを優依は見逃さなかった。
男よりも先に攻撃を仕掛け気絶させる。
「く…そ!?」
バタリっと倒れた男の懐を調べ始める優依にラウザの行動に付いて行けていなかった。
「何なの!?」
「多分コイツ、本当の商隊っての襲った犯罪者なんだよ。
ほらな?」
男の持ち物のナイフや拳銃を複数見せながら優依は続ける。
「商人ってのは、こんなに人を害する物を持ち歩くのかよ?」
「はぁ?
え?
えーーーー!?
確かにね。
でも、どうゆうことよ??」
「こいつは蛾を倒した途端に現れたろ?
んで服装も、よく見れば真新しい。
髪も、それっぽく整えられてはいるけど雑だ。
それに後ろから見たら粗く着たのが丸見えだったしな。
あと普通に臭い。」
「ほんとだ。」
「それに抱え方が慣れた様子じゃなかったし馬も眠ってる振りして怖がってたろ。」
「そうなの!?
気付かなかった、って凄い懐かれ方してるわね。」
「あっおい、くすぐってぇ~だろ。
‥‥‥あぁ。助けたからじゃないか?
おい!?
おら、ほら行くぞ!」
リードを引きながら早走りな優依は話を再開される。
それに追い付きながらラウザもなんと無しに走るが魔法で縛った男は引き摺られていた。
「だから本当の商隊がヤバいだろ?
急ぐぞ!!」
「そっ、そうね!
でも私まだ分かんないんだけど、それでよく、この男が悪者だって気付くモノなの?」
「いや、最初はソイツの発する雰囲気とか圧し殺したような殺気だな。
‥‥‥‥駄目押しにアイスの説明が、かなり雑ってか、テキトーだったろ。」
「えぇーーー!?
そう?
そうなの!!
全然信じてた、アレ嘘だったんだ。
蹴っとこ。
美味しかったのに。」
「いや変な物、入ってなかったし商隊から奪った物なんだろ。
だから聞きたい事あんなら商隊の人に聞けよ」
「あぁ、そうよね分かってた。
うん。村の特産になるかもだし!
やっぱ牛かしら?
でも、う~ん……………ヤギ?」
あの時、優依は確かに商人の馬係りを自称する男を怪しんでいた。
しかし同時に、もう1つの事が頭に浮かび考えていた事も確かだった。
それがどうであれ優依にその事を今、知る術は無く、優依は心の内へ留めるに終わった。
森から街道に戻ってから走って少しすると毛の無いようなオオカミの顔に人のような胴体と馬の蹄の足で二足歩行のモンスターに囲まれて必死に逃げようと隙を伺うように戦っている盗賊と竜車・馬車に身を隠す商人達が見えて優依は仔馬を優しく投げてラウザに渡すと走る速度を上げてると不意にラウザの視界から消えていた。
宙を足場に駆けると野獣モンスターの群れの真ん中に降り立ち、颯爽と立ち上がる優依を盗賊と商人達は目撃する。
次の瞬間にはモンスターのデカイ首裏でナイフで首をカッ切り、着地すると別のモンスターを相手取る姿が見えて他の者は何も出来ないでいた。
野獣モンスターも敵を優依に切り替えると残りの全てが優依に向かっていた。
逃げ出そうとする盗賊達に、駆け付けたラウザは先程捕まえて拘束していた男を投げ飛ばして慌てているトコロに拘束魔法を掛けて胸を張ると威張り散らす。
「ラウザ様、参上よ!」
ラウザは、その後に商人等に私達は味方だからと話し掛けると優依に声援を送ってはチラチラと商人にアイスの事を聞こうかどうかを窺っていた。
最後の1匹は左腕を斬り落とし、顔を切り付けるも正面だったために上手く決まらず電圧を上げたスタンガンで黒焦げにするとドスンっと音を立てて倒して事なきに終了した。
しかし拘束されていた盗賊の1人が魔法抵抗のスキルで抗い何とかラウザの足に触り魔力を離散、妨害すると拘束の魔法陣が砕けてしまった。
モンスターを残らず倒して馬車に歩いて来ていた優依はラウザと目を合わせると怒る事なく、ラウザの前に出ると待ってろと、一言だけ声を掛けた。
「今の俺は本調子だからな。
逃げ切れると思うなよ。
まっ、見てろ。
ホっ、よっと!」
言いながら前に歩き出した優依は小さい動きで剣を躱すと腕の甲や肘、膝で追撃を加えて相手のバランスを崩し、そこに止めを忘れない。
遅く小さい動きからは見違える洗練されていて慣れた手付きで確実に盗賊団を追い詰めてゆく。
異にも反さず者ともしないと言わんばかりに誇示しているかのように容易に前へ前へと進みなが殴り、蹴散らしては盗賊団が広がる事も出来ず倒れる数を増やしていく。
「はッ。
おら、どした?
ホラよ!」
フェイントや瞬時に敵の裏に移動して昏倒させる。
時には、わざと大振りに避けると相手の腕を掴んで離して放り投げる。
激昂したパンチを片手で握り受け止めると腹部に衝動(掌底)を、お見舞いする。
「これは痛いぞ。
白雷・下打っ!」
技名を口にして恥ずかしさから隙を作ってしまったと反省しながら優依は次の相手に反撃されなかった事で拍子抜けさを感じながらヌルっと体勢を直しながら睨むと攻撃の手を止めなかった。
ターンするように、一回転してその遠心力の運動能力を利用して蹴り飛ばす。
この異世界に召喚された直後からの連続しての心休まる事の無かった戦闘は本人の動揺を体現するように平穏、そして冷静さを如実に欠かせて野生感だけで乗り気らせ優依を危険の中で藻掻きながら通常の状態から掛け離れたままで連戦を強いられていた。
しかし心の余裕と心身共に適度な緊張感の上で生きている事を思い出し、ンの村で勘を取り戻すための狩り、自己確認の鍛練を終わらせた現在の優依は通常の戦闘スタイルの独自と確立を取り戻していた。
特訓や修行・稽古、トレーニングと言うと格好悪いから違うと言ったりイヤだろ?と跳ね除けては基礎確認や反復確認・実施鍛練っと言っては裏庭や狩りに同行しては嘯く優依にラウザはガキねと愚痴きながら付け加える。
今の彼に敵う相手は居ない。
1人として逃がさない気迫と背中を見せたら殺されると思わせるような狂気に似たオーラに盗賊は間違えた相手を敵にしてしまったと後悔しながらも、その事を誰としてクチに出来ないでいた。
ヤケクソ気味に襲い掛かる盗賊達を瞬く間に1人2人3人と倒しては犠牲者させては次の標的をと増やしていく。
観念した複数人に囲まれるも橫蹴りで陣形を崩すと軽く跳ねて殴り倒すとバッグからウィザードを名乗る暗殺者に鉄のコーティングを施され重たくなった鉄パイプを取り出すと警棒の要領で倒していると制圧は物の数分で完了していた。
総勢32人に優依は圧勝を魅せるのだった。
圧巻と静寂が訪れ風の音だけが過ぎ去ってラウザや商人達は、あまりの事に声を発するのを忘れていたという。
◇◇◇◇◇
商人達と、すっかり打ち解けたラウザも助けになり商人達と、一緒になって気絶していたり関節を折られ痛みで動けない者達を荷馬車に詰めているとリーダー格の男に優依は静かに近付くと頭の左右の地面に足を置き見下ろして告げていた。
「寝た振りやめろ。
それとも死んだ真似か?」
「確かにソイツが指示出してたけど、ホントに幹部とかなの?」
ラウザの疑問に優依は指を差しながら言う。
「装備がコイツだけ豪華だろ。
それにビールっ腹って言うの?
贅沢してる証拠だ。」
「なっ!?
なるほどね、ユウイって天才だったのね!!」
『なんか逆にバカにされた気分だ』
「おい!
そろそろ起きろ。」
左手にパチパチと鳴らすと汗を滝のように掻きながら起きた盗賊団のパセロは何でも答えると擬古ちない笑顔で震えていた。
「最初の奴は俺達を基地に案内しようしてたんだろうな。」
「伸びてるコイツね?
確かに結構歩かされたものね!
顔見たらムカムカしてきたわね。」
「場所教えろ。
そこにまだ残りの仲間が待機してるだろ。」
「よっ、よろこんで!
して何をするんで?」
「あぁ?
壊滅させんだよ。」
「わぁ~頼もしぃ♪
カッコいいわよ、ユウイ!」
「お連れの方、よいので?」
「うん?
大丈夫よ!
いってらっしゃい!
それより聞きたい大事──」
「ピンキー!!
無事だったのね。」
その女性の声にラウザの橫にいた仔馬は喜んで駆けていく。
「ゴメンね、ゴメンね。」
親と思われる馬と女性が寄り添い撫でている様子にラウザは商隊の主人に後でと言うと彼女達に、ゆっくりと近付いた。
「良かった、貴女が本当の飼い主さんね?」
「えぇ、助けて頂いてありがとうございます。
マーメイドテイル商会の専属護衛冒険者、角馬の純碧乙女騎士のネリピアです。」
そこでラウザは気づく。
親の馬と思われる、その馬の姿が額に角を輝かせるユニコーンだという事に。
「ユニコーンの赤ちゃんだったのね」
「この旅で産まれたので、まだも生えていませんしね、専門でもなければ分かりませんよ」
「ハハハハー。」
『うちの村にもユニコーン居るのよね。
分かんなかったって事はユウイには黙ってましょ!』
苦笑いを隠しきれず誤魔化せているか微妙なラウザを尻目に優依が帰って来た。
壊滅宣言から1時間程経っての事だった。
「悪いがアジトいる連中も殺してない。
連れてくるのを手伝ってくれ。」
優依の声にネリピアの仲間の1人が、この商隊の主で有り、彼女等の雇い主でも有るクリリームンに恐る恐る了承を取ろうとしていた。
「クリリームンさん、彼を手伝ってよいだろうか。
専属護衛を失敗した挽回では無いが少しでもクリリームンさん達に貢献したい。」
「ワタシは怒っていませんよ。
今回は不運が続いた。
貴女達の要のユニコーンが出産した事で必殺の陣形に数が足りなくなった所に盗賊、更にはビースホォンスの群れに襲撃されるなんて誰が予想出来ますか。
引き続き今後も専属を、お願いしますよマルアリカさん。」
「それさえも予想するのが冒険者の専属の務め!!
いえ、分かっています。
お気持ちに応えされていただきます。
‥‥‥‥‥クリリームンさん、かたじけない!
私と4人はユウイさんに付いていく。
残りは此処に残り護衛と周囲の注意を忘れるな!!」
「ワタシ達からも男手を貸しましょう。
ユウイ様には何から何まで御礼を返し切れませんな!」
捕まえた盗賊団は総勢で100人を越える大組織で、この辺りを最近騒がせていて近々討伐隊が組まれるなんて噂も出ていたらしく優依の大柄だと商隊の店主クリリームンに言われ照れる優依がいた。
数が数だけに盗賊団は商隊から数人・ブルーナイツから数人残して連絡済みの憲兵を待ち、あと2日もすれば辿り着くソネアトーンへと出発する手筈だったのだが予想外に大所帯に手間取ってしまい夜が顔を見せ始めていた事もあって残る手筈の者達と、一緒に今夜は夜営をする事に落ち着いた。
なによりラウザが諸手を上げたのは盗賊団の懸賞金と彼等が溜め込んだ財宝や、今回討伐したモンスター・ビースホォンスの素材がラウザ(優依)の者になると言う事だった。
また盗賊団達が拐っていた女性達や男性に希少な動物達を保護した事を知る。
助けるのが遅ければ彼女ら彼らは奴隷として売られていただろうと聞かされ、そして慰め者にされていた事を知ったラウザは誘拐された人達に自分が少しでも出来る事は無いかと治癒魔法や聖属性魔法を夜通し行使していた。
気持ちが分かる・助かって良かった、などとは決してクチには出来ない心境を察せてしまえて。
悔しい気持ちが込み上げて来て、甦ってきて、この世界の不条理に。
ラウザは何時もの勝ち気な自分が虚像だと思い出せてしまって二の足が出ないでいた。
善人を装い、紙をも恐れない悪行を仕出かそうと潜伏するように何年も苦しめては計画してはラウザ達を物のように扱ったフリーモンデ。
悪人は更に悪人へ己の欲望へと進む落ちる盗賊団。
無関係な平和に過ごす善人に急に割り込むように現れて危害を。
罪を犯しては悪ぶれもしない悪者に怒りを感じて何も出来ない、出来なかった過去の自分に今の自分に涙が溢れてしまう。
自分には何が出来るのだろうか?
襲撃され拐われた彼女等に痛い所は無いかと何か回復魔法は必要だろうかと治療を最後の1人まで続けているラウザの、その背中は弱さを、自分の意思は………克服、訣別……したのだろうか。
それを馬車の外で何も言わず待っている優依の姿があった。
安心からなのか夜に木霊する泣き声が彼女達のモノなのかラウザのモノなのか詮索しようとする者は、商隊にもブルーナイツにも、そこには居なかった。