第7話 エマの決意
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「腑に落ちないという表情をしているわね」
「……顔に出ていますか?」
「ええ。二週間ほどだけれど、あなたの真っ直ぐな心根には触れてきたし、考え方もなんとなくだけれど分かってきたつもりよ」
「伯母様……」
そのように自分のことを考えてくれているとは思ってもみなかったので、思わず胸の奥が熱くなってきた。
「だからこそ、あなたは昨日の出来事の表面ではなく、奥深いところを察しているのかもしれないわね」
「奥深いところ……」
やはりカレンはなにかを知っているのだと思ったが、それは彼女から切り出さない限りは自分が知ってはならないことだと察した。
「これから話すことは他言無用よ」
「……弁えております」
元々、室内には人払いをしてあるので誰もいないのだが、念には念をというように、カレンは扇子で口元を隠してより小さな声で囁いた。
「おそらく近日中に、王太子殿下の処遇が決定すると思うわ」
「近日中ですか? それは急なお話ですね」
「ええ。……そして、公爵令嬢のケイト様のお立場はおそらくお変わりにはならないでしょう。……今の時点で、わたくしから言えることは以上よ」
カレンは扇子を畳んで、それをテーブルの上に置いた。
本当に、これ以上は情報の開示はしないという意思表示なのだろう。
(王太子殿下に、下される処遇は、……もし、貴族派と関わっているのであれば、決して軽いものではないはず。けれど、ケイト様のお立場が変わらないということは……)
「第二王子殿下……」
ポツリと呟いた声にカレンは僅かに頷いた。
つまり、現在の王太子は昨日の責任を取らされて王太子の立場を廃される可能性が高く、その上、ケイトの王太子の婚約者の立場は変わらない。
となると、ケイトは新たに王太子に立太子する第二王子と婚約を結び直す可能性が高くなる。
そこまでを考えると、エマは鼓動が高鳴っていくのを感じた。
おそらく、王太子妃になるのであろうケイトは、これからきっと多くの苦難と対面することになるだろう。
それこそ、昨日の婚約破棄騒動以上のことが起こる可能性もありえる。
そうなると、彼女の侍女になるだけでは不十分だと思った。何か、もっと近しい立場で傍に居られる方法はないだろうか。
そう考えると、ある結論に辿り着き、勢いよく視線をカレンへと向けた。
「……伯母様。王宮女官の試験は毎年とても高い倍率だと聞いておりますが……挑戦をしたいのです」
傍から聞けば、あまりにも突拍子もない質問のように聞こえるが、カレンは表情を曇らせることなく今度は強く頷いた。
「そうね、あなたならきっとそちらを選択すると思っていたわ。よいわ。確かに王宮女官の試験を突破するのは至難の業だけれど、わたくしが伯爵夫人の名にかけて全面的に協力をいたしましょう」
またもや、思ってもみなかった申し出に、エマは目を大きく見開いた。
「……そんな、そこまでお世話になるわけには……」
「いいえ、是非協力させて欲しいわ。わたくしは、お母様のお世話をしてくれたあなたにとても感謝をしているし、昨日のあなたの勇気ある行動をとても誇りに思っているの」
「伯母様……」
思えば、カレンはいつも姪であるエマに対して誠実で優しかった。
だが、そこには一本太い線のようなものが通っていて、常に伯爵夫人としての矜持を持っているように思える。
「私、決意いたしました……! 王宮女官を目指します!」
「ええ、よく言ったわ。大いに励みなさい!」
「……はい!」
そうして、エマの王宮女官を目指す日々が始まった。
そして、のちに思ってもみなかった人物の来訪があるのだが、それはもう少し先の話である。