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紐ぱんが日常

軽めの投稿、続けております。

 女性の下着は、実にバリエーションが多いのだ。

 その一つに、…僕は目をつけた。


「紐ぱんにしてみよう、って。」

 ぶふっ、っと、彼女はまたしても吹き出す。


「つ、遂に…そこまで行ったのね…。」


「紐ぱん」と表記した場合、二種類の意味が発生することは留意しておかねばなるまい。


 ひとつめは、本稿でも取り上げる「腰紐を結んで身に着ける」タイプのぱんつだ。

 立ったままであったり、寝たままであっても脱着が容易なことから、近年では介護の現場でも需要が生まれているという、意外なオールラウンダー。

 単に紐で結ぶだけの物から、ゴム紐系の紐でサイズの適応幅が広い物、セクシーなデザインを前面に押し出した物など幅広いラインナップを誇り、一大ジャンルとして確立した感もある。


 もうひとつは少数派ではあるが、前後の身頃みごろが文字通り紐のように細く、下着としての用を殆ど成していない、セクシー専用機とでも云うべき物だ。

 こちらは、先ほどの物とは違い、圧倒的に着用者を選ぶ性格の物だ、流石に僕もこれは試してみようとは思わなかった。


「この後者のやつ、操…試してみない?」

「……まぁ、いいけど…。たぶん思ってるのと違うと思うよ…?」


 意外にも彼女はOKしてくれそうだ。

 これは、買っておかなければならないな…楽しみがひとつ増えたぞ。


 さて、紐ぱん初挑戦に際して、選んだのは…ニ◯センの4枚セット。


 ニ◯センのぱんつは、とにかくサイズの種類が豊富なのが強みだ。

 値段は、すごく安いわけではないが、高価でもない。品質も並よりはいい、という感じでとにかく初心者はニ◯センで買えば大失敗はしないだろう、という安定感がうれしい。若干、デザインがやぼったい感じがするのが玉に瑕だが、そこは値段なり、といったところだろう。


 操のいったとおり、睾丸の締め付けを回避するための試策であったので、サイズも大きめの物を選んだ。同一のデザインで、なんとSから10Lサイズまで用意してあるのだ、すさまじいまでの充実ぶりである。


 僕がチョイスしたのは5L。

 普段は3L~4Lを選んでいるのでさらに一回り大きいことになる。そこは、紐ぱんの調整幅に期待しての事だ。


 結果からいえば大成功だった。


 締め付けも少なく、フィット感も自由自在。

 また、デザインもCOOLで、おまけに耐久性も優れていたのはうれしい誤算だった。

 今ではお気に入りの逸品である。


 残念なのは、人気だったのか、逆に不人気だったのか…、現在ではカタログ落ちしてしまっていることである。

 似たようなものを後から追加で購入したのだが、生地の品質が最初のものより幾分劣っていた。

 特に気に入ったものは、直ぐに再購入しないとラインナップから消えてしまうことがある。

 ぱんつも栄枯盛衰…。いつまでも、あると思うな、紐ぱんつ。


「──上手いこと、言ったつもり?」

「……すみません」

 彼女は、ギャグには厳しいのだ。


「紐ぱんも、殆ど経験無いな~、あたし…。」

「そうなの?」


 彼女は、うん、と頷く。

「なんか、デザインが過激なのが多くて…あたし向きじゃないな~、って。」


 なるほど、最初から選択肢に入って来ない感じか…。それはちょっと勿体ないな。


「探せば結構、いろんなのがあるから、試してみたらどうかな?…お薦めとかもあるんだけど…。」

 試しにそう言ってみた。

「そう?じゃあ、選んで貰おうかな…♪」

 案外ノリがいいな、うれしい限りだ。


「締め付けが、緩いのが良かったの?」

 彼女が聞いてきた。

「それもある。」


 けど、紐ぱんの最大の魅力は、()()()()()だ。


 当然、外からは全く視認できないが、腰で結んだ紐の結び目は、ズボンの上からでも触れるとその存在を確認できる。

 実際、女物を穿いているからといって、慣れてしまえば意識することもなくなる。トイレに行ったときに目に入って、改めてむふふ、となるくらいのものだ。

 だが紐ぱんは、ふとした際に触れる結び目の感触から、何気ないタイミングでもその存在が意識できるのである。

 これは、結構癖になった。


「──ちょっと、変態っぽい。」

 彼女がちくりと言う。

 うぐっ…、となったが、…でも彼女の表情は優しい。


「……初めて買ってから、しばらくは紐ぱんしか穿かない時期があったなぁ…。」

「そんなにいいんだ…?」


 そのとおり。

 それほどに、この魅力は抗し難いのだ。


 さて、まだまだ話は続くが、そろそろ風呂から上がらねばなるまい。


「あ、頭洗わないと…」

 僕がそう言うと、彼女は、

「じゃ、座って、洗ってあげるから。」

 そう言って一緒に湯船から立ち上がった。


 風呂椅子に座ると、彼女は僕の後ろで屈んで、シャンプーを手に取り泡立てて、髪に絡め始めた。

 わしゃわしゃと、泡を立てながら、彼女の手が頭を撫でる。

「これくらい?」

「うん、きもちいいよ…」

 そんなやり取りをしながら、頭を洗う。

 そして、シャワーをかけて泡を洗い流す。

 そして背中や、自分に付いた泡も一緒に洗い流した。


「はい、おしまい」


 そう言った彼女を鏡越しに見つめる。

 彼女は昨日までと変わらずに、楽しそうに微笑んでいる。


 正直なところ……。


 ここまで好意的に接してくれるとは思わなかった。場合によっては、これで彼女とも終わりか…、そう覚悟までしたのだ。

 彼女にはいくら感謝しても、し足りない。


 浴室を出て、バスタオルで身体を拭く。

 それから、着替えを引っ張り出して、身に付ける。


「……着ないの?」

 彼女がそう聞いてきた。

 女物の下着を、という意味だろう。

「うん、流石に今は…。」

 僕は答えた。

「いいのよ、気にしなくて。……あたしも、そのうち慣れると思うし。」


 そう言ってくれるのはありがたい。

 だが、男がそう言う格好をしているのを見るのは、流石に辛いだろう。

 認めては貰ったが、なるべく彼女の前では晒さないようにしようと思う。


 おかしな話だが、着ている姿を自分で鏡で確認するのは、正直なところ自分でもきつい。

 意味がわからないだろうが、事実そうなのだ、気持ち悪いとさえ思う。

 だから、姿を確認するときは、サイズの小さい鏡で、自分の顔が映り込まない位置で確認する。

 僕は、下着そのものが好きなのであって、それを着ている自分が好きなのではない。


 ……わかるかな、この感覚……。分かんないだろうなぁ。


 軽めの夕食を済ませて、二人でお酒を飲む。

 二人とも、大して飲める方ではないので、二人で350ml缶を分けあって飲む、それくらいで充分なのだ。


 軽く酔いが回って、彼女にも少し勢いが付いたのであろう。

「ね…?…もう一回、見せて貰っても…いい?」

 そんなことを言ってきた。妙に楽しそうな顔で。

 例の、下着の詰まったクローゼットのことだろう。


「う、うん…、いいけど?」


 そう言って彼女を案内する。

 もともと物置に使っていた部屋の一角に大きめの衣装タンスがおかれている。今思うと不自然なほどにそこだけ片付いている。足元に絨毯マットと小さなヒーターが置いてあり、照明も追加されている。脇に、アイロンとアイロン台まで備えてある。

 ウォークインクローゼットなど無いので、ここが僕の「セットアップ」の場所なのだ。


 タンスの目の前に立つ、彼女。

「それじゃ……、失礼しま~す…。」

 そう言って、ゆっくりと観音開きの扉を開いていく。

 ふわっと、例の香りが拡がる。

(みさお)の匂いだ…。」

 僕がそう言うと、

「洗剤…」

 やれやれ、といった感じで雑に否定する。そろそろ突っ込むのも飽きてきたのだろう。

 綺麗にハンガーにかけて並べられた無数のぱんつを見て、彼女は、はぁ~、とため息をつく。


「…よく、ここまで集めたよね~…」


 呆れたような、感心したような、そんな感情が入り交じって見えた。だが、意外なほど嫌悪感は含まれていなかった。


 そして、興味深げにひとつひとつ眺めていく。

「コットン系は…無いんだね?」

「操が穿いてくれるから、そっちは任せてる。」

 僕がそう言うと、彼女が吹き出した。

「任せられても…」


 そして、引き出しを指差して、

「こっちは?」

 彼女がそう尋ねた。

 僕は、左の引き出しを開いて見せる。

「…こっちは、ブラとパッドが入ってる。」

「おぉ…」

 感嘆の呻きを漏らして、こちらを見る。


「…触っちゃ、ダメだよね…?」

 恐る恐る聞いてきた。

「あ、全然いいよ、…気持ち悪くない?」

「別に、普段から見慣れてるものだし」

 そう言った彼女は妙に楽しそうだ。


「あ、Bカップなんだ、ふふふっ♪」

 黒のブラを手にとってサイズを確認している。


「……それね、最初の方に買ったやつなんだけど、やっぱりサイズがしっくり来なくて…」


 あー、なるほど~、と言って頷いている。

「ブラはねー…、女でも最初は失敗するよ~。思ってたサイズ感と全然違ってたりして。」

 へー、そうなんだ、と感心する。


「同じサイズ表記でも、メーカーごとに微妙に違ったり、フルカップと四分の三カップで、全然胸のホールド感が変わってたりね。」


 なるほどね、と納得する。


「だから、僕は殆どスポブラしか持ってないかな…。」

「へー、意外。…男が女の下着身に付けるって言ったら、まずブラかな~、って思ってたから。」


 それを聞いて僕は反論する。


「とんでもない……、僕、ぱんつは長いけど、ブラはまだ3ヶ月くらいしか経験が無いんだ。」

「そうなの?!」

 彼女が驚く。


「それもね…、そこに踏み出すか相当悩んだ。」

「え~?なんで…?」

 これは、理解して貰うのは難しいだろう。


 ぱんつは、形状が違えど男も穿くものである。

 しかし、ブラジャーというものは基本、男は着けるものではない。

 そこに踏み出すのは、僕でさえ一線を越える、という覚悟と決意を要するものだった。


「そ、そういうものなの…??」


「ほかの人の事は、わかんないけど……、僕はかなり抵抗があった。」


 結局、ぱんつから遅れること、一年近くになってから、ようやく踏み切れたのだ。


「そこまでして、着けなくても良かったんじゃ……。」


 そうかもしれない。

 だが、ブラは単体での魅力もさることながら、もうひとつ大きな役目があるのだ。


「でも、やっぱり憧れがあったんだ…。」

「憧れ…?」


 うん、と僕は頷く。


「上下揃いの下着、っていうコーディネイトの魅力に…。」

「あ~、なるほどね~。」


 それぞれ単体でも魅力的だが、上下揃いで合わせたときの魅力的相乗効果は、ばつぐんだ。


 少々値段は張るが、わざわざセットで買うだけの価値があると、僕は思う。


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