第46話 心地の良い朝
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翌朝。
カーテンの隙間から、気持ちのよい朝日が差し込んでいる。
普段よりもベッドの感触が柔らかいなとぼんやりと思いながら、エマは身体を起こそうとするがそれは叶わなかった。
というのも、隣で横になっているロベールがエマの身体を包みこむように抱きしめているからだ。
(そうだわ。昨日私は結婚式を挙げて、それで……)
昨夜のことを思い返すと、たちまち頬が熱くなっていくが、同時に共に夜を過ごせた幸福感も心中に染み渡っていった。
身につけているネグリジェがはだけていないかを確認していると、ゆっくりと頬を撫でられた。
「おはよう、エマ」
気がつけば隣で寝ていたはずのロベールが微笑み、今度はそっとエマの栗色の髪を撫でた。
「おはようございます、閣下」
今日は月曜日であり、通常であればこれから出仕の準備を行う時間帯であるのだが、二人にとっては結婚式の翌日であるので、エマとロベールは共に一日の休暇を取ったのだ。
ただ、二人は新婚であるので、慣例どおりならば長期の休暇をとり領地にある別邸を赴くなどの旅行をしてもよいものだが、共に王宮仕えであるのでそれは控えたのである。
少なくとも議会が閉廷し、王宮での催物等が落ち着くまでは旅行はできそうにないと話していた。
そう思考を巡らせていると、ロベールは少し眉を顰めた。
「閣下ではなく、名前で呼ぶようにと伝えたはずだが」
「……そうでした」
「君は……、昨夜あれだけ名前を呼んでくれたのに、何故また戻るんだ」
そう言って苦笑をするロベールを傍目に、たちまちエマの頬が先ほどよりも熱を帯びていく。
「閣下という呼び名にも、馴染みがあるものですから」
「……そうか、そうだな。その呼び名もたまには悪くないかもしれないな」
それからしばらく微笑み合い、二人の朝は和やかに過ぎていったのだった。
◇◇
翌日。二人は通常通りに王宮へと出仕した。
公爵家の馬車に二人で乗り込むとエマは新鮮な気持ちになるが、同時に気が引き締まるようだった。
そして、エマが本宮のケイトの執務室の側にある女官の控室へと赴くと、すでに先輩の女官であるクロエやミントとサニーらが着替えを行っていたところであった。
「おはようございます」
「おはよう、エマさん」
「ご結婚おめでとうございます」
このように、対面する人々からは祝福の言葉をもらい、エマはその度に「ありがとうございます」と感謝の言葉を返した。
そうした特別な日々はゆっくりと過ぎていき、いつしか結婚したことは非日常ではなく、エマにとってはごく自然なこととなっていった。
エマの公爵夫人としての教育は結婚後もしばらく続き、結婚してから一ヶ月ほどが経ったある日曜日。
エマは屋敷の一室で、古参の執事であるニールと義母である公爵夫人からある講義を受けていた。
これまで屋敷での食事のマナーや帳簿の付け方、混入された毒への対応、来客への対応等の指導をすでに受けている。
「エマさん、今日でわたくしからの講義は終了です」
「お義母様、これまでありがとうございました」
「いいえ。こちらこそ、とても飲み込みが早くて指導のしがいがありました。これで領地に戻っても心配はないわね」
現公爵夫妻は、長男のロベールがエマと結婚をしたことを契機に正式にロベールに爵位を譲り、彼らは領地の城へと移住することにしている。
ちなみに、現在その城にはロベールの弟であるドミニク夫妻が住んでいるので同居をする予定である。
「最後に一つ、わたくしから伝えたいことがあります」
「はい」
「人を疑うことを忘れないでください。あなたは王太子妃殿下付きの女官ですので重々承知はしているかと思いますが、改めて常に肝に銘じて欲しいのです。とはいえ、わたくしたち家族はいつもあなたを見守っておりますし、力になりたいと思っています」
人を疑うこと。
確かに、そのことは常に念頭に入れて日々職務を行ってはいるが、公爵夫人である義母からのその言葉は格別で重く感じた。
加えて見守ってくれているという言葉は心強く、心にスッと浸透していった。
「承知いたしました。これまで、ご指導を賜りましてありがとうございました」
そうして翌月、爵位をロベールに継承し、公爵夫妻は領地を統括している城へと移住して行ったのだった。