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第9話 テイラー家での日々

ご覧いただき、ありがとうございます。

 それから数日後の、八月の上旬。 


 王都内で配られている新聞の号外には、先の件を引き起こした王太子シャルルが廃太子になることと、同時に第二王子ベルントの立太子が正式に決定されたと記載されていた。


 それと同時に、前王太子シャルルと公爵令嬢ケイトの婚約は解消されたとも報じられている。


「……いよいよ、これで本格化してくるな」

「ええ」


 現在は、テイラー伯爵家の屋敷の食堂で伯爵一家が朝食を摂っていた。

 上座席には伯爵が座り、それから伯母のカレン、養子のジョルジュとエマが向かい合って座っている。


 いち早く朝食を食べ終えたテイラー伯爵は、食後のコーヒーを飲みながら新聞を広げて妻のカレンに話しかけていた。


「これから、新しい王太子殿下が立太子なさる。……しばらくは、周囲が騒がしくなるかもしれんな」


 周囲が騒がしいという言葉が、何故だがエマは妙に気にかかった。

 もしや、それはカレンが以前に言っていた「貴族派」のことなのだろうか。


 そう思いながらも、目前のマフィンとベーコンをナイフとフォークで切り分けて一口食す。

 マフィンは、屋敷のコックの手作りなのだろうか。焼き立ての香ばしい匂いが立って心地がよかった。


「君は、とても美味しそうに食事をするよね」


 向かいの席のジョルジュが、ニコリと笑いかけた。エマよりも二歳年上の彼は実年齢よりも幼く見える。


「ええ、とても美味しいですから」


 ナプキンで口元を拭ってからそう返すと、何故かジョルジュは感心したような表情で頷いた。


「食事を純粋に楽しめることは、よいことだね」


 なにか意味深なセリフに思えたが、彼はいつもこのような調子なので特別な意味はないのだろうと思った。


「ええ、本当に」


 そうして、穏やかに食事の時間が過ぎたのだが、皆で食堂を退室する間際に伯爵がカレンを呼びとめていたことが少し気にかかった。

 だが、この後は応接室に家庭教師が来訪する予定なので、すぐに準備のために私室へと戻ったのだった。


 ◇◇


 半年後に予定している女官採用試験の対策のために、現在テイラー伯爵家では家庭教師を三名ほど雇い入れており、それは曜日によって科目が異なっている。


 ちなみに、本日は木曜日なので、隣国の公用語であるアウル語の講義の予定であった。

 また、本日はその他に商学や数学の講義も同家庭教師から受ける予定だ。


「エマお嬢様。大分、発音がよろしゅうございます」

「左様でしょうか。安心しました」

「はい。これなら、アウル国の方と会話をしても遜色はないでしょう」

「ありがとうございます……!」


 とはいえ、女官の試験は半年後の二月を予定しており、他の受験生はそれこそ何年もかけて学習と対策を行うので、エマは彼女らと比べたらかなり不利な立場であった。


 だが、焦っても仕方がないし詰め込んでもかえって学習の質が落ちるかもしれないと、毎日三科目以上の学習はしていないのである。


「アウル語の場合、試験では単語の発音の違いを採点されますので、お気をつけくださいませ」

「はい、分かりました」


 そうして、正午となったので午前中の講義は終了した。


 エマは、午後の授業の前に昼食を摂ろうとダイニングルームへと向かうと、その入り口付近に丁度カレンが立っていた。


「伯母様、どうかなさったのですか?」

「エマ、あなたを待っていたのよ」

「私を待っていてくださったのですか?」

「ええ」


 そう言ってカレンは周囲を視線だけで確認した後、扇子を口元に当てた。


「明後日の午後に、お客様がお越しになられる予定ができたわ」

「あら。でしたら、私はご挨拶をさせていただきます」


 伯爵は貿易を営んでおり、仕事柄よく客人を招くのでエマは居候の身ではあるがその度に挨拶をしていた。


「そうね。……ただ、今回はあなたへのお客様なのよ」


 思ってもみない言葉に、息を呑んだ。


「私にでしょうか?」

「ええ。……お越しになるのは、宰相第一補佐官のバルト卿よ」


 その名前を聞いた途端、胸の鼓動が高鳴り、それはしばらく高鳴り続けたのだった。

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