第37話 相談
ご覧いただき、ありがとうございます。
そして夕食後。
エマはキャサリンの部屋へと訪れた。
キャサリンはエマを笑顔で迎え入れ、ティーカップをテーブルの上に置いた。
「あの後から紅茶が好きになりまして。お茶請けの美味しいお菓子を探すのも最近のブームなんですよ」
キャサリンは、エマに綺麗に包装された箱を手渡した。
「ご婚約のお祝いです。とてもささやかなものですが」
「ありがとうございます。開けてもよろしいですか?」
「もちろん」
贈り物をもらったときの礼儀として、すぐに贈り物の中身の確認をした。
すると、箱の中には焼き菓子や紅茶の茶葉がどちらとも数種類ずつ収められていた。
「とても素敵ですね。改めてありがとうございます、キャサリンさん」
「いいえ、そう仰っていただけて嬉しいです。……ところでエマさん、なにか心配ごとがあるのではないですか?」
エマの動きがピタリと止まった。
今そうではないと言っても、先ほど心配してくれた手前それはまかり通らないと思った。
なので、エマは簡単に掻い摘んで昼間の出来事を説明することにした。
「実は今日……」
そして、エマはキャサリンに今日の資料室での出来事を打ち明けた。なお、ロベールの王女との婚約話は伏せて説明した。
「なるほど。その方は閣下と婚約が決まりそうだった女性の方が聡明な方だったと、わざわざエマさんに言ってきたのですね」
「はい……」
正直なところ、このように他人とのやり取りを第三者に打ち明けるのは個人情報を漏らしてしまうのではないかと、内心でヒヤヒヤする。
「そうですか。となると……」
キャサリンは口元に手を当ててしばし思案をすると、小さく頷きそっとエマの耳に耳打ちした。
「もしかして、閣下の婚約が決まりそうだったお相手とは隣国の王女様でしょうか」
エマは思わず、ビクリと身体を跳ね上げた。
「はい、そうです。知っていたのですか?」
「いいえ。ですが、一連のお話を聞いてそうなのではと推測をさせていただきました」
「あの、このことは……」
「はい、もちろん他言無用にします。……ただ、人の噂には蓋ができませんから、どこかから漏れた噂を、噂好きの一部の女官や侍女の間で広まって周知の事実となっていったのだと思います」
なるほど、だから王妃付きの女官が知っていたのかと思うと、少し心が軽くなったように感じた。
「そういったことがあったのですね。……エマさんは詳しく知りたいと思いますか?」
「……正直に打ち明けると、少し怖いです。……王女様とは、おそらく政治的な理由で婚約話が持ち上がっていたとは思いますが……」
以前にエマは、ロベールはケイトのことを想っているのだと思い込んでいたのだが、それは彼が身分の高い女性とならば釣り合いが取れるいう思い込みがあったからなのだろうと思った。
だから、ロベールが王女と婚約することができる立場だったと聞いて、それ自体には何の違和感も抱かなかった。
ただ、反対に自分でよいのかという疑念と不安が漠然と湧き上がってくるのだ。
キャサリンはそっと紅茶を一口飲んでから、改めて背筋を伸ばした。
「隣国は長年の同盟国です。バルト公爵家の現公爵様は国王陛下の弟君、つまり王弟であられます。おそらく王女様との婚約話はそのために浮上したのではないでしょうか」
「……そうですね、確かにそう聞いています」
その内容は以前に家令のビクターから聞いていた内容のものと、ほぼ相違なかった。
ただ、先ほどもそうだが改めて第三者から言われるとなにか表現し難い感覚を抱くのだ。
だが、今回のそれは先ほどのものと比べると遥かに心地のよいものだったが。
「エマさん、お話をしていただいてありがとうございます」
「キャサリンさん……」
キャサリンのその言葉が、とても有難かった。
正直なところ一人部屋で悶々としていたら、悪い方向にばかり物ごとを考えていたかもしれない。
「キャサリンさんに話を聞いてもらえて、胸の支えが取れたようです」
「それはなによりです。……エマさん」
「はい」
心配そうだったキャサリンの表情は、いつの間にか柔らかく変化していた。
「きっと、婚約自体が結ばれなかったということは、本当に縁がなかったのだと思います。確か件の王女様は国内の侯爵家のご嫡男様とご結婚なされていますし」
キャサリンは他にもなにかを紡ごうとしたが、あえてなのかそれ以上は続けなかった。
「キャサリンさん、……本当にありがとうございます……!」
心からそう思い、安堵で心が充満されるようだ。
加えて、キャサリンのおかげで今週末にロベールと会う際に雑念を抱かずにすむと思った。




