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第38話 ロベールとの食事

ご覧いただき、ありがとうございます。

 そして土曜日の夕刻。

 エマとロベールは、王都内の屈指の老舗レストランへと訪れていた。


 共に食事をすることはかねてより約束をしていたのだが、婚約後に初めて二人きりで会うからか、エマは高揚感を抱いていた。

 エマは、濃い紫色のイブニングドレスに身を包み、ロベールは紺のウエストコートを身につけている。


(とても素敵だわ)


 普段のウエストコートよりも、よりプライベート色の濃い銀糸などが施されていないウエストコートを身につけているロベールを見ていると、それだけで鼓動が高鳴ってくる。


 ちなみに、エマは今夜の装いに悩んでいたところ、カレンから「あの時と同じ色のドレスを選んだらよいのではないかしら」というアドバイスを受け、それを考慮し選んだのである。

 ちなみに、あの時とはロベールが初めてテイラー伯爵家を訪れて二人で庭園を散策した日のことである。


 また、エマは養子に入ったこともあり、休日である週末は寮に宿泊許可を申請しテイラー伯爵家に泊りがけで過ごすことにしている。


「ようこそ、おいでくださいました。バルト小公爵様、エマ様」

「ああ、今日はよろしく頼む」

「よろしくお願いいたします」


 店内へと入ると支配人がすぐに出迎えてくれたのだが、上品な装いで隙のない彼にエマは思わず身を固くした。

 すると、ロベールはエマの隣方向に肘を軽く突き出したので、エマは反射的にその腕に手をそっと添えた。


(私が緊張しないように、取り計らってくださっているのだわ)


 ロベールの腕は逞しく、触れているだけで愛しさが込み上げてくる。

 そして、ボーイに案内してもらい予約席にそれぞれ向かいあって腰掛け、飲み物のオーダーや各事項の説明を受けた後に、早速前菜のテリーヌが運ばれてきた。


 それは、アスパラやトマトがふんだんに使用されている野菜のテリーヌで、丁寧に切り分けて口に入れると新鮮な野菜が非常に濃く感じて心から美味しいと思った。


「とても美味しいです」

 

 エマは気が付いたら満面の笑みをこぼしており、ロベールもつられたのか口元を緩めている。


「それはなによりだ」


 そう微笑んだ彼に、エマは思わず見惚れた。


(閣下の笑顔が素敵過ぎて、手が震えてきたわ……)


 ロベールとは、公爵邸で以前に共に食事をしたことがありその際にも思っていたが、彼の食事の所作は非常に綺麗で洗練されているので、エマは食事の度に惚れ惚れとしていた。

 それから、食事の進み具合に合わせて次々と給仕により料理が提供されていく。


 ポタージュにカルパッチョ、メインディッシュには牛頬肉のステーキが提供されたが、それはホロホロと柔らかくて濃厚なデミグラスソースとの相性が抜群だ。そして、デザートにベリーが添えられたムースをいただき、一息つく。


「とても美味しかったです。ありがとうございました」

「ああ、それはなによりだ」


 ロベールは微笑んだが、何故か少し目を細めた。


「もう少し君と一緒にいたい。寄り道してもよいだろうか」


 今は二十時を回ったところであり、帰宅するには少々早いように思えた。

 なによりエマも、もう少々一緒にいたいと思ったので、気がついたら迷わずに頷いていた。


「はい。私も、ご一緒したいです」


 大胆なことを言ってしまっただろうかと思ったが、ロベールは柔らかい笑顔で応えてくれた。


 そうして二人は、レストランの隣で営業をしているバルへと移動した。

 店内は落ち着いた雰囲気で好感を抱く。


 そこでエマはあえてお酒は頼まずに紅茶を頼み、意外なことにロベールも同じものを頼んだ。


「あの、お酒は飲まれないのですか?」

「ああ。普段は食事の後に少々嗜む程度だが、今日は控えるつもりだ」

「左様なのですね」


 ロベールは、右手で髪をかき上げて隣に座るエマを真摯に見つめ、エマはロベールの所作一つにドキリとして、鼓動が高鳴ってくる。


「なにかあったのか」

「と言いますと……」

「君の様子がいつもと違うように感じた」


 ロベールの瞳から、視線を外すことができなかった。


「あの……」

「無理には訊かないが、何かあれば気兼ねなく言ってほしい」


 ロベールの眼差しや言葉が力強く、心に溶けていくように感じた。


「あの……実は……」


 心内を打ち明けることには躊躇いがあった。

 あのことを正直に打ち明けてもよいものか判断がつかなかったし、そもそも自分がこの件で悩んでいるということを知られるのが怖かった。


(閣下に失望されないかしら……。貴族としては当然の婚約話で、それも正式には決まらなかったことでグズグズ悩んでいたなんて知られたら……)


 そう思案をすると、ふと昨日のキャサリンの真剣な表情が目前に過った。


(そうだわ。キャサリンさんに打ち明けられたことで昨日のような嫌な気持ちは大分薄れている。きっと今なら閣下の言葉を冷静に受け止められるし、それになにより閣下の気持ちを蔑ろにしたくないわ)


 そう思うと、心が和らぐように感じ自然と頷いていた。

 

「実は、……閣下にお尋ねをしたいことがあるのです」


 エマは真っ直ぐにロベールの瞳を見つめ、彼は静かに頷く。


「……そうか、了承した。ならば、話は馬車内で聞こう」

「はい、ありがとうございます」


 現在の時刻は、二十一時に差し掛かりそうであるし、元より他人には聞かれたくない内容である。ロベールのその申し出は非常にありがたかった。

 いや、おそらく彼の配慮なのだろうと考えると、エマはなにか形容のしづらい感情が胸の奥に燻ってくるように感じたのだった。

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