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【電子書籍化】断罪された悪役令嬢を助けたら、宰相閣下に求婚されました【完結】  作者: 清川和泉
第3章 結婚

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第36話 不意打ち

ご覧いただき、ありがとうございます。

「失礼いたします。こちらの資料室の資料を、少々拝見させていただけますか?」

「はい、もちろんでございます。どうぞ」


 エマが返事をした後に、王妃付きの二人の女官が入室した。

 彼女らは以前の騒動の際の女官とは別の女官であり、王妃付きとなって五年以上は経っているベテランの女官である。


 先輩女官の登場に緊張しながらも、エマはキチンと背筋を伸ばして丁寧に迎い入れた。


 すると、一人の女官がエマの左手の薬指に嵌められている指輪の方をチラリと見やってから、棚から資料を探し始めた。

 その指輪は昨日の婚約披露パーティーの際にロベールから贈られたもので、先端の台座には綺麗に耀く石が付けられている。


 なお、勤め中に結婚指輪をあえて嵌めておく女官は多い。それは、以前に気兼ねなく身につけていた女官がおり、その女官を倣って周囲の女官も嵌めたのがきっかけであるらしい。


 それから、王妃付きの女官らは資料を広げて持参の手帳に手慣れた様子でなにかを書き込み作業を終えると、先ほど視線を向けてきた女官がエマに声を掛けた。


「エマさんは先日、宰相閣下とご婚約をなされたそうですね。おめでとうございます」


 思ってもみなかったタイミングで祝福の言葉を受けたので若干思考が鈍ったが、エマはすぐに椅子から立ち上がって頭を下げた。


「ありがとうございます」


 エマがロベールと婚約を結んだことは、おそらく王宮内で働く者であれば知らぬものはいないはずだ。

 なので、このようにあまり面識のない官僚らからも祝福の言葉を受けることはこれまでに度々あった。


「閣下は、今までご婚約者はおられなかったとのことですが、数年ほど前に隣国ブルーズ王国の第二王女であられるアン王女様とのご婚約が決まりかけておいででしたね。ご存知でしたか?」


 瞬間、鼓動が強く波打立った。

 その音は普段よりも鈍く感じ、冷や汗も滲んできた。


「はい。ただそういった話があったということは」

「あら、詳しくは知らなかったのですか? 王女様は、とても聡明でお美しくて完璧な姫君だと評判のお方なのですが」


 完全に知らなかったと言ったら、それは嘘となる。

 何故なら、公爵家の家令であるビクターから直々にその話は聞いていたからだ。

 だが、そういったことがあったと前もって聞いてはいても、他人が当然のように知っているとなると話は変わってくる。


 どうしてもその他国の聡明で美しい王女と、下級貴族の娘であるエマとが同列に考えられるのが、王女に対して申し訳が立たないように思えてくるのだ。


「はい」

「左様ですか」


 女官はとても綺麗な笑顔で応えたが、その実、それが貴族の夫人特有の含みを持った笑顔なのだということはすぐに理解をした。


 そもそも、この場所このタイミングでこのようなことを言ってくること自体が、エマに対してよい感情を抱いていないということだろう。

 そういうヤッカミはこれまでもいくらか受けてはいたが、今回のような直接的なものは初めてであった。


「……それでは、わたくしたちはこれで失礼いたしますね」

「……はい、失礼いたします」


 エマは暗い気持ちが湧き上がるのを何とか抑えようと、右手をぎゅっと握り締めた。


 ◇◇

 

 その日の夕方。

 寮行きの乗り合い馬車を待っていると、丁度前方からキャサリンが歩いて来た。


「こんばんは、エマさん。今お帰りですか?」

「こんばんは、キャサリンさん。今日はこの乗り場なのですね」

「はい。丁度、本宮の方に用事があったものですから」


 図書館勤めのキャサリンは、普段はその近くに設けられた乗り場から馬車を利用しているのだ。

 馬車は決められた時刻に到着することにはなってはいるが、時折到着時間は前後するのである。


 また、現在の時刻は十八時を回っていることもありエマたちの他には待っている者はおらず、ガス灯が周囲を照らしてくれてはいるがどこか物寂しさを感じた。


「エマさん。遅くなりましたが、ご婚約おめでとうございます」


 昨日は、公爵邸にエマの実家の家族共々お世話になったので、寮には帰らず王宮には直接公爵邸から馬車で送ってもらったのだ。

 なので、披露パーティー後では今初めて面と向かってキャサリンと会うことができたのだった。


「ありがとうございます、キャサリンさん」

「ささやかながら、お祝いも用意してあるのですが、……エマさん、もしかして少し元気がないですか?」

「え? ……そんなことはありませんが……」


 図星であったので、何といっていいのか分からず言葉を濁らせてしまった。


「そうですか? ……もし、よろしければエマさん。夕食後に私の部屋にお越しになりませんか?」

「よろしいのですか?」

「ええ、もちろんです!」

「分かりました。お邪魔いたします」


 変わらず優しい笑顔で自分を誘ってくれるキャサリンの心遣いに、エマは先ほどの女官たちとのやり取りで疲弊していた心が少し癒されたように感じた。

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