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第53話 ポールの進言

ご覧いただき、ありがとうございます。

更新が遅くなりすみません!

※18日に、ポールがシャルルに言及した一部の内容を修正しました。

 エマがポールを連れて宰相室へと入室をしたのは、エマの事情聴取とポールの勤務時間が終了した夕方になってからであった。


「閣下。進言をさせていただきたい事項がございます」

「了承した。発言を許可する」

「寛大なご配慮をいただきまして、感謝いたします。……私はかつて、元王太子であられるシャルル様の専属の近衛でございました」


 エマに緊張感が走った。

 尤も、その話は前もってロベールから概要を聞いていたので、知ってはいた。

 だが、個人情報であるので詳細は訊いていなかったのだ。


「ああ、把握はしている」


 以前は王太子の近衛隊に在籍していたポールだが、先の騒動によってシャルルが失脚したために王宮内の警備隊へと異動している。

 それは、事実上の左遷であると周囲の人々は考えていた。


「私は、元王太子殿下の先の行動に至るまでの経緯をよく承知しております」


 先の行動というのは「婚約破棄騒動」のことを指し示しているのだろう。

 思えば、結婚式の際に彼は「あの場にいた」とエマらに打ち明けている。


「シャルル様は、純真で曲がったことは許せない方でありました。また、元男爵令嬢カミラ嬢との交流もなされ、その場に何度か同席しました」


 シャルルは貴族学園に通っていたために、ポールはあくまで学生に扮して同行していた。帯剣や簡易的な防護服は学院側に許可をとって携帯していたらしい。


「彼女は、シャルル様が最高学年にご進級なされた年に編入なされてきたのです。なんでも、出生に関して事情があり周囲の貴族令息から浮いた存在となりえるので、当時生徒会長をなされていたシャルル様が、令嬢が周囲に馴染むまで彼女の補佐をするようにと受命されたのです」


 エマはその辺りの事情は知らされていなかったが、横目でチラリとロベールの方を見やると特に動じていないように見受けられるので、どうやら彼は知っていたことらしい。


 だが、カミラが周囲に馴染むまでシャルルが補佐を任されていた件は、二人が親密になる機会を学園側が与えたに等しい。それはまかり通るのだろうか。

 それを察したかのように、ポールは付け加えた。


「もちろん、お二方を二人きりにすることは決してなきように常に配慮をし、私共近衛が必ず同席をするようにしておりました」

「では……、カミラさんとシャルル殿下の会話も把握しておられていたのですか」

「はい」


 これは、どういうことなのだろうか。

 公衆の面前で、しかも王家主催の社交パーティーという大舞台であのような宣言をしたということは、シャルルとカミラは親密ではなかったのだろうか。

 

「失礼ですが、……シャルル様とカミラさんはどのようなご関係だったのでしょうか」


 もう少しぼかす言い方もあっただろうが、時間も限られているし、なによりもその辺りはハッキリさせたかった。

 なので、含むような聞き方では伝わらない可能性もあるので、あえて避けたのだ。


「私からは答えかねますが、……私にはシャルル様は純粋に温情でカミラさんに接しているように見受けられました。それだけに、カミラ嬢の訴えは耐え難いものがあったのではないでしょうか」


 訴えとは、「自身の取り巻きを使いカミラの教科書を捨てさせたり、衣服を隠したり悪い噂を流し孤立させるように仕組んだりした」ことだろう。

 だが、あれは全くの冤罪だったはずだ。そう思いを巡らせていると、ロベールが小さく声を上げた。


「だから、あの時シャルル様はあのようなことを仰っておられたのか」

「と言いますと……」

「ああ。詳細は伏せるがシャルル様が彼女に実際には害されていなかったことを聞いた際に、『そんなはずはない』と強く主張されていたのだ。もしかしたら第三者に何やら虚偽の情報をすり込まれていた可能性があるな」

「第三者……」


 そうエマが呟いた瞬間、ロベールとエマは、ほぼ同時に勢いよくポールの方に視線移した。


「……私ではありませんが、……似たようなものでしょうか」

「どういうことですか?」

「私の父が学園の理事を務めておりまして、父がシャルル様へ虚偽の情報を伝えたのです。シャルル様は父への信頼がありましたので、それが虚偽とは考えもしなかったのでしょう」


 ──学園の理事が伝えた虚偽が、あの騒動に繋がった。


 そう思うと、背筋が凍りつくように感じた。


「何故そのようなことを……」

「シャルル様は、それが真実であれば現王太子妃殿下が、未来の王太子妃にご即位なさるのは相応しくないとお考えになられたそうです。私はそのようなお考えは止めるようにお伝えをしたのですが、私の父や他の幹部が促すようなことを再三進言してシャルル様を焚きつけたのです」


(学園の理事が……、それではまるで……)


「カミラさんも、あくまで弱いものの立場でいることに徹し泣き通しておりましたが、どう見ても嘘泣きにしか見えませんでした。だが、シャルル様はある意味で純真な方なのでそれを見抜けなかった」


 純真と言い表したが、それは王族としては如何なものなのだろうか。


 国を背負う者は、常に周囲に警戒をしてその者の言葉の真意を押し図ることをしなければならないのではないだろうか。

 その点では、シャルルは王族としての覚悟と責任に欠けていたと言わざるを得ないだろう。

 

 それがきっかけで恋仲になったのかと思ったが、ポールは立場上打ち明けることはできないのだろうと思った。


「……実は、本日はあることを打ち明けるために馳せ参じたのです」

「ああ。それはなんだろうか」


 ポールは頷き小さく息を吐いた。


「先日、私宛に私書が届きました。それには更に封筒が同封されており、それを宰相閣下の婚儀に祝辞として届けるようにと指示を賜ったのです」


 突然、話題が変更されたので切り替えるのに多少戸惑ったが、話を飲み込むとエマは驚きのために思わず声を上げそうになったが何とか堪えた。


「……あの祝辞は、ポール卿からのものだったのですね。驚きました……」

「咎めなら受ける所存です。不審な行動をとり申し訳ございませんでした」


 綺麗な姿勢で二人に対して頭を下げるポールに、ロベールは上げるように促した。


「それは今はよい。それで、その差し出し人は誰だったのだ」


 ポールは再び背筋を伸ばした。


「差し出し人は、シャルル様でございました」


 瞬間エマとロベールは顔を見合わせた。

 エマは、ポールの先ほどまでの会話がここで繋がったように感じたのだった。

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