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第33話 婚約披露パーティー

ご覧いただき、ありがとうございます。

今話から短編のその後のお話が始まります。

 それから二ヶ月後の、九月中旬の日曜日。


 本日は、バルト公爵邸にてエマとロベールの婚約披露のパーティーが開かれている。

 公爵邸には、客として訪れた他の貴族や商人たちが思わず感嘆の息を漏らすほど、職人たちが趣向を凝らした彫刻や家具が室内に置かれている。

 

 そして、本日はその邸宅内でも職人の手業が随一と誇る大広間に、二人の婚約を祝福するために多数の客が訪れていた。


「本日は、お越しいただきまして誠にありがとうございます」


 エマは、スレンダーラインのベージュの絹のドレスに身を包んでおり、ロベールも同色のウエストコートを身につけている。


 また、ロベールの両親はどちらとも穏やかな人柄で、エマは求婚後に公爵邸で開かれた食事会で初めて顔合わせをしたのだが、緊張でどうにかなりそうだったエマのことを夫妻は咎めることはなく、反対に優しく迎え入れてくれたのだった。


「あなたのお話は、かねてからロベールから聞いていたのよ。あなたのような心根の優しい娘さんがきてくれて嬉しいわ」

「ああ。私たちは、落ち着いたら領地内の別邸へと移りその地を管理する予定だが、安心してそちらに移ることができそうだ」


 五十歳を過ぎたバルト公爵は、そろそろ爵位を長男であるロベールに譲り、自分は領地内でも特に公爵家にゆかりのある地を管理しながら、半分隠居生活を送るつもりだとエマに打ち明けた。


 思わぬロベールの両親の歓迎の言葉に、エマは感動のあまりしばらく涙が込み上げてきて、上手く言葉を紡ぐことができなかった。

 

 また、エマは伯母のカレンやテイラー伯爵と相談をし、ロベールとの婚約を円滑に結ぶためにもテイラー家の養子となったのだ。

 もちろん、それは実家の両親とも手紙を通じての相談をした結果である。なお、先ほどの顔合わせの際は、テイラー伯爵夫妻も同席している。


 また、ロベールが重臣らに呼び出されてそちらの席へと向かうと、伯爵家の面々が次々とエマの元へと訪れた。


「エマ、おめでとう。わたくしは心からあなたの幸せを願っているわ」


 カレンの目は赤く、すでに涙を流した後なのだろうか。

 そう思うと、エマも思わず目の奥から熱いものが込み上げてきたが必死に抑えようと努めた。


「伯母様、本当にありがとうございます。わたくしは伯母様にどうやってご恩を返していけばいいのか……」


 言葉を途切らせたエマの背中を、カレンはそっと撫でた。


「その言葉は、結婚式の時までとっておきなさい。それにね、わたくしの行為を恩と感じてもらえるのなら、その恩返しは娘のあなたが幸せになることなのよ」

「伯母様……」


 カレンの言葉を受けて一筋の涙が溢れたが、必死に手元のハンカチで押さえて涙を拭った。


「おめでとう。式を挙げるまでは気兼ねなく我が家に戻ってくるとよい。……もちろん、それ以降も我々は君を歓迎している」

「伯爵様……」


 養子になったとはいえ、まだテイラー伯爵との間にはぎごちなさがあったが、それでもエマは伯爵の情の厚さを知っているので、心が温かくなるように感じた。


 そして今日は、テイラー伯爵家の三人に加えて、なんとジョルジュの婚約者のアニーも同伴しているのだった。


 アニーは赤みがかった茶髪が印象的で、その肌は色白く綺麗に整った顔立ちをしている。

 彼女は温和な雰囲気を纏っており、普段のジョルジュの言動からの「婚約者に遠慮せずなんでも言う令嬢」のイメージからはかけ離れているように思えた。


「ご機嫌よう、エマさん。本日は誠におめでとうございます」

「ありがとうございます、アニーさん。アニーさんとはかねてからお会いしたいと思っていたので、今日はそれが叶いとても嬉しく思います」

「わたくしも、エマさんと予てからお会いできたらと思っていたのです。光栄ですわ」

 

 恐縮しているのか、頬を赤らめてそう返すさまは何だか微笑ましい。


「僕も、君たちが会うことができて本当によかったと思っているよ」


 飄々としたジョルジュの言葉を受けてなのか、アニーの笑顔が引き攣ったように見える。


「ジョルジュ。お言葉ですが、わたくしがこれまでエマさんとお会いすることが叶わなかったのは、あなた様がいつもエマさんのご都合の良い日を間違ってわたくしに伝えていたからです」

「そうだったかな?」

「そうです。まったく、あなた様ときたら。エマさんは試験の勉強でお忙しいでしょうから、あえて約束を結ばずに挨拶をしたいというわたくしの気持ちをいつも……」


 突然、流暢にジョルジュへの不満を紡ぎ出したアニーに唖然とするが、肝心のジョルジュは相変わらず飄々としている。

 これは確かにイメージ通りだなと思いつつ、止めた方がよいのだろうかとも思った。


「そうだったんだ。ごめんね、アニー。でも、君はいつもそう言って僕を嗜めてくれるからありがたいと思っているんだ」

「……! そ、そうなのですか?」

「うん。いつもありがとう」


 ジョルジュの言葉に、言ってやりたいという気持ちが収まったのか、アニーはコホンと小さく咳払い私してエマの方に視線を戻した。


「エマさん、お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ありません」

「いいえ、そんなことありません。それに、以前にクッキーの贈り物をいただきましてありがとうございました。とても美味しくいただきました」

「そう仰っていただき恐縮です! 本日は誠におめでとうございます」


 アニーが辞儀をすると、ジョルジュも倣って辞儀をした。

 一見するとアニーがいいたいことを言っているように思えるが、それはあくまでアニーの言葉をジョルジュが受け止めてくれるという信頼があるからできることなのだろう。

 二人は再来月に結婚するということだが、心から好ましく思った。


(きっと二人であれば、温かい家庭を築けるはずだわ)


 そう思うと、自分はテイラー家の養子になることができて、改めて幸運だったのだとエマは改めて思ったのだった。

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