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第55話 エバンズ邸にて

ご覧いただき、ありがとうございます。

 あれから二人は帰宅してからも話し合いをし、ことの算段を立てた。


 そして翌日。

 ロベールから国王に対してこれまでの経緯を説明し、ある相談をした。

 国王から了承を得るのには少々手間取ったが、最後には承諾してくれたそうだ。だが、あくまでも内密にことを決行するようにと念を押されたのであるが。


 次に、エバンズ公爵家に遣いを送り、訪問をしたい旨の意図を報せるとすぐに返答があった。

 前宰相であるエバンズ卿は領地の屋敷に居を移していたが、王宮で毒殺未遂事件が起きたために、今では王都内のタウンハウスに滞在しているとのことだった。


「エバンズ卿。お願いしたい件がございます。実は、以前妻が褒美にとエバンズ卿に賜った権利を使用したいのです」


 前宰相は、少し考えてから大きく頷いた。


「ああ、我が娘を手助けしてもらったあの件であるな。もちろん、なんでも申して欲しい」

「ありがとうございます」


 ここで、初めてエマが発言をする機会を得られた。

 緊張で口内はカラカラだったが、今言わなければこのような機会は今後決して巡ってはこないだろうし、それではきっとよい未来には進めないだろう。


「エバンズ卿。単刀直入に申し上げます。元王太子殿下であらせられるシャルル様に至急連絡をお取りしていただきたいのです」


 ピタリと動きが止まった。


「……それは何故か」


 エマはロベールと顔を見合わせ、小さく頷いたのちに続けた。


「実は……」


 エマとロベールは、前宰相に対して言葉を選びながら慎重にことの説明をした。

 あくまで推測であることは強調しつつ、要点を掻い摘んで適切に言葉を紡いでいく。


「なるほど。そんなことが……」

「ご理解いただけましたでしょうか」

「ああ」


 射抜かれそうなほどの鋭い眼光を前宰相に向けられたが、エマは怯まず視線を返した。


「そうか。……それは、大変申し訳がなかった」


 思ってもみなかった言葉に返す言葉を失くしていると、前宰相が続ける。


「見張りは常に万全にしているつもりであったが、こちらの不手際があったようだ。至急、手はずを整えるが陛下からの許可を取り付ける必要があるので今しばらく待ってもらいたい」

「それならば、すでに許可を得ております」


 ロベールが王家の紋章入りの蜜蝋で封をされている封筒を手渡し、それを前宰相が確認をすると彼は目を見開いた。


「手はずは整っているのだな。了承した。すぐに動こう」


 そして、前宰相は立ち上がり二人に別れの挨拶をしてから退室しようとするが、ピタリと動きを止めてこちらに振り向いた。


「だが、それが褒美の内容とはあまりにも味気ないというもの。差し支えがなければ、代わりのものを儂から用意をさせていただいてもよろしいかな」

「いえ、それには及びません」

「儂が受け取って欲しいのだ」

「エバンズ卿。……ありがとうございます」


 これ以上断るのは反対に非礼にあたると思い直し、エマはそれを受け取ることにしたのだった。


 ◇◇


 それから、すぐにエバンズ公爵家から伝書鳩が北境の地へと飛ばされ、翌日あちらから返信の鳩が足に手紙を縛りつけ戻って来た。

 それは、重要な内容だったためにステルク王国内でもごく一部の重臣らのみが使用している暗号で書かれていたそうだ。


「やはり、シャルル様に対して貴族派の令息が何度か接触を試みたそうだ」


 伝書鳩が戻って来たという報せを受けて、ロベールとエマは至急再びエバンズ邸へと赴き前宰相から報告を受けていた。

 

「左様でしたか」

「ああ。その度にシャルル様は上手くやり過ごしていたようだが、一点気になることを聞いたそうだ」

「左様ですか。それはどういった内容だったのでしょうか」


「『弱みを握っている元侍女がいて、彼女を動かすのでなんの心配もいらないから我々について来てきて欲しい』と持ちかけられたそうだ。シャルル様は、その件の侍女は元男爵令嬢のカミラ嬢の元侍女ではと推測したと書かれていた」


(カミラ嬢の元侍女……、弱み……)


 瞬間、エマの目前にあの時に毒を盛った皿を持っていた給仕係が過った。また、彼女がカミラの侍女であったことは刑務官らの身辺調査により明らかにされている。


(カミラ嬢の侍女だった女性が実行犯に選ばれ、かつ弱みを握られている……)


 そこまでを巡らせると、椅子から立ち上がり身体は自然と出入り口へと向かっていた。


「閣下、エバンズ卿。ことは一刻を争う事態かもしれません!」

「エマ、行き先はもしや……」


 ロベールも思い当たったのか、確信たる表情で頷いていた。


「はい。王宮へ戻り、ポール卿に近況を聞きに行きます。それから例の給仕と会うことは可能でしょうか」

「それは流石に……、いや、君のことだ。なにか考えがあるのだろう」

 

 エバンズ卿に続き、ロベールも頷いた。

 

「なんとか手配しよう」

「ありがとうございます、閣下!」


 そうして、エマはロベールと共に王宮へと向かったのだった。

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