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10/22

#7 生命の尊さとは?(Be angry)その五,の巻・完

長いですので御注意下さい。


2024年4/7に記述の追加をしました。

以下、駐屯兵の体調の名前。

優依の包帯の状態。

そのため設定集の方の登場人物に追加を、このあと行います。

 黄瓢(きん)(じだい)

(ぶゆう)()天直(あまつか)1236年

(又は“伐”の字とも書く、読みは同じ)

史上初の大陸君臨(せいけん)を成したディアン=オーベロン=デルタがベネディエッタ・グリューン・コクーンの乱逆に合い朱菫蝶(あか)(ふぶ)()統道(とういつ)からツェアー=ルーンの君権する時代に代わりして早数年のデ・ルタルアバ大陸(の地)、エンドの村。

燃え盛る家屋と逃げ惑う村人達の中、反対方向に走ろうとする男がいた。


「キアチ!?

嫌、行かないで、1人にしないでーーー!!」


「もう1人じゃないだろ。

逃げろ、そして元気な子を産んでくれ。

名前は、もう決めてあるんだ。

ネイサ、長生きしてくれ‥‥‥よ☆彡」」


「逃がしはせんぞ。

〈ライト・エアー〉」

 場に悪目立(そぐわな)いシルクハット にスーツとマントの成金なのを誇示しているかのような豪華な小物をジャラジャラさせている人種の男は、これまた金色の杖から魔法を発動させて笑いながら闊歩する。


「ここから先には行かせない!

お前ら正気に戻れ!!

くそっ、俺が相手だ。

行けーーネイサーーーー!!

‥‥‥プラザとラウザだ。

希望と愛情って古い言葉で込められている、親子仲良く暮らせよ」


「くだらん。

試作品共掛かれ!!

‥‥‥‥うむ、人で造ったからなのか自壊が早いか。

お前達を捕まえた暁にはたっぷり実験してやるから光栄に思えよ。」

 若き獣人の戦士が試作品()の攻撃を往なし先へ行かせまいと汗を流しているのを何処吹く風で興味無さげに確認すると背の高い人種の男は感想を洩らす。

獣人の男は覚悟を決めた顔で妻を託すと魔法陣を発動させて前に走っていく。


狩人(イデン)隊長(アニキ)、ギア村長、産まれる子達とネイサを宜しくお願いします』

 (くるぶし)や足の筋を切られ歩けなくなっていたためイデン達に滑車で押されながら遠ざかる夫の姿を遮蔽物が邪魔するまで見詰め続けては名前を呼んでいた。


◇◇◇◇◇

 早朝、太陽が上り始める少し前の事、やっと優依は重い身体をプラザの元へと急いでいた。

何故か強化薬の使用制限時間が過ぎても身体は多少の不調を感じるだけで倒れるような事にはなっていなかったため初めて短期間の中で連続使用をした際の効果が相殺されたのかと納得すると足を引き摺るようにして洋館に辿り着いた。

室内に入った、そこには顔は赤くして腫らすラウザと茫然自失の村長達がプラザを囲んでいるのが見えて優依は膝を付く。

心の中は自責の念で溢れ返っていた。


『間に合わなかった。

死んだ、死んだのか?

‥‥プラザ………。』

 ホンの数時間まえに出会い、そしてお互いが、ぎこちないながらに会話を交わして笑って泣いた。

そのプラザが、もう亡くなっている。

その現実は絶望でしか無い。

肘も着いて自然と涙が出るモノだと思っていた優依は自分の薄情さ、に空笑いをすると立ち上がるとフリーモンデ、へと向かっていた。


「どこ行く気よ!!」

 レッドスライムを両手で抱えていたラウザは優依を見つけて追いかけて引き留める。


「プラザに別れの挨拶してあげてよ。

ユっ、アンタは友達だったんでしょ?」


「・・・・・・ 。

全部、ムダだった。

俺は余計な事、しただけだったんだ。

悪い、‥‥‥悪かった。」


「何言ってんのよ!

そんな訳、ないでしょ。

見てみぬフリだって出来たのに、そんのになるまで助けてくれた。

フリーモンデを、やっつけて私達を解放してくれた。

無駄なんかじゃないわよ!」


「あぁ‥‥‥ありがとな。」

 ラウザの手から優しくレッドスライムを持ち上げると優依は(ちから)()さげに洋館を出てトボトボと歩いていく。

心配になってラウザは優依の後を付いていった。


 気絶しているフリーモンデは村の道端に縄で縛り上げられて外飼いの犬のようにされていた。

マボスに付けられていた魔力を使用出来ないようにする枷も両手にカッチリと嵌められている。

今度は小屋に閉じ込めるのでは無く、数人が看守のように取り囲んで見張っていて優依とラウザが到着すると敬礼をしている者たちを他所に屋根で村の外の様子を窺って警備をしていたムサヴが近づいてくる。

暗い表情の優依は軽く会釈だけをするとベルトからナイフを取り出して通り過ぎて行く。

その行動に不審を抱きながらもラウザとムサヴは静観する。

優依はナイフを振り下ろし落とすように切り裂こうとしてナイフの刃がフリーモンデの皮膚に薄い傷を付けて止まっていた。


「なにしようとしてるの!?」

 ラウザの言葉は心の底からの驚愕の声だった。

一方、ムサヴは、一瞬は瞳を(まばた)かせるも止めには入らなかった。


(とど)めを刺さないと‥‥‥。

なのに‥‥‥‥やっぱ、‥‥命を奪うのは‥‥‥‥‥怖いんだ。

‥‥‥‥駄目だ、できない。」

 涙を流していないはずの優依の顔色は失意と苦渋で瞳を濡らし今にも溢れそうなのをギリギリで止めていた。


「コイツを許せない。

でも殺せない‥‥‥‥‥‥‥‥殺さない」

 憎い。

殺してこの感情に任せて、スッキリと言うには違う、暴れ狂う身に任せてしまいたい。

敵討ちと呼ばれる言葉に近い何かをして心を解放したい。

でもこれはプラザを思っての行動・行為なのだろうか。

守ると告げて。

安心しろと言ったはずなのに。

大事な場面で成し遂げられなかった。

死の間際さえ居られなかった。

間に合わずに死なせてしまった。

嘘とは違う、自身の(あなど)り、己を()いて(くや)やんで、それを許せなくて、その矛先をフリーモンデに向けているだけなのではないか?

そう結論付けると脳は違和感のある体を無意識に度外視して早速、行動に移していた。

実際に、あと少しでヤイバが届く所で理性とトラウマが優依を後ろから縛りクモの糸のように止めていた。


「なんで、何故だユウイ!?

私は、私達はコイツに命令されて、嫌なのに沢山の人を、 無根の無実の人も殺してきたんだぞ!

コイツにはフリーモンデには死ぬだけの理由がある!!」


「‥‥‥‥‥‥だからだ、ここで殺したらアンタらは、俺は戻って来れなくなるだろ?

フリーモンデと同じ、自分のためなら死さえ省みないバケモノになっちまう。

他人に誰かに獣人(人種)だの無能だの期待外れ、だのと何と言われようとだ。

同じ生き物だ、同じ心を持ってんだよ!

胸張って言わせたいだけ言わせとけ!!

無視だ無視!

だからコイツは憲兵だっけ?に突き出す。

あとは‥‥単純に俺の甘さだ」


「!?

‥‥‥‥‥‥‥そうか、そうだね、私らも人だった。

ありがとう、気付かせてくれて。

ありがとう、同じくように接してくれて」


「事実そうだろ?」

 憑き物が落ちたようにおどけて笑って見せた優依に辛そうに見守っていたラウザが安心するように声をかけようとすると優依は背中から倒れて意識を失っていた。

呼吸が浅く、脈拍も薄くなっている。

周りにいた者達に急遽運ばれて優依は治療を施されて何とか、一命を取り留める事になった。

彼が目覚めるのは、それから三日後のことだ。


◇◇◇◇◇

 優依が暴走したフリーモンデと洋館の前で対峙していた頃。

洋館には止血を終えたプラザがベッドに寝かされ村長ギアを始めとした住人やフリーモンデの部下として仕える獣人の元村人達が集まっていた。

ラウザはギアから魔力を分けて貰った分は回復魔法使い要員が到着するまでの間に応急措置で使い切ってしまい今はもう何も出来ずに見守ることしか出来ないでいた。

理由は人からの魔力譲渡は余程の緊急性が無ければ利用しない方が宜しい手法に他ならない。

理由は明解で魔力アレルギーの発症だ。

例え、同じ属性持ちだとしても避けるべきなのは同じであり、結果的には体が許容量や魔力酔い、過剰取り込みの摂取の失敗や発熱、炎症。

身体運動機能・認知機能・感情理性制御の低下に体調の不変や拒絶反応に過敏反応、視覚刺激、嗅覚刺激が要因で自律神経系失調の一過性の眩暈、吐き気症状等様々。

そして格段に著しく体力の消耗が激しくなってしまうからだ。

そのためラウザが再度、望むもギアは受け入れず、一度だけに留まったためラウザはプラザに必死に絶えず語り掛けていた。


 プラザは動かせなくなってしまった腕や冷たくなる体と薄らぐ意識よりも別の事を心配していた。

彼女の英雄、紛れもない勇者であり神に見えた優依の事に他ならない。

フリーモンデを倒して来ると直ぐに戻って来ると言った彼のことを。

優依の身を案じて()まなかった。


『ユ…ウイさん、……ユウ…イ…様……。』

 彼の出て行ったドアの方向を掠れる瞳で見詰めては力尽きたように目蓋を閉ざした。

彼女の根底、体の心や魂がある場所(器官)の奥底からプラザに語り掛ける声にプラザは口角を上げて笑顔のように笑った表情で痛みとは無縁な様子で幸せの中にあると錯覚してしまう程に眠るように、その小さく短い人生を終えた。


「ラウザ?」

 優依へと伸ばした手と逆の手を握っていたラウザはプラザの胸部から鮮やかに発光するナニカが現れて驚く。

周囲のギアやムサヴ達の皆はその現象に息を呑んで祈り佇む。

そのナニカにプラザのようなモノを感じて優しさと温かさの勢いのままラウザに吸い込まれるように入って来ると全てを理解すると倒れる。

倒れる事を知っていたかのようにラウザは床にぶつかること無く抱えられていた。


◇◇◇◇◇

『ごめん、なさい


いいや連れて行ってやるさ


望みはあるか


まだ彼‥‥と一緒‥‥に、もっと…………

ラウザ‥‥が、村の(みんな)が心配‥‥です


万事任せよ


ありがと、ございます』


 金切り声を上げる家族の妹が見えて彼女は辛そうに、そして申し訳ない気持ちになり上に伸ばす手は届かず雫を(こぼ)すだけ。

次の瞬間、ラウザと1つになるように手と手が重なり交差すると満足して笑顔を溢していた。


◇◇◇◇◇

 フリーモンデの呪縛から解き放たれて三日後の朝、屋根の上の風見鶏の風向計がカラカラと風に吹かれ回る。

村を囲う柵とは別の家用の丸太の柵に足を預けたニワトリの獣人の7号こと、トビメは元気よく腹の底から目一杯に元気よく鳴くと朝を告げる。

今まで出来なかった自由と日課(習性)を取り戻すように。

日差しの温かさと窓から吹き抜ける風が皮膚(からだ)に触れて優依は目覚める。

そして現状は分からずとも確かな事を把握する。

それは──目が見れず耳が聞こえない ──からだった。

目蓋を開閉しても白く(くす)んだ視界とボンヤリとした物の輪廓(りんかく)だけが認識できる。

耳は動いた時の衣擦れのような音がノイズで遠くの方でしているような不思議な感覚。

ベッドで上体だけを起き上がり少ししていると聴覚が戻り聞こえてきて優依は正直、ホッとしていた。


『オーバードースだっけ?

やり過ぎたな。』

 優依は慌てていない訳ではない。

それを外に出さないだけで常人と同じように慌て恐れ、悲しむ。

それが他人に分からないようにしていないでも無く意図していなくとそういう性格なのだ。

只、優依は自分が下した自分の行動には後悔はしない。

後悔するのは彼が成し遂げられなかったために訪れる不幸だけだ。

自分がヒーローや神だとは思っていない。

しかし自分が関わってしまったがための出来事だけは彼が学園に編入する半年前の事柄から嫌に恐れるようになっているのも事実だ。

見えない右手に拳を作り握り締めていると、そこにラウザが、ひっそりと入って来る。

手には濡れたタオルと、お湯の入った水桶がある。

優依が倒れてから看病や体を拭いたりと世話をするのを、いち早く買って出たためだ。

優依は、この村のヒーローとして村中の女性陣、特にラウザと同年代や独り身等から男子の子供と人気となって折、ラウザは焦って優依の精神や安念のためにも1人で、この3日間をそれなりに過ごしていた。


「なにアンタ、起きたのね。」


「あぁ。

‥‥‥その声は、ラウ何とかだっけか。」


「何よ、偉そうに殴って来るとか言ってたクセに。

ありがとうって塩らしく言ってた割りには名前覚えて無いわけ?

この子も心配してたのよ。」

 そういってラウザからレッド・スライムの頭からベッドに飛び降りて、一鳴きすると優依に顔を擦りつけて甘える。


「おぉ‥‥スライム。」


「スライムって、‥‥‥‥この子に名前……付けて無かった(・・・・・・)わね。」


「ん、あぁ。

‥‥‥悪いな目ぇ、今見えてないんだ。」


「えっ、はぁ?

なにそれ、早く言いなさいよ!!」


「大きい声出すなよ、うるせぇな。

もう寝るから入ってくんなよ!」

 態度悪く手探りで布団を見つけると覆い被さってレッドスライムと、一緒に寝た振りをする。


「‥‥‥‥お前の名前、考えないとな」

 ラウザはその様子に心配と怒りから更に声を張り上げそうになるもフッと息を吐くと食べ物あとで持って来るわねと言うとドアを閉めるも、まだ内側に居るのを隠して、ゆっくり動くと椅子に腰掛けて優依を静かに眺めるのだった。

寝息が聞こえてきてレッド・スライムが顔を出してラウザの手に乗ると愚痴のように溢す。


「子供ね」

 言われてレッド・スライムは小首を傾げるようにプルンと体を揺らし動かした。


 それから更に3日後が過ぎた昼頃のンの村。

近隣にある、それでもかなり遠くにある交易の大型都市の駐屯兵がンの村に(くだん)後始末(あとしまつ)等で数日前から滞在していた兵士と交代要員とが挨拶を交わす。

フリーモンデはこの辺りでは、それなりに顔が広く各地の町に豪邸を持つ遣り手だったために彼が悪事を働いていた事実は直ぐに広がった。

あれからフリーモンデは連行されて今は王都に移送中で迅速な何者かの手が加えられているのが目に見えていたが兵士達は口を(つぐ)み自分の職務を全うしていた。

そこにツンケンな態度の少年と口喧嘩をしながら少女に肩を預けて鉄パイプを杖にする二人がやって来た。

よく見れば少年の顔には目や頭に布がグルグルに巻かれているのが分かる。


「‥‥‥呼ばれて来たんだが?」


「何でそう、偉そうに言うのよ!!」


「クフン。

と言う事は君が、この村を救ったユウイくんだね。

黒髪とは、納得だね。

クフン、待っていたよ。

いやいや、大丈夫だ。

信用出来ないのも分かる。

だが安心して欲しい、フリーモンデのような扱いをしないと約束するよ。」

 優依に応えたのは数日前から滞在している駐屯騎士の隊長ドイと言う男性だった。


「あぁ?」


「そこでキミに任せたい事があるんだ。

実は、この奴隷の村だって事が問題でね。

この国では三百年前から違法なんだよ。

そして奴隷紋の解除は我々では不可能でもあるんだ。

王都や魔術師ギルドの本部にでも行かないと専門家は居なくてね。

村長とも話したんだが又、彼等が悪用されないようにキミに彼等の主人になってくれないだろうか?」


「ッ!?

‥‥‥‥‥‥それで丸く収まるなら……。

なら俺、やりますよ。」


「その返事が聞けて、よかった。

上層部(うえ)には奴隷紋なんかについては報告してなくてね!

これで、この村も平和な日常が戻るだろう。

フリーモンデの持ち物に隷属を強要するための記述のある魔法(スキル)巻物(スクロール)を見つけてね。

幸いと言っては不謹慎だが発動出来そうなんだ。

‥‥でもやっぱりと言うべきか奴隷解除方法は載ってなくってね。

クフン、では準備があるか2時間後には我々が止まっている建物に来てくれ。」


「あぁ」

 小さく頷いてから優依はラウザと村長宅への歩き出す。

その道中、聞こえてくる声々は村人と騎士達が協力しての復興と復旧作業で賑やかでいて笑い声が響いていた。

それを耳にしながら優依は改めて決意を固めて何となく空を見上げて息を吸うと右肩を左手で触ってから歩く事を再開させる。


「ここから坂になるから気を付けなさい!」


◇◇◇◇◇

 優依が体を動かせる程度には体調が良好になり村長の家に訪れた事を自分の出来事のように喜ぶギアに歓迎され囲炉裏を囲んでの話し合いが始まっていた。


「奴隷契約の主って奴のこと、聞きました。」


「そうですか。

して、その様子なら納得頂けましたでしょうか?

ユウイさま。」


「‥‥‥‥一様は。

俺が責任を持って‥‥契約上は主になります。

でも他になんか無かったんですか?

いや、変な命令とかするつもりも無いんですけど、心ってか頭の(すみ)でプラザを守れなかった俺なんかで良いのか不安ってか。

‥‥‥村の人達に示しが着くって言うか無いって言うか。」


「何を言いますか。」


「そうよ!!

そんな事で悩んでたの?」


「そんな事ってな!?」


「来なさい!!」


「おい!

何だよ!!

危ねぇだろ!」


「……………フフ、元気になってよかった。」

 ラウザに手を引っ張られて案内されたのはプラザの墓だった。

村長宅の庭の横にある里を見下ろせる絶景の場所に歴代の巫女が見守るように眠っている墓かある。

その隣に新しく用意されたソレは十字に石を形作った白く、それでいて飾りの少ないながらに洗練されたデザインのお墓に優依がプラザに預けていた赤い上着が風に煽られて揺らいでいる。

プラザの墓だとラウザに告げられて、言われる前から何故か直感していた優依は見えない目で見詰めると優依は自然と涙を、一筋零して込み上げる感情を溢れされて泣いていた。

今の今まで圧し殺していた心が本心から気持ちを露にして踞り泣き腫らす。

そこに突風が下から押し寄せて優依の目元を覆っていた包帯が取れて地面の雑草に落ちる。

すると優依の視力が不思議と快復して戻るとプラザの墓石にプラザの姿が見えた気がして優依は立ち上がろうとしてラウザが手を貸そうとするのを手で遠慮すると1人立ち歩く。

幻のプラザに勇気を貰った気がした優依は前を見つめ、里を眺める。


「アンタ、目が!?」


「あぁ、治ったみたいだ………………。

なぁ村長、少し聞かせてくれ!」


「おやおやバレておりましたかな?

それで御聞きになりたい事とは何でございましょうか。」


「アンタは俺をプラザの恩人だって、初めて会った時言ったな?」


「えぇ、確かに。」


「でも俺は助けられたのは俺の方だと思ってる。

‥‥‥なんなら巻き込んで命の危険に晒したのが俺で悪いのは俺何じゃないかって気さえする。

‥‥‥それでもフリーモンデとの件は俺が勝手に割り込んで…………それでプラザを死なせたんだって事実は変わらない。」


「だからそんな事、無いって違うって言ってるでしょ!!!」


「いいや。

だから、それでも俺を恩人だって言うなら。

ケジメを着けさせてくれ、下さい。」

 静かに聞いていた村長は真剣に優依を見詰めて問う。


「ユウイ様………分かりました。

して、そのケジメとは?」


「騎士のオッサンが言ってたろ?

都会とかには解除出来る魔法使い?ってが居るって。

なら俺が見つけて連れて来るんだよ」


「まさか!?

しかしそれには、何処に居るかも分からない術者と、掛かる費用、旅路と、どれだけ何年掛かるか分からないのですよ?

そんな事を里を、村の、いえ私達の恩人に任せる事を出来ません!」


「俺がそうしたんだ、それが俺が此処に来た、する事って言うと奇怪(おか)しいけど。

目的を見つけて何かしてないと自暴自棄になるかもだろ?」


「何をいいますか!!」


「ギャグにしては笑えないわね」


「まぁ、だからつまり、俺にやらせてくれよ。」


「そうですか。

なら私から、もう何も言えますまい。

………………そうです!

でしならラウザをお供にどうですかな?」


「「はぁ!?」」

 優依とラウザの声が重なる。


「プラザ・ラウザの彼女達、2人は特別な存在なのです。」


「なら、尚更!!」


「ですからです。

里の巫女一族の末裔なのです。

そして、プラザは脈々と継ぐ御体(みしろ)でも合ったのです。」


「‥‥‥その秘密なら知ってる。」


「はてっまさか、あの御方に御会いになっていたのですかな?

それならば話しても差し支えは無いでしょう。

今、御代様はラウザへと渡り繋がり接がれ注がれました。」


「あぁ」


「ですからラウザに、この広い世界を見て欲しいのです。

それがプラザの夢でした。

それをユウイ様とラウザとで叶えて欲しいのです。

いかがでしょうか?」


「‥‥‥それを言われたら、分かった、分かったよ。」


「そうね、最初は驚いたけど。

いつか旅がしたいって!

自由になったらプラザと2人でお伽噺みたいな冒険の旅に出ようって(わたし)達、話してた夢を思い出したわ!

それにアンタだけだと迷子になりそうで心配だものね!

仕方ないわ、私が付いてってあげるわ!!」

 そう言い終わるとラウザは後ろを向いて隠れるように泣き出していた。


「おまっ、お前、分かったよ!!」

 呆れたように優依が了承していると村長宅の壁や地面に置かれていた道具を事前に村長が持っていた用で、何て事の無いように平坦に、あっさりと真実を口にする。


「それからラウザ、お前達プラザの2人には奴隷紋が無いのは知っているな。

だからお前の枷や首輪は何の効力もない只の鉄なんだよ。

もう取っても良いだろう。」


「はぁーーーーーーーーーーーーー!?

何よ、それ私聞いてないわよ!?」

 その大声に優依のフードに入っていたレッドスライムが元気よく飛び出して跳ねる。


「ピキュッ!

キュッイー!!」

 一件落着と言っているようだった。


◇◇◇◇◇

 村長の去ったプラザの墓の前。

掛けられている上着が靡いているのを見て、ラウザが悪戯する子供のような顔で優依に告げる。


「なによコレ、このダサイの?」


「はぁ?

俺の上着だろがぁ」


「知ってる!!

‥‥‥‥なんなら特製なんでしょ?

それで?

上着どうする気??

このまま、お墓の飾り付けに、しとく気?」

 言わんとしている事が分からず首を傾げているとラウザは続ける。


「駄目よ、かして。

私が使うから。

これからの旅には必要でしょ?」

 そう言ってラウザは墓に立て掛けられていた上着を取ると勢いよく羽織る。


「プラザもここで目印みたいにして雨風で朽ちちゃうよりも、一緒に連れてった方が喜ぶし、そう言うに決まってるわ。

………でも生まれてこの方、首輪や腕輪がずっと体に合ったってのに偽物だった、なんてヒドイわよね?

無いとシックリこないもの~

でもコレで気にせずに、お洒落できるのね!」


◇◇◇◇◇

 ンの村(旧)に優依とラウザが旅立った方向を眺められる小高い丘。

真新しい墓の前、村長のギアは優しい瞳を少し細くすると綻ばせる。


「ん、そうか


会えたか。


風になったのか?


そうなのか。


意外、でも無いか。


そうか、ついていくのか。


元気でな。プラザ、いやプラザ様。


お前も従者としての本来の務めを情けない私の代わりに果たしておくれよ。

マボス。」


「はっ、はい、父上!!」

 誰かと会話しているらしい父ギアに話を合わせてマボスは返事をする。

一陣の風が吹いて木葉を舞わせた後、ギアは独り言を溢す。


「君の娘たちは2人とも旅に出てしまったよ。

どうするんだい?

‥‥‥ん‥‥ネイサ。」

その言葉は風に乗って消えるだけで答えが帰ってくる事はない。

何処からか、地面(した)から鈴の音色が響いてギアはクスリっとさせる。


──わたしは、わたしの、自分の “務めを果たすのみ” です──


 ギアはその言葉が返ってくるのを知っていたかのように唇を噛み締め村長ギアとしてでは無く村の住人として不甲斐なさに行き所のない気持ちを巫女の墓に触れる事しか出来ない現実と情けなさに立ち尽くすしかなかった。

辺りは、もうすぐ夜の帳から朝日に変化しようとしている。

暁はまだ爛々と夜空に顔を見せたままだ。

穴の空いた月と双子のもう一つの小さい月を他所に太陽が燦々と頭を出そうとしている。

↓モンスタージョーカーの登場人物や用語を、まとめたモノです、一緒にどうぞ。

https://ncode.syosetu.com/n8419iu/

これにて《VSフリーモンデ篇の完結》です。

続きの新章開始まで、もう暫くお待ち下さい。

(サイトnoteにて開催されていたコンテストに作者本人が応募した作品になります。決して無断転載や盗作では御座いません。

両サイトnote、なろうで注意事項や連絡確認済みです。

https://note.com/4869_joker555/n/nc064a437bb93?sub_rt=share_pw

この作品はフィクションです。

実在の人物・団体・事件・災害・国家・歴史・時代とは一切関係がありません)

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