第56話 面会
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一部加筆修正いたしました。
そして、エマは王宮へと戻ると一旦ロベールとは別行動を取り、真っ先にポールが配属されている図書館へと向かった。
「ポール卿!」
図書館の入り口で警備についているポールの傍にはキャサリンもいて、エマの声に彼女も反応をした。
「バルト夫人? お務めご苦労様です」
「エマさん!」
先日の一件以来キャサリンとは会うことができていなかったので、それが叶い内心ほっとした。
「元気そうで安心しました」
「はい! お陰様で、変わりなく過ごすことができています。先日は、本当にありがとうございました」
そう言ったキャサリンは、とても顔色がよさそうだ。
「それでは私はこれで。ポール卿には先日のお礼を伝えることができましたので」
「後日、改めて話しましょう」
「ええ、必ず!」
二人の会話を邪魔してしまったことに罪悪感を抱きつつ、エマはポールと向き合った。
「ポール卿、あなたに報告があります。ただ、それは口頭で述べるのは少々憚られるので、こちらの書簡に簡易的に記しております。読んだ後には処分をお願いいたします」
エマはポールに封筒を手渡すと、代わりにポールからも封筒を受け取った。
「奇遇ですね。私も、夫人と閣下にお伝えすることがあったので、こちらの書簡を人伝に届けるところだったのですよ」
ということは、ポールもなにかの手がかりを掴めたのだろうか。
「これから、件の実行犯に会ってきます。なにかが判明次第またお伝えしますね」
「誠ですか? それは危険では……いえ、閣下が許可をなされたのでしょうから、その心配は無粋ですね」
そう言ってポールは目を見開いた。なにかに思い当たったのだろうか。
「でしたら、その書簡は必ず面会前にごらんください」
「……分かりました。情報の提供をありがとうございます。それでは」
「はい、お気をつけて」
エマはポールに辞儀をした後、王宮へと向かったのだった。
◇◇
エマは王宮へ到着すると、ロベールと合流し王宮の地下へと向かった。
カツンカツンと靴の音を響かせながら回廊を五分ほど掛けて降りて行くと、薄暗い中ほのかな灯りが見える。
看守に声をかけて彼が解錠をし、エマはロベールに続いて入室した。
ロベールは、先ほどエマとは別行動をとった際に至急エマとロベールの二人が、毒殺未遂の実行犯である給仕の女性と面会ができるように取り計らったのだった。
ちなみに、女性の名前はマリというらしい。
どうやら入室した部屋は取り調べ室のようで、件の女性マリは手首に縄をつけられてガラス張りで仕切られた室内の奥の椅子に腰掛けている。
同室には、看守が一人鋭く目を光らせて見張っていた。
マリは粗悪な質の囚人服を身につけ、正気の抜けたような表情をしている。
(これは、手短に要件を告げなければ)
「……女官のあなたが、私になにか御用ですか。尤も、あなたに話すことなんて何もありませんけれど」
瞬間、室内の看守が声を荒げた。
「お前、身のほどを弁えろ! このお方を誰だと思っているのだ!」
「構いません」
エマは看守に向かって右手を上げ、続けた。
「単刀直入に言います。あなたには弟さんがおりますね」
マリの身体がビクリと跳ねる。
「調べたのですか?」
エマは無言で頷いた。
実のところ、その情報は先ほどポールから手渡された書簡に書いてあったものであり正確には自分で調べたわけではないのだが、それをここで述べる必要はないと判断した。
「そう……」
「あなたの弟さんが、今どこにいるのか知っていますか?」
マリは首を静かに横に振った。
「それは話せません。あの子がどうなるか分かりませんから」
「我々は総力をあげて、あなたの弟君を保護する所存だ」
マリは口元を両手で覆った。ロベールの言葉で悟ったのだろうか。
エマらが「マリの弟が何者かに誘拐されたこと」を知っていると。
だからなのか、マリは真っ直ぐにエマを見つめた。
「でしたら、その際はあなたも同行してもらえますか?」
「……私がでしょうか」
「はい。私が成そうとしていたことに気づいたあなたには、その責任があると思います」
ロベールは、勢いよく椅子から立ち上がった。
「それは、あまりにも身勝手な……!」
「ロベールさん」
エマは、咄嗟にロベールを普段二人だけの時に使用している呼び方で呼んだ。
「私は構いません。……むしろ、私は行かなければいけないと思うのです」
「エマ……」
エマは、椅子から立ち上がって真っ直ぐとマリを見つめる。
「あなたの弟さんは、どこにいるのでしょうか」
「……カミラ様のもとです」
瞬間、エマとロベールは目を見開いた。
「私の年の離れた弟のレオは、カミラ様と一緒にいます。彼女が、私が街で働きにでている間にレオを預かると言ったのでお言葉に甘えて預けたのですが、そのまま彼女に連れて行かれてしまったのです」
「そんな……」
ポールからの書簡によると、マリは歳の離れた弟のレオと二人で王都の平民らの住むエリアで慎ましく暮らしていたそうだ。
すでに彼女らの両親は他界しており、マリはレオの面倒をよくみていた。
「私はカミラ様を信用しておりましたので、何の疑問もなく預けてしまったのです。それがまさか、……毒殺の実行犯にならなければレオを返さないなどと言われるとは……」
「そうだったのですね」
エマは思わず、ギュッと手のひらを強く握った。
「エマ。彼女の言い分を全面的に信じるのは危険だ」
「はい。……ただ、そうであったら一大事です。私は自分の目でそれが真実なのかを確認したいのです」
思えば、あの社交パーティーの際に婚約破棄を告げられたケイトが倒れ、エマが彼女に声を掛けた時からきっとこの件にエマは関わっていたのだ。
他人事として捨て置くことは、決してしたくはなかった。
「分かった。ただし万全は尽くさせてもらう」
「……はい! ありがとうございます、閣下」
そうして、エマは元男爵令嬢であるカミラの元へと向かうこととなったのだった。