#0 異界の門(サーガ)は開く
この作品はnoteにて当作者が応募したコンテスト作品をなろう用に新しく内容をブラッシュアップして掲載している物になります。
そのため盗作や無断転載では有りません。
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浅暗い地下遺跡は人工的に矢継ぎ早に突貫の補強工事が行われた跡が見て取れた。
出鱈目で継ぎ接ぎだらけなだけに下手の目立つ仕事ぶりは破壊するのも容易いだろう。
空気穴が有ったがそれを関係無いと言わんばかりに激しい戦闘で、ぽっかりと開いた天井からは漏れた直射日光を浴びた塵や埃を煌めかせる。
足場には下水が激しく流れ歩行を阻害し水飛沫が視界を湿らせる。
壁や天井から電線が露出し、その内の幾つかが2人の戦闘から起こる余波で斬られ宙を舞っては切断面から火花が絶え間なく溢れていた。
そんな足場で音を立てて動く人影の一つの少年、目掛けて伸びてくる鉄の柱のように太く変幻自在な触手を空中に逃げる事で避けるが水に邪魔され動きに機敏さを失い腹部に鉄柱が命中する。
彼は手に持つ鉄パイプを離さないように歯を食いしばりながら残りの鉄触手を捌こうとするも遂に壁際まで追い詰められる事態に陥り迫る敵と視線が激突る。
床や壁を操り鉄を生やしていた男は優勢な状況にニヤリと笑った。
手立てがないと焦る額から零れた水滴が冷や汗なのか、それとも配水管から排出し続けて今も尚、水位を増しつつあるこの激流の雫なのか………………そんな事を考えている者は此処には居ない。
◇◇◇◇◇
現代、本邦の某県某田舎に国が管理運営する巨大学園都市がある。
表向きは自国を牽引するための若き天才やエリート子女から資産家・財閥・社長令嬢や子息等のための学園とされているが実は超能力者の保護と育成・隔離する場所として意味合いが大きく公然の秘密として機能している。
正式名称は【国立学術研究諸教育機関 碧若葉の星限大樹 都市学園 文教エンダバーフロンティア・ニュータウン】 通称ユグドラシル学園の高等部に時期外れの転入生【竹神楽 優依】がやって来て早1ヶ月になる。
日常生活を送っていた彼は身体測定検査の1つの項目として毎年行われるのだが偶々、修学旅行のために直近の検査ESP適性確認では発見されなかったにも関わらず突如として能力が発現し体に電撃が迸りトラックに曳かれそうになっていた子供を助けるのだがその際の大立ち回りの場所と活躍が悪かったのかメディアでも大々的に取り上げられ世界的に注目される事になってしまい表彰される始末、果ては彼の意思などは関係せずに聞かれる間も無く転校を余儀なくされてしまっていた。
あれから数ヶ月が経ち環境の変化と学校生活に慣れてきた現在は夏季になったばかりの第1火曜日。
総理大臣や学園の教師陣や生徒からの期待とは裏腹に彼の能力は発動は愚かコントロールにも失敗するばかりで暴走しては校舎を破壊する毎日に、すっかり落ちこぼれ・問題児扱いされて遂に付いた渾名・呼び名は制御も出来ない【暴れる野獣モンスター】と揶揄されたり学園切っての隠し球、使われる事のない一躍スター【永遠の鬼札ジョーカー】と嘲笑され馬鹿にされていた。
そんな本日も優依は体育や実技授業でミスを繰り返しクラスメイトから冷笑にされるも何処吹く風で気にも停めず今は机に、ふっぷして窓の外の雲を眺めているのか授業は上の空で聞いてさえいなかった。
担任の【濁リ 曽太郎】は毎度の光景だと思いながらも黒板と読んでいいのか分からない教室と一体のホワイトボードを指し棒で示しながら説明を続ける。
「まずは基本の説明からだ。
超能力つまり特異能力だな~にはだ!
先天的、後天的のどちらにせよ、二種類に分類され組分けされる。
ここまでは良いな?
基本中の基本の基礎だぞ!」
黒のマーカーで円を複数往復書きしながら授業を生徒達が聞いているかを横に置いて続きを口にする。
「1つは科学技術で分析・解明説明できる現象を起こすグランド。
2つ目は科学的に説明も再現できない現象を作り出すスカイだな。
そして今回は特異者の能力発動中や使用時や後に起こる状態異変についての授業だ。
神楽っ!!
特にお前はちゃ~~んと聞いとけよ。
いいか!?」
担任の言葉にクラスの一部がわざとらしく笑う。
担任は咳払いをしてから授業に戻る。
「オーバーヒート、オーバーユース、オーバークロックの3つが確認されているんだが!
まずオーバーヒートだな。
これは使用の限界値や疲労の……ん?。
…………何っ!?」
教室中心から虹色の光が出現した次の瞬間には光は大きくなり丸が8つある、それぞれが目玉のように瞬きをする不気味な魔法陣が教室の床の全体に広がり全員の存在を一際強く発光すると一瞬で声を上げる間も許さず消し去ってしまう。
魔法陣には8つの1つ1つに司る紋様が描かれている。
肉食生物を意味する牙。
草食生物を意味する蹄。
水棲生物を意味する鰭。
飛禽生物を意味する翼。
植花生物を意味する枝。
虫螻生物を意味する肢
爬虫生物を意味する鱗。
そして最後に目を瞑った二足歩行。
やがて魔法陣は何事も知らないとそっぽを向くようにして静かに形を綻ばせて失う。
もう2年A組のクラスには誰も居ない。
‥‥‥‥にも関わらず窓際にある花瓶が揺れると1つの机が何かに小突かれたように少しだけ動いて床を擦る嫌な音が教室に当然のように響くだけに終わった。
いきなりの出来事と眩しさに目を開けていられずに目を開けた次の瞬間に気がつけば其所は教室から忽然と様変わりした西日の射す巨大なスタンドガラスのある教会のような場所に変わり果てていた。
よく見渡せば石造りの西洋の城のような屋内なのだと遅まきながらに理解が追い付く。
疑問が絶えない中、担任教師や自分達、同級生を取り囲むように顔まで隠したマントを羽織った集団と1人、髭の長く異様に背丈の高い男性等は喜びの声を上げている。
話し掛けるタイミングを見誤ってしまっていると更に奥から絢爛豪華で足りたい程の格好と宝石の指輪や王冠をこれでもかと着飾った老人が人垣を分けて杖を突きながら厳かな足取りで、やってくる。
自分をこの国の王だと名乗った年相応の体形で太ってはいないが多少の腹の出た老人は胡散臭い顔と笑顔を向けながら竹神楽達に有無を言わせぬ勢いで捲し立て話し始める。
嘘臭く信用に欠ける口調から語られたのは竹神楽達のいた地球では無く全く別の世界に突如として召喚されたという荒唐無稽で信じられない話しだった。
「だが安心して欲しい勇者諸君?
希望は残されているのだから。
その方法とは………………帰るには、この世界を不当にも支配する悪鬼、魔族・龍人・獣人等の亜人を打倒する事にある。
あぁここからが重要だ!
君達を喚んだ最も大事や役目、その下等生物共を!!
………奴等を束ねる魔王を勇者の能力で退け、魔王から帰還の呪文を聞き出さば、君達は無事に元の世界に帰還できるぞ」
下卑た見定めるような品定めするかのような厭らしい目付きに身を震わせる。
様々な感情を露にクラスメイトの中で演説の内容に疑問を持った【茜 志帆】は自身の特異能を発動させようとして違和感を覚えるが王の話しは途切れる事なく続いていく。
特異能力は難なく発動が成功してホッと溜め息をした。
◇◇◇◇◇
2-Aの生徒を含め担任の全員は突然に【空中移動大天国家 空都アルタータイル】の国王【マハー・シュペーゼ】と名乗る老年の男性から神の御告げの通りに別の次元から召喚し現れた特別な能力を授かりし者が自分達だと言い放つ。
特別な力とは世界の壁を越えた際に与えられた神のスキルであり、この世界を救って欲しいと唾を飛ばしながら熱くなる。
やっと成功したと喜んでいるローブ姿の魔法使いや現れた国王を見てクラスメイト等はその姿に驚きを隠せないでいた。
理由はマハー・シュペーゼ等から覗かせる耳が翼のように羽毛であり背中から鳥の翼を広げている者さえいたからだ。
観察とまではいかない視線の他所に生徒達は超能力は持ってはいるが神にも出会っていなければスキルも授かっておらず、高い可能性で魔法は使えないと確信していた。
この空気感から困惑や嫌悪感を露にしながらも全員が共通の考えに至っていたのは偶然では無いだろう。
そんな中で生徒を代表して【安堂 英雄】と言う生徒が王の前に出るとハッキリと告げる。
「マハーさん少し良いですか?」
「うむ?
なんだね勇者殿。」
「あっ、その前にさっきから僕達を何度も勇者と呼んでいますがそれは何故ですか?」
「これは又、可笑しな事を聞くものだ。
この世界では召喚された名誉ある者を勇者と呼び讃えるのだ!
そして称号と能力を授かった君達は神の御尊顔を拝見されし選ばれた素晴らしい幸運の持ち主とも言える、うむ。
共に地上の下等生物を駆逐しようではないかね?」
「…………その…事で行き違いと言いますか、あの………ボク達は魔法を使えないと思います……よ?
ですが………。」
言い淀みながら気後れ気味に英雄が勘違いを正そうと話していると国王達の台所が一変する。
生徒達を囲んでいた魔法使いは杖を構える。
壁際の兵士達は槍や剣を抜いて刃先を向けてくる。
一触即発の一瞬、魔法を使って攻撃が始まろうとした瞬間だった。
しかし彼らは異世界に不意に連れて来られたとしても。
神や女神に会った訳でもなければ特殊なスキルが付与されてなかったとしても。
恩恵である魔法を使えないとしても彼等には超能力──特異能力──があった。
特異能力を発動させると、その人物の瞳は淡く発光する。
それが地球の時分より強く発している事に殆どの者が気付いていない。
「雑魚だろ」
兵士や魔法使いを逸速く殴り飛ばした男子生徒が首だけで骨をポキポキ鳴らしながら愚痴る。
「委員長、キョドり杉www」
ネイルを気にしながら女子生徒が見向きもせずに水を床から発生させ溺れさせる。
「タイミングは、まぁ及第点でしょう。」
メガネを直しながら何もしていないのに魔法使いが潰れてしまう。
「先生ぇ~これからさぁ俺らはさぁ~?
どうすんだぁ~?」
兵士が火ダルマになる。
難なく制圧した英雄は指揮を取って無抵抗の魔法使い等を光の輪で拘束すると同じように拘束され身動き出来ずに項垂れる王マハーから聞き取りを始めるために移動して暗い召喚の間から城に移る事になる。
状況把握と正確な説明、平等な関係での協力を取り付ける事を目的だったのだが他の生徒や担任の濁リも加わって取り調べごっこと化す。
その頃、他の生徒や城の住人の視線が薄くなっている現状を利用して抜け出した茜は密かに慎重に動きながら壁づたいに移動して階下に降りていた。
「その格好、もしや勇者様でいらっしゃいますね。
今は国王様が案内しているはずなのですが迷子にでも、なられましたかな?」
情報の伝わっていない文官らしき男に有無を聞かずにスカートの内から取り出した麻酔銃で黙らせると発砲音に茜は眉をひそめる。
「これは‥‥生徒の移動した部屋まで響いたわね。」
音を聞き付けた兵が駆けつけて不審に構えるも茜が腕を向けただけで直ぐに昏倒する。
数秒の悩む顔は破顔しているはずが彼女の顔は変わらず可憐な表情をしていた。
仕方ないと拳銃を仕舞うと足音や衣擦れさえ置き去りにした急速で城の吹き抜けの通路まで着くと城下に飛び出していた。
「へっ面白くなって来たじゃね~か!!」
茜は異世界に来た事で空気中にある未知のエネルギー、仮に魔力が有ると仮定すると恐らく魔力に因って特異能力が活性化して彼の特異能力が暴走していると見ていた。
他の生徒も違和感程度は、この世界で初使用時に感じているはすだ。
この魔力(仮称)に、しかし彼だけがオーバーヒートあるいはオーバークロックを起こしている可能性があると睨み、行方を眩ましている彼と再会を目指して屋根や屋上を駆ける。
普段より凄まじい速さで動ける事に内心、驚きながら茜は兵士を蹴散らす。
すると進行方向の北側で大爆発が起こる。
「派手に暴れてっ。」
元来た道無き道を戻りながら計画を変更してクラスメイト達と合流して優依の戦闘に参戦される作戦へとシフトすると屋根を蹴り走り一刻も早く救援を急ぐために邪魔な兵士を薙ぎ払っている茜の瞳は妖しく光っていた。
◇◇◇◇◇
「痛ッ。
つーーー。
なんなんだよオレが何したって言うんだよ、アァ?
超でムカついた。
超で泣かす。」
視界が歪みその他の時間が遅く、それ以外が早く流れる時空の狭間の中で2つの影だけが異物と感知されずに正常に動けていた。
フードを目深く被り顔を見る事が出来ない敵に舌打ちをして距離を摘めようとしてフード男が持っている鉄の塊や床の鉄に触れると鉄を操り槍のようにして触手を伸ばし飛ばしてくる。
避けるも必死で攻撃は行えず決定打が決められず倦ねる現状が続く。
誰かに話し掛けても返答は無く、すり抜けて気付いても貰えない。
増員の見込みは薄く、耳から流れる声も所々が破れ穴が開いたように聞こえが悪い。
自分の特異のコントロールが学園に居た時よりも最悪な今、優依に勝ち目は低いと自覚が常に頭の真ん中に居座る。
そして大きく脈打つように胎動して優依の意思を介さず能力が暴発しようとするのを走りながら意地でも阻止する。
況して戦場との相性が完全にミスマッチだと腕の水滴を煩わしいとばかりに振る。
そして自分の動作である人物の事を思い付くと指を水に浸けて敵に目掛けてボールを投げるように向けると水滴は敵の目に命中して敵は顔を拭く仕草で視線が外れる。
簡易の目潰しの間に優依は操作の緩くなった鉄の触手を簡単に素通りしてニカッと闇の笑いをするとフードを関係なしに布越しに1発殴る。
いきなりに蹌踉ける事を余儀なくされる敵にもう一度、反対の手で水滴目潰しをすると颯爽と平然のように退避行動をするのだった。
ここは地下なのかと忘れそうになる程に配管と遺跡が混じり壊れたように水が押し寄せて居心地の宜しくない場所だと言うのに殺気の感じられない相手から向けられてくる戦闘の猛威は苦戦を強いられてしまい、まだ終わらせてはくれそうにない。
…………のだが今だけは敵のフード男が怒りを滲ませているのが優依にも容易に想像出来た。
「あ~糞か!?
ち●こまで浸かって来てるじゃね~かよ!!
本気!!!
替えの服、どうんだ。
ありえねぇ、絶対ブッ飛ばしてやる!!」
宣言するように指差すが水で左足を滑らせた拍子に捻って嫌な音を立てて足の激痛に優依の顔を歪ませる。
間抜けな隙を敵は当然のように尽かさず攻撃を仕掛けてくるので優依は躱し切れずに壁に頬を衝突てしまう。
そのまま壁面から顔を滑らせて水に体を委ねながらブクブク浮きつつ言ちる。
そんな彼の眼は発光しっぱなしだが強くなったり弱くなったり途切れたりと不安定なのを物語っていた。
『‥‥‥最悪だ。』
優依の戦いはまだまだ長引きそうだ。
英雄が竹神楽優依の存在が居ない事に気づくのはもう少し後の事だ。
◇◇◇◇◇
2年B組のクラスには誰も居ない。
‥‥‥‥にも関わらず窓際にある花瓶が揺れると竹神楽優依の机が何かに小突かれたように少しだけ動く。
揺れていた花瓶は、とうとう落ちてしまい水を撒き散らし割れてしまう。
その零れた水溜まりに靴痕が写る。
2023年12月26日に記述を加筆、修正しました。
2024年1月7日、優依の戦闘描写を加筆しました。
2024年5月7日、日本の記述を変更しました。
1月8日、抜けていた描写を追加しました。
1月23日、超能力を発動すると瞳が発光する描写を追加しました。
3/31、冒頭部分を修正しました。