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第47話 北の辺境の地にて

ご覧いただき、ありがとうございます。

 ステイフ王国、北部の辺境の地インファン。

 同国の元王太子であるシャルルは、甲冑を身に纏いインファンの砦に続く道をブロンドを靡かせて、力強く歩きながら小さく息を吐いた。

 彼は、一人の騎士として国防に努める日々を送っている。


「レオ卿、交代の時間だ」

「ああ、そうか。分かった」


 現在、シャルルは王族籍から抜かれた身だが、騎士として立ち振る舞うことのみ許されているのだ。

 ただ、彼には常に前宰相の息がかかった監視が付いており、彼らはシャルルに対して話しかけても応じることはほとんどない。


(ここでの生活も、じきに三年が経つか。赴任したばかりのころは、とてもこんなところで暮らせるものかと思ったものだったが)


 住めば都とはよく言ったものだと、つくづくと感じている。

 シャルルが王太子であったときは、身の回りのことは侍従や侍女らにやらせていたが、この地では彼はただの一介の騎士である。自分のことは自分自身で行わなければならなかった。


 この地に赴任をした当初は、それこそ常に不平不満を周囲に漏らしていたし当たり散らしもした。

 だが、周囲の人間は誰もシャルルの話に耳を傾けなかったし、そもそも相手にもしなかった。


 シャルルの性分から周囲のその仕打ちに対して最初は激昂したものだが、人は誰にも相手にされず身の回りの世話もなにもしてもらえてないでいると、段々と「自立せねば」と察するものである。


 幼き頃から王太子として大事に育てられてきたので、これまで着替えはおろか自分自身で起床をすることすらできなかったのだが、彼にとっては過酷なこの三年間の生活をしているうちに、精神的にかなり鍛えられたのだ。


 砦の警備は過酷である。

 というのも、北の辺境の地は冬の訪れが国内で一番早くそして一番遅く終わる。

 一年の大半が雪で覆われている生活は温暖な気候であった王都に暮らしていたシャルルにとっては、それだけで過酷であった。


 また、この地にはよく盗賊や獣が現れるので、それらの対処にも当たったがその度にいつも自分は常に死と隣合わせなのだと悟る。


 よって、厳しい冬の寒さが身に染みているのということも加味し、現在は初夏ではあるが辺り一面が雪に覆われていたときの感覚が抜けてくれそうにない。

 また、シャルルは今年で三回目の初夏をこの地で過ごすことになるので、これから訪れる比較的に過ごしやすい季節に対して知らぬうちに期待を寄せているのか、胸が高鳴るのを感じていた。


「シャルル卿。そういえば、あの話を知っているか」

「なんだ、モルガン卿。また貴卿は噂話を仕入れてきたのか」


 シャルルが元王太子であるのは、この砦の騎士全員が知っており、公然たる事実として認識されていた。

 だが、すでに王族ではない今のシャルルには何の権力も持ち合わせてはいないので、周囲の騎士は皆シャルルに対して対等かむしろ下の者として扱うのである。


「こんななにもない場所じゃ、娯楽も限られているからな」

「それで、どんな噂なんだ」

「ああ。なんでも、ついに宰相閣下が結婚したらしいぞ」 


 瞬間、シャルルの唇がぎゅっと結ばれた。

 しばらく反応がなかったからか、モルガンは横目でシャルルを見やるが、シャルルはそれには反応を示した。


「……そうか」

「ああ。お相手は女官らしい」

「そうなのだな」


 モルガンはこれ以上はなにも話さなかったが、おそらくシャルルからなんらかの情報を引き出したいのであろう。

 だが、シャルルは(はな)から情報を易々と受け渡すつもりもなく、自分もダンマリを決めこもうと思った。


(現在の宰相は、私が王太子であったころの第一補佐官であったな)


 そう思うと、約三年前の王宮の謁見の間での出来事がシャルルの目前に浮かび上がってきた。


(よもや、あのとき補佐官が擁護をした娘と婚姻を結ぶとは)


 色々と思うところはあるのだが、すでにシャルルにとっては王太子であったことや王宮での暮らしは遠い過去の出来事となっていた。

 

 ただ、シャルルを放っておかない者たちが今も時折であるが現れることがある。

 とはいえ、常に前宰相の息のかかった見張りが傍に控えているので、彼らは表立っては接触はしてこないのだが。


 だが、ある日見張りの目を盗んで接触してきたとある貴族の令息が、今回のロベールの結婚話や男爵令嬢の末路などをシャルルに対して通告をしてきたのだ。


(彼はすぐに私の見張りに見つかり、逃げ出したがな)


 シャルルは上空を仰ぎ見た。

 雲一つない晴天には、トンビが空高く飛んでいる。


(彼らが、あの報せの意味に気がついていればよいのだが)


 そして、そっとかつて自分が想いを寄せた女性を思い浮かべたのだった。


(私は結局自分の正義を貫こうとして王太子の地位を失った。本当の正義は誰かから提示されるものではなく、自分で見つけ判断しなければならなかったのだな。……あのときの私には、カミラを守ることこそが正義だった)


 シャルルはふっと息を吐きだし、思いに耽ったのだった。

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