第54話 エマの決心
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「シャルル様が差し出し人……」
元王太子であり、今は追放された身であるシャルルが、かつての自身の近衛騎士であったポールに祝辞を託したという。
何故、彼はそのような行動をとったのだろうか。
(祝辞の内容は、確か『今日のような日がくるとは思っていなかった。遠くからあなた方を見守っている』だったわよね。……シャルル様が、私たちにそのような言葉を贈ったのは何故なのかしら)
少し考えても思いもつかなかったが、ふと以前に思い巡らせたことが過る。
『もしかして、送付者は本当は祝辞を贈りたいのではなくて、何か別の意図あるのかしら。例えば、自分自身の存在に気がついて欲しい、とか』
(シャルル様は、私たちに自分の存在に気がついて欲しかった? けれど、それは何故なのかしら……)
北の辺境の地で騎士として防衛にあたっているはずのシャルルが、そのようなことをする必要があるのだろうか。
すると、再びあることが過る。
「閣下。シャルル様の周辺には今も護衛の方がいらっしゃるのですよね」
エマの言葉に含みがあることに気がついたのか、ロベールは少し間を置いてから頷いた。
「ああ、そうだ。シャルル様の側には今も護衛騎士が付いている」
「となると、誰かが接触しようとしたら、すぐにその護衛の方が気がつかれますよね」
瞬間、今度はロベールとポールが顔を見合わせた。
「ああ。確かにその通りだ。だが例外があるかもしれない」
「……もしかしたら、シャルル様はその例外を伝えようとされたのではないでしょうか」
その言葉を受けて、ポールが小さく頷いた。
「……確かに。そう考えるのが自然かもしれません」
ロベールも頷くと、口元に手を当てた。
「例外があったとして、それは一体なんなのだろうか」
「シャルル様の周辺で起きたこと……」
エマは目を閉じて思考を巡らせてみた。
そもそも、彼は婚約破棄騒動が原因で辺境の地へと追放された。
だが、その騒動自体の元を辿ると、どうもポールの父親である貴族学園の理事が関与をしているようだ。
(先ほど、キャサリンさんに掴みかかっていた男性は、ポール卿と繋がりがあるように思えるわ。……まって。だとすると……)
その先の推測を伝えるのには、今の状況を鑑みなければならなかった。
ロベールはもちろん問題ないが、ポールはどうだろうか。
彼の父親の背後が気になるところであるし、なにより先ほどキャサリンに絡んでいた貴族風の青年との繋がりが気にかかった。
だが、エマは彼は信用をしてもよいと直感で判断した。なにより、ポールは何か裏があってシャルルの祝辞の件を打ち明けたのではなく、純粋にシャルルのことを想ってことに踏み切ったように思えたのだ。
「推測に過ぎませんが、シャルル様はなにかをお知りになられたのではないでしょうか。それで私たちに報せるためにあのような祝辞を送ったのでは」
加えて、それは敢えてポールに聞かせる意図もあった。彼になにか心当たりがあるかもしれないとも思ったからだ。
すると案の定ポールは小さく頷いた。
「……そうですね。その線は考えられるかと思います」
そして背筋を伸ばしまっすぐとロベールに視線を向けた。
「閣下、バルト夫人。私はこれで失礼をさせていただきます。先に退出する無礼をどうかお許しください」
「ああ。構わない。よく来てくれた」
「もったいないお言葉です」と言って、騎士の礼をしてからポールは退室した。
彼はなにか思い当たることがあるのだろうか。
だが、これからロベールに対して人払いをしてからでないと話せないような話題を切り出そうと思っていたので、ちょうどよいタイミングだと思った。
「閣下。シャルル様の情報を集められないでしょうか」
「そうしたいところであるが、シャルル様の身柄は全面的に前宰相があずかっているのでこちらが干渉するのは難しいだろうな」
「そうなのですね」
口元に手を当てて思いを巡らせると、かつてテイラー伯爵家の庭園でロベールとの会話をしたことが過った。
「……では、あの件を利用するのはいかがでしょうか」
「あの件というと」
そうは言ったが、ロベールはすぐに思い当たったのかエマの方に視線を合わせた。
「例の褒美の件だな」
「はい」
エマの目は真っ直ぐ前を向いていた。
(シャルル様がなにか少しでも事情を知っている可能性があるのであれば、それに対して対策をとるべきだわ。今、こうしている間にも、毒殺未遂のようなことを誰かが企てているのもかしれないのだから)
──皆を守りたい。
エマはそう固く決心をしたのだった。




