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【電子書籍化】断罪された悪役令嬢を助けたら、宰相閣下に求婚されました【完結】  作者: 清川和泉
第4章 着々と

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第52話 図書館にて

ご覧いただき、ありがとうございます。

 翌日。

 本日は土曜日なので休日であるのだが、昨日の毒物混入未遂事件によりロベールは今日も王宮へと出仕していた。


 エマも重要参考人として召集されているのだが、それは午後からなのでロベールとは別行動をとり、今は彼の昼食の入ったバスケットを抱えて王宮の敷地内に建てられた図書館へと訪れていた。


 バルト公爵家の屋敷の蔵書以外の毒物に関する資料がないかを調べるために、カウンター内の司書に身分証を提示してから館内の目当ての本棚まで移動し背表紙を眺めていく。


 何冊かを選んでテーブルにそれを運び席に着いて目を通し、いくらか時間が流れた後にエマの耳に聞き慣れた声が響いた。


「……やめ……だ……さい!」


 ピタリと、本をめくる手を止めて耳を澄ませてみる。


「やめて……ください!」


 瞬間、立ち上がってその声のする方へと駆けていく。耳心地のよいあの声はよく知る女性のものであったはずで、彼女は今困っているようだ。

 人違いであってほしいとも思うが、たとえ誰であっても助けにいかなければならないと思いながらともかく走った。


「ポール卿!」

「これはバルト夫人。如何されましたか」

「一緒に来てください!」


 髪振り乱して有無を言わさないエマの様子を見たからか、ポールは頷くと詳細は訊かずにエマの後に続いた。

 声が聞こえたその場所は図書館の西口から出てすぐのところであって、姿を必死に探すと男が女性の手首を掴んでいたところであった。


「君も現体制に不満があるんだろう。僕たちと一緒に来て欲しい。実家が豪商の君が来てくれたらこちらとしては心強い」

「行きません! 不満なんて抱いていません!」

「そんなのは嘘だ。君は平民というだけで女官になるのには随分苦労したはずだ。それに周囲の貴族女官からは差別をされているんだろう? 現体制を変えないと君の居場所はこれからもどこにもないぞ」

「……そんなことはありません! 私の周囲の貴族の方々は、いえ一部の方は確かに……、でも親切で決して淑女の矜持を忘れない貴族の方もいらっしゃいます!」


 瞬間、女性の動きが止まった。

 彼女は栗色の髪のエマのよく知る女性──キャサリンであった。


「そこまでだ」


 ポールは青年の手首を掴み、キャサリンから離した。

 青年は上等な絹の刺繍が施されたウエストコートを身につけており、自身のブロンドを振り乱して抵抗を試みている。


「なっ、お前は!」


 取り押さえられた青年は、ポールの顔を見て驚いているようだ。


「今日は照らし合わせていない。この手を離せ!」

「貴殿はここには立ち入れないはずだ。このまま立ち去らなければ憲兵に引き渡すことになるが」

「っく!」


 青年はそれ以上は口を(つぐ)み、そのままポールに従うような仕草を見せた。


「私は彼を敷地外へと連れて行きますので、バルト夫人、彼女を頼みます」

「はい」

 

 エマは、すぐさまキャサリンの側へと駆け寄った。


「大丈夫ですか?」

「はい、ありがとうございます」


 ともかく、図書館の職員専用の控室へと場所を移動してキャサリンから話を聞くことにした。


「今日は非番なのですが、実はポール卿に差し入れを渡しに図書館に来たのです……」


 キャサリンの席の付近のテーブルにはバスケットが置いてあり、おそらくそれが差し入れなのだろう。

 エマはその用件に対して意外に思った。


「キャサリンさんは、ポール卿と懇意にしているのかしら?」

「い、いえ! そういうわけではないのですが、私の一方的な行動と言いますか……」


 すると、丁度ポールが入室してきたのでキャサリンがすかさず立ち上がり、彼に対してお辞儀をした。


「ポール卿、先ほどは危ないところを助けていただきまして、本当にありがとうございます!」

「貴方は今日は非番なはずです。どうしてここにいるのですか」


 その声は焦燥を含んでいて、取り乱しているように見受けられる。

 エマは初対面の際に、ポールに対しては常に冷静で動じないといった印象を抱いていたので意外に思った。


「申し訳ありません! ポール卿には二度も多大なお手間をとらせてしまい、どう謝罪をすれば……」

「いや、こちらこそ貴方を危険に晒してしまい、すまなかった」


 そう言ってポールはスッとキャサリンの前に出て、綺麗な姿勢で頭を下げた。


「そんな、頭を上げてください!」


(先ほどキャサリンさんはあのように言っていたけれど、二人ともよい雰囲気ね)


 エマは、二人の雰囲気の爽やかさを受けて、暗くなっていた心に温かさが戻ったように感じた。


「バルト夫人。どうか私を、宰相閣下の元へと案内していただけないでしょうか」

「ポール卿?」

「是非閣下に、いえ、お二人にお話をしたいことがあるのです」


 ポールの瞳は真剣だった。

 あくまで図書館の警備であるポールを宰相室に案内するのは、通常であればあまり好ましくない。

 

 だが、彼の真剣な瞳を見ていると、無理を押し通してでも連れていかなければならないという気持ちが湧き上がってくる。


「分かりました。丁度、宰相室へは所用のため訪問する予定でした。共に行きましょう」

「ありがとうございます」


 ポールは、なにか自分たちが知らない事情を知っているのかもしれないと、エマは漠然と思った。

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